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ココロに響く音。『天声ジングル』相対性理論

2016.04.26 Vol.665

 

 音楽やパフォーマンス、アートワークなどさまざまな表現スタイルを通じて、独特な世界観を創り上げるとともに、多くの支持を集めている相対性理論が最新フルアルバムを完成させた。収録曲は全11曲。なかには2014年に惜しまれつつも閉館した吉祥寺の映画館バウスシアターが解体される直前に館内で行ったシークレットレコーディングからスタートした楽曲『弁天様はスピリチュア』など、注目の曲も含まれている。今作もまた不思議な感覚で包みこみ、これまで感じたことがないような別世界を体験させてくれる作品になっていることは間違いない。レコーディングとミキシングは、やくしまるえつこ作品でおなじみの米津裕次郎、マスタリングはテッド・ジェンセンが担当している。

 

子供がいない私は、誰に看取られる?『子の無い人生』【著者】酒井順子

2016.04.23 Vol.665

 30代の既婚女性と未婚女性の壁を“勝ち犬”“負け犬”という言葉で鮮やかにぶった切った大ベストセラー『負け犬の遠吠え』から12年。未婚・子なしの著者・酒井順子が未産女性について描いた『子の無い人生』が、負け犬から脱却できない女性たちをざわめかせている。

 結婚していなければ単なる“負け犬”と思っていた著者は40代になり悟ったという。曰く、人生を左右するのは、「結婚しているか、いないか」ではない、「子供がいるか、いないかなんだ」と。子供を持つか(持っているか)持たないか(持っていないか)というのは、とてもデリケートな問題なので、かなり慎重に扱われているものの、未産女性にはひしひしと感じるのだ。世間からの「子供がいなくてかわいそう」「子供ってこんなにいいものなのに何故生まないの?」「女性に生まれたからには、生むべきだと思う」「子供がいると自分も成長できるよ」。はっきりとは言われない。言われないが、感じてしまうのだ。それを被害妄想と言う人もいるかもしれないが、多くの未産女性はそれに気が付かない鈍感な振りをしてやり過ごしている。

 人にはそれぞれ事情というものがあるが、こと子供に関しては、それも考慮されない破壊力がある。著者は、そんな世間の風潮から、ママ社会、世間の目、自身の老後など、子供を持たないことで生じるあれこれを、冷静に分析、真正面から斬っていく。卑屈になることもなく、かといって開き直るわけでもなく、40代、50代の未産子なし族の気持ちを代弁してくれる。『負け犬の遠吠え』が大ヒットしたのは、「そうなの、そうなの」という膝を何度も打つ、女性たちの本音が書かれていたから。その“負け犬”は、ちょうど“子あり”か“子なし”に(この先も)分かれる年代に差し掛かっている。“負け犬・子なし”の人生の行く末は? 同書を読めば共感とともに、ある種の勇気がわいてくるだろう。


【著者】酒井順子【定価】本体1300円(税別)【発行】KADOKAWA

最愛の娘を殺した母親は、私かも知れない。『坂の途中の家』【著者】角田光代

2016.04.13 Vol.664

『八日目の蝉』『紙の月』など登場人物の心理描写が巧みで、時に読むことが苦しくなる角田光代の最新刊『坂の途中の家』。

 幼い娘を虐待死させた事件の補充裁判官になった理沙子は、裁判で母親をめぐる証言や同じ裁判員たちの言葉を聞くうちに、被告と自分の境遇を重ね合わせていく。被告の夫や義父母の証言、友人が語る被告像は、どれも自分のこれまでの人生と変わりがないように思う。表面的には些細な違いもあるが、確かに被告はかつての自分であり、今の自分だ。そんな小さな思いが、裁判を重ねるたび大きくなり、自分では気が付かなかった、もしくは目をそむけていた事実を認めざるを得なくなっていく。そして愛していると揺るぎなく思っていた娘に抱く疎ましいという感情が心の中でずっとくすぶり、理沙子の精神を追い詰めていく。夫も義父母も子育てには協力的だが、言いようのない孤独と不安は、理沙子に付きまとい、どんどんと増殖していく。

 子どもを持った母親ならそんな感情が理解できるだろう。それどころか、その時のことを思い出して恐怖を感じるかもしれない。しかし、男性や子どもを持ったことのない女性にも、息苦しさや不安な感情が伝わってくる。それは著者の巧みさのなせる技で、無償の愛とエゴを併せ持つ人間の本質を描き出しているからに他ならない。「社会を震撼させた乳幼児の虐待死事件と“家族”であることの心と闇に迫る心理サスペンス」と帯に書かれているが、家族の光と闇を浮き彫りにし、波風の立っていない表面上にある日常の中にある闇をえぐるサスペンスである。のぞきたくはないが、同書を読めばその闇の正体がはっきりするかも知れない。

心のダメージ克服でがん寿命が延びる『がんでも長生き 心のメソッド』

2016.03.30 Vol.663

 がん患者の心がV字回復するメソッドのすべてを初めて公開した『がんでも長生き 心のメソッド』が好評発売中。日本ではまだ珍しい精神腫瘍科(がん患者専門の精神科)の医師である聖路加国際病院の保坂隆医師に、コピーライターであり、2014年にステージ4の乳がんを告知された今渕恵子氏が、自らの体験をもとに心のケアの必要性とそのメソッドをインタビュー。がん患者の7割の心をラクにする2つの基本、「がんは高血圧や糖尿病と同じ慢性疾患のひとつにすぎない」「日本人の2人に1人はがんになる時代。でもがんで死ぬのは10人に3人」をはじめ、「肉体的な痛みは99.9%コントロールできる」「がんは第2の人生の始まり」など、目から鱗の事実をQ&A方式で分かりやすく解説。

『陽だまりの天使たち ソウルメイトII』【著者】馳星周

2016.03.28 Vol.663

 デビュー作『不夜城』をはじめ、ノワール作品のイメージが強い馳星周の犬にまつわる短編集の第2弾。章のタイトルにはトイ・プードル、ミックス、ラブラドール・レトリバーなど、犬の名前がつけられ、その犬種の犬と人間との出会いや別れ、絆を描く。

 病に侵された少女が捨て犬の譲渡会で出会ったトイ・プードルのダンテ。決して人間に懐かなかったダンテと運命的に出逢い、一緒に暮らすことになった少女は固い絆で結ばれ、両親すらも入り込めない信頼関係を築く。楽しい時間を過ごす1人と1匹だが、少女の病気が再発して…「トイプードル」。

 仕事も家庭も失った男が、死に場所を求めさびれたキャンプ場を訪れた。するとそこに、捨てられたとおぼしき1匹のみすぼらしいフレンチ・ブルドッグが現れる。とりあえずあり金をはたいて、ぶひ子と名付けたその犬にエサを与えていると、男の心に今までに感じたことがない感情が湧いてきて…「フレンチ・ブルドッグ」。

 その他5つの本編も、感涙必至のストーリー。犬という魂の伴侶(ソウルメイト)が、人間を導き、癒し、時には人生の方向性まで示してくれる。犬には過去も未来もない。今を生きているだけ。しかしその姿が人に気づきを与えてくれるのだ。書き下しの巻頭詩「いつもそばにいるよ」も必見。犬を飼っている人は切なさで涙が止まらなくなるかも。1ページ目から、犬との生活の素晴らしさとやがてくる別れの切なさが心を震わせる。犬が教えてくれる愛する気持ちと、愛される喜び。そしてソウルメイトとして結ばれる絆は永遠だ。

【定価】本体1600円(税別)【発行】集英社

その絆は揺るがない『リトルプリンス 星の王子さまと私』

2016.03.18 Vol.662

 1943年に出版されて以来、時を超えて世界中で愛され続けているサン=テグジュペリの名作「星の王子さま」。その出版から72年、サン=テグジュペリ・エステート(権利管理者)が初めて認可した「星の王子さま」の“その後”を描いた物語。勉強ばかりで友達のいない9歳の女の子は、ある日隣りの家のおじいさんから「星の王子さま」の物語を教えてもらう。しかし、ある日おじいさんが病気で倒れてしまう。女の子はおじいさんの願いを叶えようと、飛行機に乗って王子さまを探す旅に出る…! 日本語吹き替え版では瀬戸朝香、伊勢谷友介ら豪華な声の出演陣が集結。

販売元::ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント 3月23日(水)発売 
【初回仕様】ブルーレイ&DVDセット3990円(税別)

新しいスタートにぴったりな音「勇気も愛もないなんて」NICO Touches the Walls

2016.03.15 Vol.662

 人気4ピースロックバンド、NICO Touches the Walls(ニコ・タッチズ・ザ・ウォールズ)の最新アルバム。ベストアルバム、アコースティックアルバムといった挑戦作を経ての作品で、オリジナルとしては3年のインターバルが空いた。『渦と渦』『まっすぐなうた』『TOKYO Dreamer』などシングル曲を軸に全11曲を収録。タイトルの『勇気も愛もないなんて』にはその後に何らかの強いメッセージが隠されているようで、全体的アッパーかつハイテンション。うだうだしていたら、後ろからバシッと背中を叩かれ、前に一歩進んでしまった印象を受ける。「新しい」に囲まれがちな時節。最高の音かも。

『「穴あけ」で難関資格・東大大学院一発合格!』 河合薫

2016.03.13 Vol.662

 気象予報士としてニュースステーションなどに出演していた河合薫が画期的な勉強本を出版。受験生や資格取得を目指す社会人に注目されている。

「この勉強法はノートの左半分に自分で穴を開けた問題を書き、右半分にその答えを書くというとてもシンプルなもの。高校受験の時、帰国子女だった私は、現代国語が360人中359番という成績で、大学入試も進路変更を余儀なくされるほど。そこで編み出した勉強法が、その後の人生でもとても役に立ったので、少しでも参考になればと本を書きました」

 同勉強法で大学受験、国際線CA、第1回気象予報士、東大医学系大学院学術博士と難関大学や企業、資格を突破。それを生かせる分野で活躍している。
「実はこのやり方は、大人であればあるほど、知識を深められる。大人は穴あけ問題を作る時に、“どうしてそうなるんだろう”“この言葉の意味は?”など、疑問を持ちます。それをどんどん書き足していくと、その問題の周辺情報が広く分かると同時に、深く掘り下げた知識を得られる。私はこれを“知識のアメーバ化”と呼んでいます。それにより取得した“生きた資格”は実践でも非常に役立ちます」

 今、働いている人にこの勉強法をどのように活用すればいいのかアドバイスを。

「20代、30代前半は仕事の基礎知識を作る時期なので、この本の前半部分の問題を作るところから始めてみてください。教科書を選び、毎日5分でいいから問題を作ることをルーティン化する。毎日の積み重ねが大切です。30代半ばの人は、3年間でいいので死ぬほど頑張れと(笑)。とにかく1章から3章までを必死にやって、知識を自分のものにしてほしいです。30代後半から40代の方は、3、4章目のアナロジーと企画の立て方を参考にしていただければ。そこに皆さんがやりたいと思っていることのヒントがあると思います」

いま、職場を、仕事を楽しめない人にとって必読の本だと思います

2016.03.13 Vol.662

 女子大を卒業後、吉本興業に入社し、故・横山やすしのマネジャーを務め、宮川大助・花子、若いこずえ、みどりを売り出した伝説のマネジャーの奮闘記。吉本興業といえば、言わずと知れた関西の大手芸能プロダクションで、現在では女性社員も多くかかえる大企業だが、1985年、著者が入社した時は、バリバリの男社会。右も左も分からないまま入社した著者は、初めて経験する事、信じられないトラブルに直面してもそれを笑顔とガッツで、そして時々涙を流しながら乗り越える。失敗も数多くやらかすが、その失敗を帳消しにするぐらいの仕事をやってのける。

 しかし、ついに衝撃の事態が。べろべろに酔っぱらって仕事をしていたやすしを著者はセットの後ろに連れ込み殴ってしまったのだ。その後どうなったのか…は同書を読んでもらうとして、業界素人の女性がそこまでやったのは、仕事に対する責任感だけではない。仕事を、会社を、そして芸人を愛していたのだ。もちろん横山やすしも。手が付けられないほどの人物であったが、その才能を、そして根底にあるチャーミングな部分をとても好きだったのだと思う。でなければ、酒のせいで訳が分からなくなっている状態のあんな破天荒な人を、殴ることはできない。若い女性マネジャーの奮闘記にして、“仕事とは”“働くとは”ということを考えさせられる一冊。

『吉本興業女マネージャー奮闘記「そんなアホな!」』
【著者】大谷由里子
【定価】本体800円(税別)
【発行】立東舎

それでもごはんの時間はやってくる『考えない台所』

2016.02.23 Vol.661

 予約の取れない料理教室の先生が教える人生を変える台所術の本『考えない台所』が好評発売中。毎日時間に追われている、台所が汚いことにストレスをためている、料理がうまく作れないことに絶望している、毎日の生活にどこか後ろめたさを感じている…。そんなキッチン周りの悩みにこたえる同書は「正しいルールを知って、効率的に台所仕事をこなすための本」。作業時間もさることなら、献立作り、買い物、調理、収納などなど、気が付くと1日中料理のことを考えている人も少なくないはず。マインド編、準備編、調理編、冷蔵庫編、収納・片づけ編、道具編と考え方から、具体的な解決法、そして実践するためのコツや要領を丁寧に解説。付録の仕込み&栄養満点レシピも時短を助けてくれる。これを読めば、1日1時間自由になれる!?はず。

 

あの名作落語にはこんな続きがあったのか—?『えんま寄席 江戸落語外伝』

2016.02.22 Vol.661

 落語好きなら一度は思う「あの噺の続きは?」「あのサゲ(オチ)はなんか腑に落ちない」といった着想からヒントを得た『えんま寄席 江戸落語外伝』。「芝浜」「子別れ」「火事息子」「明烏」という落語の名作の登場人物が死んだあと、地獄の入り口で閻魔様に天界行きか地獄行きかを裁かれる時に、落語には出てこなかった“その後”や“サイドストーリー”が明らかになっていくという構成。これが、目まぐるしく変わるストーリー展開と、人物たちの意外な関係性により、話がどんどん膨らんでいき、実に面白い。

 酒癖の悪い旦那を更生させ、立派な魚屋にした「芝浜」の女房。大店の女将としてその後も旦那を支え続け、めでたしめでたしとなったのか…と思いきや、閻魔様があの落語のサゲとなったその後の顛末を暴き、実はこの夫婦の関係は落語のようなものではなかったことを白状させる。さらに、実はこの女房「火事息子」の藤三郎とも何かしらつながっていて…と、一話完結ではあるものの、他の章のストーリーにもつながっているというなんとも高度な技で、ぐいぐいと引き付ける。

 そして第4席「明烏」の浦里の章では、「明烏」のほか、「品川心中」「幾代餅」「五人廻し」「三枚起請」「紺屋高尾」といった要素がふんだんに散りばめられていて、落語ファンなら思わずニヤリとしてしまう。もちろん、落語を全然知らない人でも楽しめる地獄エンターテインメント(?)なのでご心配なく。逆にこの本を読めば、落語に興味が出てきて、これらの噺を聞きたくなるかも。本を読んでから、落語を聞いて、また本を読むと1回目の読後とは違った楽しさを発見できるはず。

『えんま寄席 江戸落語外伝』著者:車浮代
【定価】本体1500円(税別)【発行】実業之日本社

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