何百年経っても色あせない作品たち『マクベス』

2016.05.21 Vol.667
 狂言師の野村萬斎は世田谷パブリックシアターの芸術監督に就任以来、シェイクスピアを能・狂言の手法を用いて演出することに取り組んできた。  これまで『まちがいの狂言』(2001年初演)では狂言の手法で『間違いの喜劇』を、『国盗人』(2007年初演)では『リチャード三世』を日本の戦国時代に置き換えた演出で、そして今回再演する『マクベス』と3作品を上演。中でもこの『マクベス』は萬斎が1994年〜95年に文化庁新進芸術家在外研修制度でロンドンに留学していたときから構想を温めてきたもの。大胆な構成と演出を施し、原作では20人以上いる登場人物を5人に絞り、ミニマルな作品に仕上げている。  2010年に初演し、3度目の再演。今回マクベス夫人を演じるのはシェイクスピア初挑戦となる鈴木砂羽。シリアスからコミカル、映像に舞台にと幅広い役柄をこなす鈴木がどんなマクベス夫人を見せてくれるのか。  また今回は音楽監修に尺八演奏家の藤原道山を迎え、シェイクスピア×和楽器の生演奏という新しい試みを取り入れる。大きく進化した萬斎版『マクベス』が見られそう。

演劇は常にチャレンジだ!!『あなたがいなかった頃の物語と、いなくなってからの物語』ロロ

2016.05.09 Vol.666
 東京芸術劇場の若い演劇人をピックアップし世の中に紹介していく試みである「芸劇eyes」。その番外編として2011年に開催された『20年安泰。』に参加したロロ。  作・演出の三浦直之は青春期の「ボーイミーツガール」的な衝動を漫画・アニメ・小説・音楽・映画などジャンルを越えたカルチャーをパッチワークのように紡ぎ合わせる手法で物語化。汚れ切ったおっさんとかおばさんにはちょっと気恥ずかしいんじゃないかという気もさせたその世界観ではあったが、死や別れという逆方向の要素をうまく取り扱うことによって、最近ではそんな気恥かしさを感じさせない作品になっている。  昨年の本公演『ハンサムな大悟』でも、それまでの作品のテーマ性はそのままに、ひとりの男性の誕生前から死後までをたどる“一代記”というスタイルを取るなど新しい試みにチャレンジ。第60回岸田國士戯曲賞最終候補にノミネートされるなど、彼らの作品が着実に浸透していることをうかがわせた。  今回は伊東沙保、西田夏奈子、古屋隆太といった個性の強い客演陣を迎え、語り継ぐことに焦点を当てた“不在の物語”を描き出す。

演劇は常にチャレンジだ!!『愛情の内乱』ティーファクトリー

2016.05.09 Vol.666
 演劇生活30周年以降、新しい文体を模索することを目的に新作を書き下ろし続けている川村毅。2014年から吉祥寺シアターと提携して、今まで取り上げてこなかったものや、避けてきたかもしれないテーマに積極的に取り組んできた。  今回の作品は初めて「母/家族」をテーマに、白石加代子を主演に迎えた「現代の大衆悲喜劇」。  舞台はとある地方の広い家、時は遠い未来の誓い過去。母と次男と謎の家政婦が暮らす家に、この一家に興味を持つ男が「ドキュメンタリーを撮りたい」とやってくる。そこへ戦争帰りの長男と長く家出していた三男が帰ってくるのだが、互いに持つ不信感、父の不在など、一家にはなにやら秘密がありそう。母が絶対的な権力を持ち、それに従うばかりの息子たち。そんな家族の姿を通じて、母の愛とは? 家族の絆とは?といった家族の問題が描かれる。  愛とか絆という美しい言葉が並ぶと、一見美しい物語になりそうな気もするが、そこは川村毅。そんな一筋縄で終わるわけもなく、おかしさの中に怖さと不気味さとちょっとした哀しみが隠されたブラックコメディーに仕上がっている。

GWでお金使いすぎないようにしないと…『8月の家族たち August:Osage County』

2016.04.24 Vol.665
 ピューリッツァー賞戯曲部門とトニー賞最優秀作品賞ほか4部門を受賞したトレイシー・レッツの『8月の家族たち August:Osage County』をケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)が上演台本と演出を担当し上演する。  レッツは米国の脚本家・劇作家・俳優で、本作は自身の生まれ故郷であるオクラホマを舞台に、幼いころの実体験をもとに描いたもの。8月の酷暑のオクラホマ州の一軒家で繰り広げられる三姉妹と家族をめぐるブラックコメディー。ブロードウェイでは2年で648回の公演を行うほどの人気作で2013年にはメリル・ストリープ、ジュリア・ロバーツといったそうそうたる顔ぶれで映画化もされているので、ご存知の人も多いだろう。  日本で「三姉妹作品」といえばKERA。過去には自らの戯曲である『わが闇』『祈りと怪物』のみならずチェーホフの『三人姉妹』を演出。KERAの手掛ける「三姉妹作品」にはハズレはない。  ナイロン100℃以外でも多くの作品を手掛けるKERAだが、今回は麻実れいなど初顔合わせの俳優もおり、舞台上はいつもとはちょっと違った風景になりそうなのも興味深い。

GWでお金使いすぎないようにしないと… イキウメ『太陽』

2016.04.24 Vol.665
 2011年に初演し、2014年には蜷川幸雄演出で『太陽2068』として上演された『太陽』を本家本元のイキウメが再演する。  夜しか生きられない進化した人類「ノクス」と太陽の下で暮らす旧人類「キュリオ」という2つのコミュニティーに分かれてしまった近未来を描く物語。  世界はバイオテロにより拡散したウイルスで人口が激減、政治経済は破綻し、社会基盤が破壊される。しかし数年後、感染者の中で奇跡的に回復した人々は人間をはるかに上回る身体に変異。それは頭脳明晰で若く健康な肉体を長く維持できるというものだったが、その反面、紫外線に弱く昼間は活動できなかった。やがて政治経済の中心はノクスに移行し、人口も逆転する。キュリオの中にはノクスにあこがれる者もいれば、ノクスを忌み嫌う者もいた。  壮大なSFの設定ではあるが、差別、嫉妬、郷土愛、自尊心といった感情は普遍的なものなのだと改めて感じさせる作品。  4月23日からは舞台に先駆け映画が公開。こちらは神木隆之介、門脇麦主演で、舞台とはまた違った雰囲気の作品となっている。2月に発表された小説と合わせてさまざまな角度から作品を味わってみるのもいい。

対象とか場面は違えど「抗う」人を見るのは面白い Wけんじ企画『ザ・レジスタンス、抵抗』

2016.04.10 Vol.664
 Wけんじと聞くとある一定の世代の人は「やんなっ」でおなじみの東京の漫才コンビを頭に浮かべるかもしれないが、お亡くなりになられているので、もちろんそっちの話ではない。  城山羊の会の山内ケンジと青年団のベテラン俳優である山内健司という2人の“けんじ”ががっぷり四つを組んでの新企画。  山内ケンジも本名は「健司」で2人は同姓同名。もともとCMディレクターであるケンジが演劇活動を始めた当初は「健司」で活動していたのだが、青年団に山内健司がいたことから途中で改名し、現在に至る。  今回のお話は山内ケンジ曰く「山内健司さんが抵抗し、社会から『無駄な抵抗はやめろ』と言われる物語。 同時にわたしである山内健司の抵抗でもあります」とのこと。会社や家庭での問題。性欲の減退や更年期に抗いながらたどりついた男の顛末が描かれる。  公演中、28日には平田オリザ×山内ケンジ、1、4(夜)、6日にはWけんじ(山内ケンジ×山内健司)、10日には岩井秀人(ハイバイ)×山内ケンジのアフタートークもある。前売り完売の回もあるが、当日券はわずかながら出るので気になる人はぜひ!

対象とか場面は違えど「抗う」人を見るのは面白い 月刊「根本宗子」『忍者、女子高生(仮)』

2016.04.10 Vol.664

 今年2月にミュージシャンの「おとぎ話」とコラボレートした『ねもしゅーのおとぎ話 ファンファーレサーカス』を上演したばかりの根本宗子が、その余韻も冷めやらぬ中、今度は劇団公演。相変わらずのハイペースで作品を発表しまくっている。  本人の旺盛すぎる好奇心となにゆえか発せられる大物感で演劇以外からもオファーが多く、活動の場が広がる一方の根本だが、劇団は「自分が最強に今面白いと思うことを追求する場」と特別な思いを持つ場所。今回も今やりたいことをとことんやり尽くす作品になる。  この『忍者、女子高生(仮)』というタイトルは、タイトルについて考えているうちに「忍者っぽいタイトルをつけてみたい」という衝動にかられてつけたもののようで、物語とどの程度リンクしているかは定かではない。しかし「なんか気になるタイトルだな」と思ってしまった段階で、実はすでに根本の思うツボ…?  ちなみに今年は「第60回岸田國士戯曲賞」の最終候補作に『夏果て幸せの果て』が残るなど、演劇界的にも評価が上がりつつある。もっとも根本本人はそのへんはあまり視野には入れていないのだろうが…。

クスリと笑うもよし、大声で笑うもよし『あぶない刑事にヨロシク』

2016.03.27 Vol.663
 映画界であぶない刑事の最新作『さらばあぶない刑事』の上映が続くなか、演劇界から『あぶない刑事にヨロシク』なる作品のリリースが届いた。  もちろん映画とは無関係。  演出家、脚本家、構成作家、映画監督など幅広い活躍を見せる細川徹が作・演出を担当し、濃いメンバーでばかみたいなことだけをひたすらやりまくる作品。  あぶない刑事にあこがれる“そんなにあぶなくないコンビ”皆川と荒川が、今日もあぶなっかしく、大した事件や大したことのない事件に立ち向かっていく。いったいどんな“あぶない”事件が起こるのか、2人は生きて事件を解決することはできるのか…。  皆川と荒川を演じるのは大人計画の皆川猿時、荒川良々。池津祥子、村杉蝉之介、近藤公園といった芸達者な面々がワキを固め…まではともかく、ターンテーブルやギター、ベースなどをたった1人で駆使する超絶パフォーマーのTUCKERが音楽を担当と聞くと、舞台上ではいったいどんなことが繰り広げられるのか全く予想もつかない感じ。  前売り券は完売で当日券はチケットぴあ当日券専用ダイヤル(0570-02-9997)で、14時開演の公演は 前日の16〜18時、19時開演の公演は公演当日の 12〜14時受付となっている。

クスリと笑うもよし、大声で笑うもよし『スケベの話〜オトナのおもちゃ編〜』ブルドッキングヘッドロック

2016.03.27 Vol.663
 ブルドッキングヘッドロックの作品は、不安、悪意、狂気といった現代の人間が抱えるさまざまな息苦しさを描きつつも、それゆえに発生してしまう、ささやかな“おかしみ”を緻密な会話劇で綴る。いわばどんよりしたお話を笑いでさらっと昇華する、といった感じ。  題材的には幅広いタイプの作品を上演してきたが、今回は中でも人気の高かった?「スケベ」をテーマに、あらゆる「スケベ」を嗜むシリーズ、「スケベの話」の公演新作。  とある国の軍部に属する中佐の邸宅で行われた、ある日のパーティー。中佐の部下の大尉は、そこで謎めいた美しいメイドと出会う。「このスイッチを君に預けよう。君を救うためのスイッチだ」中佐の懐には、たくさんのスイッチ・スイッチ・スイッチ…。大尉のもとへ渡ったスイッチは、隣国へのミサイルか、美人秘書を身悶えさせるのか。というように、さまざまなことがちょっとずつエッチな方向に転がり始める。それは「スイッチのせいだ!」と気づいた将校だったが、そこにメイドの女が妖しく歩み寄るのだった…。  家族、権力、そして性欲の狭間でおもちゃのように揺れ動く、男たちのおかしみと哀しみが描かれる。

現代口語演劇の幅の広さを実感『ドロボー・シティ』あひるなんちゃら

2016.03.15 Vol.662
 あひるなんちゃらの作品は、思いついた面白そうなことをただ書いていたら一本の作品になっていた——という感じ。意味ありげな台詞があると「伏線か?」と思う人も多いだろうが、決してそうとは限らず、ただいい台詞が思いついたから喋らせてみた、ということが結構多い。楽しむコツを分かっている人であればあるほどのめり込める、ある意味、プロレスのようなもの。  今回はタイトルから察するに「泥棒」のお話。  作・演出の関村曰く「大泥棒が、古代王朝の財宝とか、あなたの心とかを盗んでどうこうっていう話を書いたら、それはオマージュやインスパイアという名の限りなく盗作に近い芝居になってしまうので、小泥棒の話にしました」とのこと。  泥棒にも家があって、ひょっとしたら泥棒の家だって泥棒に入られる可能性はあるわけで……といったトーンで話が進んでいく。  小泥棒? こそ泥じゃなくて? なんて突っ込みは家に置いてきてありのままを楽しむのが肝要。  今回も年配の方とか飽きっぽい人にも優しい70分の駄弁芝居。

現代口語演劇の幅の広さを実感『おとこたち』ハイバイ

2016.03.15 Vol.662
 1月に新作公演『夫婦』の上演が終わったばかりのハイバイが2014年に上演された『おとこたち』を再演。全国6都市を回る。 『おとこたち』は作・演出の岩井秀人が元落語研究会のサラリーマン、紹介予定派遣で働く人、知人のがん治療などを取材し、それをもとに4人の男性の24歳〜82歳の人生を描いたもの。 「老い」「認知症」「人生の幸福度」「社会」というテーマが大きな反響を呼び、その後NHKの人気番組「クローズアップ現代」でも取り上げられたほど。  製薬会社の営業、居酒屋のバイト、俳優、紹介予定派遣社員の4人の男たちは定期的にカラオケボックスや飲み屋に集まり、互いの近況を語り合う仲。しかし時が経つにつれ、順調に歩む者、挫折する者、転落する者とそれぞれの人生は大きく変遷していく。  順調に越したことはないが、だからといって楽しいわけでもない。転落した者だけが手に入れる暗い輝きにシンパシーを感じる時もある。人生についていろいろと考えさせられる作品。  俳優としてサンプルの松井周が出演するのもちょっと気になる。

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