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鈴木寛の「2020年への篤行録」 第15回 世代別選挙区導入の論議を

2014.12.07 Vol.632

「民主主義は最悪の政治形態と言うことが出来る。これまでに試みられてきた民主主義以外のあらゆる政治形態を除けば」。有名なチャーチルの名言ですが、これは第二次世界大戦終結から2年後の1947年の下院演説で語った言葉でした。独裁体制のナチス・ドイツ相手に苦闘し続けた体験、そして冷戦期の始まりでスターリン体制のソ連が新たな脅威になりつつある国際情勢が、こういう皮肉めいた言い方で民主主義を評させたのでしょう。

 この言葉の前段には「民主主義が完全で賢明であると見せかけることは誰にも出来ない」。チャーチルは先見性に優れていた政治家です。早くからナチスの脅威を予告し、首相になる前の政権が宥和的な外交政策を取ることについて反対していました。やがてその予測は的中し、国の危機感が高まったところで彼は政権の座に就くわけですが、独裁国家に大戦で勝利した後、今度は民主主義の機能不全をまるで予見していたかのような言葉に彼の達見ぶりを見て取れます。

 議会制民主主義は民意を反映した政治を行い、独裁的な権力行使を抑制することにメリットがあるわけですが、現代社会のように社会が複雑化し、有権者の価値観が多様化してくると、その世相を反映したように議論が堂々巡りになり、意思決定が滞る、あるいは自分たちの利益を適格に代弁する代表者がいなくなる、という事態に陥ります。まさに民主主義の弱点です。かつて日本の国会で衆参の多数派が分かれた「ねじれ国会」もそうですし、近年では米国議会が連邦債務の上限引き上げを巡って紛糾し、デフォルト寸前まで至ったのが典型的な事例でしょう。そして今は人種を巡る問題で全国的な暴動に直面しています。

 日本でも衆議院が解散し、総選挙が2日からスタートしました。この原稿が掲載される頃には選挙戦は中盤でしょうか。しかし争点が見えづらい選挙と言われ、報道各社の世論調査を見ても解散に納得しない方が6、7割に達します。若者は財政や社会保障制度破たんの可能性を含め、本音の議論を聞きたいのに、各政党は多数派の高齢世代のマーケティングに終始しています。それがまた若者を失望させ選挙から遠ざけてしまう負の連鎖になっています。

 地域別で利害を調整する意味で選挙区がありますが、いっそのこと東大の井堀利宏先生が提唱する年代別選挙区の導入により、各世代の利益を代表する議員を送り出すようになれば政治への関心も回帰するかもしれません。ネット投票を自宅で出来るようにするようにもなれば、選挙の風景は一変しそうですが、まだまだ五里霧中です。しかし、この国に彷徨っている時間は無いのですが。。。

(東大・慶大教授、元文部科学副大臣、前参議院議員)

鈴木寛の「2020年への篤行録」第14回 話題沸騰 G型大学、L型大学

2014.11.10 Vol.630

 このたび文部科学省の参与に着任いたしました。東大と慶応大の教授を兼務していますので一度ご辞退申し上げたのですが、学識経験者として非常勤でも構わないということでした。それでも悩んでいたのですが、親しい大学のトップクラスの方々、小学校や中学校など信頼できる現場の皆様にご相談したところ、「文部科学省の中に入って政策の質を上げてほしい」「現場を知っているすずかんにこそ中に入るべき」との声に後押しされました。

 下村大臣からのオファーは、文科省の諮問機関である中央教育審議会(中教審)の安西祐一郎会長と、安西先生を脇で支える文科官僚諸君の「チーム安西」をサポートしてほしいとのことでした。大学入試制度改革やフリースクール・不登校問題などの課題に取り組んでいきます。

 さて、私の「文科省復帰」が公表された先月下旬、経営コンサルタントの冨山和彦さんが安倍総理に提起した今後の大学のあり方が経営者や教育関係者の間で大変話題になりました。プレゼン資料(我が国の産業構造と労働市場のパラダイムシフトから見る高等教育機関の今後の方向性)によると、これからの大学は2つの方向性、すなわち情報産業や製造業等グローバルで勝負する人材を育てる「G型大学」、介護・外食・流通・観光など内需型経済で働く人材を育てる「L型大学」にカテゴライズされるべきとのこと。特に皆さんの注目を集めたのは「L型大学」では、「学問よりも実践力を養うべき」として学ぶ内容の転換を提言していることです。例えば経済・経営系の学部なら「ポーターの戦略論ではなく簿記・会計や会計ソフト」、あるいは工学部なら「機械力学や流体力学ではなく、トヨタ自動車で使われる最新鋭の工作機械の使われ方」というような具体例も示しています。

 私は世の中が求めている人材は3つの型があると考えます。このどれかというのではなく、下記のA、B、Cの要素を組み合わせて、それぞれの若者にあった人生設計を考えていく際の参考となる枠組みとしての話です。1つは人類に新しい価値を創造する「A型」。本田宗一郎さんのような先駆的経営者、山中伸弥さんのようなエポックメイキングな科学者が象徴例です。2つ目は日本で成功した技術やサービスをアジアに輸出する「B型」。こちらは技術力に優れ、異文化コミュニケーションが得意な人材。たとえば、製造業、コンビニ、学習塾、交番、専門学校、病院、鉄道、住宅など日本発祥で他国にも認められるものを、新興国の発展にそれを伝え、活かしていく人材です。「C型」は、高齢化するなかで、医療・介護・観光などソーシャルヒューマンサービスに適した人材、すなわち、世代や立場をこえて相手の立場にたってコミュニケーションできる人材が求められます。

 このA、B、Cのポートフォリオがそれぞれの大学・学部が、社会から求められる比率が異なるということだと思います。例えば、東大医学部も、A型の基礎研究でノーベル賞を目指す学生もいれば、B型の日本の臨床技術を薬や医療機器や病院の輸出の形で国際貢献することをめざす学生もいれば、C型で、将来、地域医療に従事し、また、地域ごとの医療政策に深く関与することをめざす学生もいますので、そのバランスが、それぞれの地域特性、社会状況によって、異なるということだと思います。A,B,Cいずれも大事な仕事です。

 そうなると、冨山さんが言うように「L型大学では六法を広く浅く学ぶ法学部の必要性は低くなる」ではなくて、私なら超高齢化社会を見据え、法学部ではなくむしろ地域医療福祉関係の学部をしっかり整備し、医療や福祉の知識や技能を磨き、合わせて、その学部のカリキュラムのなかで関連法も合わせて徹底して学ぶ体制づくりをし、C型人材の育成に注力すべきと考えます。

 少子高齢化、人口減少、労働生産性、地方創生——大学全入時代にあって、日本社会が直面する課題を解決する人材づくりをどうするか、グランドデザイン作成がいままさに求められています。このタイミングで文科省に復帰した私も、これまでの知識、経験をフル活用して取り組んでいくつもりです。
(東大・慶大教授、元文部科学副大臣、前参議院議員)

鈴木寛の「2020年への篤行録」 第13回 東京オリンピックのソフトレガシー

2014.10.13 Vol.628

 先日、神戸新聞から「関西で東京オリンピック・パラリンピックについてできることとは?」というテーマのコラムをオファーされました。私は神戸の出身で、その地元紙からのたっての願いということで喜んでお引き受けしました。しかし反面、そういった種類の原稿を書く依頼が来た背景を考えると、2020年東京オリンピック・パラリンピックに期待を寄せる「温度差」「地域差」を感じてしまいました。

 どうしても東京との距離が心理的にあるのでしょう。加えて、私も半分は関西人の気質があるので、よく分かるのですが(笑)東京に対する関西独特の対抗意識も影響しているのかもしれません。しかし、改めて言うまでもなく2020年の大会は、東京だけでなく、日本を挙げてのプロジェクトです。都民だけでなく、全国民が一体となった機運が生まれなければ、世界中に大会の熱を伝えることはできません。

 心の距離を埋めて、オリンピック・パラリンピックを「自分事」にしてもらうには、どうすればいいのか、私なりに思案しコラムを書いてみました。東京の読者の皆さんが、神戸新聞を読む機会はほとんどないでしょうから、概略を説明しましょう。関西の方々が今一つ乗り気になれない要因として、国際的なスポーツ大会開催の意義を、インフラや経済効果のような「ハードレガシー」でしか位置付けられないような、高度成長期の価値観にとらわれているのではないかと指摘しました。そこで私は、大会がもたらす「ソフトレガシー」にもっと目を向けるように提案しました。ソフトレガシーとはスポーツを通じた社会教育基盤や、心身の健康を保つためのコミュニティのことです。

 1964年の東京オリンピックに際し、日本中に誕生したのが日本スポーツ少年団でした。野外活動やレクリエーションを通じて、子どもたちの健全育成をしてきました。あれから半世紀が経ち、Jリーグ創設があって地域の総合型スポーツクラブが各地に誕生し、スポーツ基本法制定による後押しも加わって、スポーツのコミュニティが着々と増えてきました。今度は2020年大会を機に、ライブでリアルタイムに各国選手団の活躍を見ることができますから、そうしたソフトレガシーの基盤はさらに整う流れになります。キャンプ地は、全国1700の自治体どこにでも可能性はあります。2002年のサッカー日韓W杯では、カメルーン代表のキャンプ地となった大分・旧中津江村が話題になりました。

「見る」だけでなく、「する」レガシーもあります。コラムでは関西の事例として、元ラグビー日本代表の平尾誠二さんが理事長を務めるNPO法人「スポーツ・コミュニティ・アンド・インテリジェンス機構」(神戸市)を紹介しました。この法人は名門・神戸製鋼ラグビー部の人材や地域のリソースを総動員して、ラグビーの指導から指導論・人材育成の座学まで幅広い層の人たちに展開しています。

 開催地である東京でもソフトレガシーの意義を見落としています。多摩地区ではしばしば「オリンピックの効果が実感できない」という声を聞きますが、キャンプ地に関していえば地方よりも立地条件は恵まれています。選手団との交流は街の歴史に誇るべき出来事になり、触発された子どもたちの視野を大きく広げるきっかけになるのです。
(東大・慶大教授、元文部科学副大臣、前参議院議員)

鈴木寛の「2020年への篤行録」第12回 パリで羽ばたいた東北の子どもたち

2014.09.15 Vol.626

 8月下旬、パリで開催された「東北復幸祭〈環WA〉」に行ってきました。岩手、宮城、福島の中高生が参加した「OECD東北スクール」の生徒たち100人が、世界中に東北復興のアピールと支援への感謝を込めて、2年半をかけて準備してきた一大イベントです。フランス政府とパリ市のご厚意で、なんとエッフェル塔前のシャンドマルス公園を会場に15万人もの方々が来場していただきました。

 OECD東北スクールは2011年春、OECD教育局の皆さんが被災地への教育関連の支援で何ができるか視察のために来日された際、当時文科副大臣だった私の提案もあって始まったプロジェクトです。肝は20世紀型の教育に戻すのではなく、22世紀型の教育を先取りした「創造型復興教育」。私は来日したOECDの皆さんに対し、「亡くなった2万人の御霊にこたえるためにも、残された子供たちがこの地域をもう一回、しっかり盛り立てていくことが最大の供養になる」と申し上げました。OECD教育局は先進各国の教育への取り組みを調査、研究し、教育改革の推進や教育水準の向上を図ることを目的としていますが、世界に先駆けようという前代未聞のプロジェクトです。しかし幹部の方が「日本から始めてみようじゃないか」と提案に乗ってくださいました。そして、震災から1年後の2012年3月、被災3県の生徒たちが集まって、授業が始まります。初回は池上彰さんにファシリテーターを務めていただいて学習意欲を高めてもらいました。目指すは2014年9月、パリで開催するイベントを成功することです。

 生徒たちは企画から実行準備を原則、自分たちの手でやってきました。イベントのスポンサー集めでも企業を回ってプレゼンをしました。熱意に動かされ、経済同友会や楽天、ユニクロ等の大手企業も多数賛同してくださいました。プロジェクト・ベースド・ラーニングを通じ、リーダーシップや企画力、想像力や建設的な批判思考力(クリティカルシンキング)、交渉力などを培い、今後10年、20年の長きに渡る復興の立役者になってもらいたいというのが、OECDや私たちの思いでした。

 イベントでは、津波の高さと同じ26.7メートルに設定したバルーンを飛ばし、津波被害の広がりをイメージしたドミノ倒し等、被災状況を分かりやすく伝える工夫もされました。そして南三陸・戸倉地区の鹿子躍りといった伝統芸能や、「さんまdeサンバ」と銘打って郷土の水産資源のアピールをするフラッシュモブ等の企画も行い、来場した皆様の歓心を得ていました。
 今回の取り組みを通じて、一番うれしかったのは生徒たちの成長を劇的に後押ししたことです。途中、感想を提出してもらっていたのですが、被災直後は茫然自失だったという生徒も、「津波にのまれた過去を乗り越えて、この体験を情報としてみんなに話し、それに前向きに考えて行動することができた」と語るなど精悍になっていきます。なにぶん3年近くも一つのプロジェクトに関わるのは大人でも少ないこと。18歳の参加者には人生の6分の1、15歳には5分の1をも占める「長期間」です。それだけでも濃密な体験になったか分かります。この2年半、生徒やスタッフを支え続けたOECD本部教育局のプロパー職員の田熊みほさん、文部科学省の南郷市兵さんの尽力が光ります。

 幕末の薩長の若者たちもまさに時代に荒波を乗り越えて、たくましく育ち、明治維新の原動力になりました。国難はピンチでありながら、人を鍛え、大きくするチャンスでもあるのです。今度は21世紀の東北、日本を支え、リードする人材が、この参加した100人から輩出されるものと期待しています。

(東大・慶大教授、元文部科学副大臣、前参議院議員)

都知事選をどう見るか【鈴木寛の「2020年への篤行録」第3回】

2014.01.05 Vol.608

 あけましておめでとうございます。去年は東京オリンピック・パラリンピック招致に沸きました。本年もスポーツのビッグイベントが目白押しですね。まず来月のソチ五輪。フィギュアスケートの代表選考は大変な注目を集めました。個人的には、浅田真央選手の悲願の金メダルに期待を寄せています。そして6月にはブラジルでサッカーのW杯が開幕します。日本代表が一時勝てない時期が続きましたので不安の声も上がりましたが、11月にオランダ、ベルギーとの親善試合で結果を残したことで「反転攻勢」のムードです。予選グループの組み合わせも悪くはなく、初のベスト8以上の結果を残してほしいと思います。

 浮かれてばかりもいられません。東京オリンピック招致関連では、国立競技場の改築については、予算も含め昨年末に決着し、いよいよこの春から取り壊し、工事が始まります。問題は、組織委員会。2月に発足の予定でしたが、ご存じの通り、都知事の辞職により、立ち上がりに遅れが生じるのは必至です。そもそも招致決定後から悪い予感がしていました。いまだに組織委のトップである委員長が決まっていないのです。そもそも昨年11月にIOCのバッハ会長が来日した時点で委員長の内定者が出迎えねばなりませんでした。そうした中で、前知事の不適切な金銭授受が発覚。後はご存じの通りの展開です。国際的にも開催地としての名誉に傷が付いたことは大変遺憾に思います。

 都知事選は2月9日。ここ十数年、最後に出てきた候補が勝っているので、候補者が名乗りを上げるのが遅くなることが予想されるため、有力候補者が出そろうのは早くても今月中旬でしょう。国政選を凌駕するテレビ選挙なので知名度に焦点が当たりがちですが、オリンピック・パラリンピックを起爆剤に2020年代以降の東京の街づくり、人づくりをしていける実力のほどを私たち都民はしっかり吟味せねばなりません。たとえば高齢化。都の予測によると、オリンピック開催年には、4人に1人が高齢者となります。社会保障費の膨張を抑える中で介護や医療をどう拡充させるか、一人暮らしの高齢者を支えるコミュニティをどう醸成させるか……課題は山積しています。

 次期知事はオリンピックのホスト役を務める可能性が高そうです。それは同時に21世紀の東京の基盤を固める役目。今度の都知事選は近年まれにみる重要性があると思います。

(元文部科学副大臣・前参議院議員)

鈴木寛の政策のツボ 第一回「コンクリートから人へ」ついに実現!!

2011.03.07 Vol.500

 

「コンクリートから人へ」ついに実現!!

 皆様、こんにちは。参議院議員の鈴木寛です。

 このコーナーでは、政策に関するお話、特に、マスコミ等ではあまり触れられることのないお話をさせていただければと思っています。

 早速ですが、政権交代により予算配分構造が劇的に変わったことは、ご存知でしょうか。政権交代後の二度にわたる予算編成で、社会保障関係は16%増、文教・科学振興関係は6%増、公共事業関係は30%減と大幅な組み替えを行い、平成23年度一般会計予算では、文部科学省の予算も平成23年度には5兆5428億円となり、初めて国土交通省の予算5兆193億円を逆転しました。

 これまでは、予算をはじめ政府の重要政策は実質「事務次官会議」で決められてきました。同会議では各省全会一致主義がとられており、予算額を減らされる側の省庁の事務次官は反対するため、各省の予算額の順位が変わることはありませんでした。しかし、政権交代により、「事務次官会議」は廃止され、国民主導の政策づくりが行えるようになりました。

 文部科学省予算が国土交通省を上回ったのは、国民の皆様の声を政治家が直接受け、それを政治主導で予算編成したからです。今回の予算編制においては政策コンテストを行った結果、国民の皆様から全体で36万通のメールが寄せられました。そのうち、「教育や研究予算を充実してほしい」という28万通もの切実な声をいただきました。その結果、30年ぶりに小中学校の一学級の人数を40人から引き下げる「35人以下学級」の実現に小学校第1学年から着手することとなりました。

 また、大学については、法人化後削減され続けてきた国立大学の基盤的な経費の削減をストップするとともに、国・私立大学の授業料減免は9000人増の7万5000人、科学研究費補助金は一部基金化するとともに、制度創設以来最高となる633億円(32%)増の2633億円を計上するなど、大学の教育・研究活動を支える予算を充実しています。

 我が国のこれまでの発展を支えてきたのも、また今後の発展の礎となるのも「人と知恵」です。資源小国である我が国においては、教育、科学技術・学術、スポーツ、文化芸術の振興を通じたソフトパワーの増進こそがまさに国家戦略そのものであることを念頭にさらに邁進してまいります。

(参議院議員/文部科学副大臣)


※政策について触れてほしいテーマやご質問がございましたら、編集部までご一報ください。

 

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