三部作待望の再演。その第1弾 鄭義信 三部作 Vol.1『焼肉ドラゴン』

2016.02.21 Vol.661
 新国立劇場は今年上半期に鄭義信が日本の影の戦後史を描いた三部作を一挙上演する。『焼肉ドラゴン』はその第1弾。  本作は万博に沸く1970年前後の関西の地方都市に暮らす在日コリアン一家と、彼らが営む焼き肉屋に集う人々の日常を通じて、日韓の現在・過去・未来を音楽を交え、おかしくも悲しい物語として描いたもの。  2008年、2011年には日本ばかりではなく韓国・ソウルでも上演されるなど、大きな話題を呼んだ。今回はキャストをほぼ一新しての待望の再々演となる。  焼き肉店の店主らの世代とその子供世代、在日コリアンと日本人、男と女といった立場の違う人間たちが繰り広げる物語は、見る者の感情によって感想は大きく変わってくるだろう。  4月に朝鮮戦争が始まった1950年代を描いた『たとえば野に咲く花のように』、5月には60年代半ばの九州のとある炭鉱町で炭鉱事故に巻き込まれた在日コリアンの家族を描いた『パーマ屋スミレ』が上演される。  きっとなんらかの“気づき”のきっかけとなってくれる三部作だ。 【日時】3月7日(月)〜27日(日)(開演は水木土日13時、金18時30分。月は7日18時30分、21日13時。火は8日18時30分、15日13時。26日(土)は18時30分の回あり。14・22日休演。開場は開演30分前。当日券は開演1時間前) 【会場】新国立劇場 小劇場 THE PIT(初台) 【料金】A席5400円、B席3240円 【問い合わせ】新国立劇場(TEL:03-5351-3011 [HP] http://www.nntt.jac.go.jp/ ) 【作・演出】鄭義信 【出演】馬渕英里何、中村ゆり、高橋努、櫻井章喜、朴勝哲、山田貴之、大窪人衛、大沢健、あめくみちこ/ナム・ミジョン、ハ・ソングァン、ユウ・ヨンウク、キム・ウヌ、チョン・ヘソン

MONO『裸に勾玉』さまざまな形でなされる問題提起に気づく感性が大事

2016.02.08 Vol.660
 MONOの作品は、現実にありそうな設定や普通にいそうな登場人物のキャラをちょっとひねってみたり、何かを加えることで、ありそうでなさそうな世界観を作り上げ、そこで物語が展開される。そのずれた設定のお陰で、そこで繰り広げられるおかしな会話はそのままおかしく、深刻なエピソードも「まあ、架空の世界のお話だから」とそれほど気を滅入らせることなく観客に受け入れさせる。  作・演出の土田英生が今回選んだ舞台は弥生時代。卑弥呼が死亡する少し前、狗奴の国と邪馬台国が交戦状態になるころ。ある集落の外れに身分も低く頭も悪い三兄弟を中心とした家族が住んでいた。さしたる問題もなく楽しく暮らしていたその集落に、ある日、追っ手から逃げてきた不思議な男が紛れ込んできた。それを機に平穏な生活に波風が立ち、やがて集落の人々は“ある選択”を迫られることになるのだが…。  あえて弥生時代という現代とは大きくかけ離れた設定にすることで、個々のエピソードのリアリティーが増し、本質があぶり出される。さりげない会話の中に挟まれる疑問や問題提起に気づくともっともっと面白い作品。 MONO『裸に勾玉』 【日時】3月5日(土)〜13日(日)(開演は5・7・9・11日19時30分、6・10・12・13日14時。8日休演。開場は開演30分前。当日券は開演1時間前) 【会場】シアタートラム(三軒茶屋) 【料金】指定席 一般 前売4000円、当日4500円/早期観劇割引(5〜7日)前売3500円、当日4000円/U-25(25歳以下・要証明書提示。前売のみ)2000円 【問い合わせ】キューカンバー(TEL:075-525-2195 [HP] http://www.c-mono.com/ ) 【作・演出】土田英生 【出演】水沼健、奥村泰彦、尾方宣久、金替康博、土田英生、山本麻貴、もたい陽子、高橋明日香、松原由希子

TRASHMASTERS『猥り現(みだりうつつ)』さまざまな形でなされる問題提起に気づく感性が大事

2016.02.08 Vol.660
 現代社会が抱えるさまざまな問題を題材に、かなり骨太な物語を描くTRASHMASTERS。  作・演出を務める中津留章仁は綿密な取材とそこから生まれる問題意識、そして持ち前の世の中を読む力で、フィクションの一言では片づけられないようなリアリティーのある物語を紡ぎ出す。そればかりではなく、彼なりの未来へ向けた問題提起を見る者に投げかける。  テーマに真摯に向き合うゆえに、上演時間が長くなってしまったり、笑いの要素が排除されてしまったりと昨今の演劇のトレンドから離れていってしまうこともあり、高く評価することに積極的ではない者も多かった。しかし最近は読売演劇大賞の優秀演出家賞をはじめ各賞を受賞。岸田國士戯曲賞に最終ノミネートされるなど、こういう状態を「時代が追いついてきた」というんだな、という感じになっている。  今回、中津留が取り上げるのは昨年から日本の政治における中心的な話題となっている安保法制や「イスラム国」といったあたり。どんな視点でこのセンシティブな問題に切り込んでいくのか注目したい。 TRASHMASTERS『猥り現(みだりうつつ)』 【日時】2月18日(木)〜28日(日)(開演は平日19時。※23日(火)は14時開演。26日(金)は14時の回あり。土日は20・21日は14時、27・28日は13時開演。27日(土)は18時の回あり。開場は開演30分前。当日券は開演45分前) 【会場】赤坂レッドシアター(赤坂) 【料金】全席指定 前売4200円、当日4500円/特定日割引(18・19日)3000円/U25(25歳以下)2500円/学生(大学・短大・専門学校・高校・中学)1000円 ※U25券、学生券は劇団前売り取り扱いのみ。当日受付にて身分証提示。 【問い合わせ】SUI(TEL:03-5902-8020=平日11〜17時 [劇団HP] http://www.lcp.jp/trash/ ) 【作・演出】中津留章仁 【出演】吹上タツヒロ、星野卓誠、倉貫匡弘、髙橋洋介、森下庸之、森田匠、長谷川景、龍坐、川﨑初夏、岡本有紀(青年劇場)、保亜美(俳優座)

美男高校地球防衛部LOVE!活劇! 人気アニメを舞台化! オリジナルストーリーも!?

2016.02.07 Vol.660
 昨年の1〜3月にテレビ東京ほかで放送され、既に第2期の制作も発表されている女性向けオリジナルアニメ『美男高校地球防衛部LOVE!』が、『美男高校地球防衛部LOVE!活劇!』と題し舞台化することが決定した。  主人公は、眉難(びなん)高校に通う5人の男子高校生。“何もしない部”こと「地球防衛部」に集まりダラダラと過ごしていた彼らの前に、突如、日本語をしゃべる奇妙な桃色のウォンバットが現れ、5人を愛の王位継承者“バトルラヴァーズ”に任命し…。  脚本・演出は『ママと僕たち』、舞台『私のホストちゃん』などを手掛ける村上大樹が担当。奇想天外な展開をコミカルに描き出す。 ローソン・ミニストップ店頭Loppiにてチケット好評発売中! 『美男高校地球防衛部LOVE!活劇!』 【日程】3月10日(木)〜13日(日) 【会場】Zeppブルーシアター六本木 【料金】一般¥6,800(税込) 【チケットの購入および問い合わせ】 http://l-tike.com/

人間ドラマにどっぷりつかってみる『同じ夢』

2016.01.25 Vol.659
 劇作家、演出家、そして俳優という3つの顔を持つ赤堀雅秋。ここ数年は自ら主宰を務める劇団、THE SHAMPOO HATの公演はもとより、多くの外部公演から作・演出、そして俳優としてもひっぱりだこ。加えて映画のメガホンも握るなど多忙の日々のなかでも、年に1本は新作を書き下ろすなど、バイタリティーあふれる活躍っぷりには目をみはるものがある。  赤堀の作品は特段センセーショナルな出来事が起こるわけではなく、むしろ地味な人々のよくあるお話が淡々と進行する。ただし、登場人物たちのダメな部分や闇の部分の描き方が絶妙。平々凡々に見える人物から見え隠れする凶暴性だったり、ユーモアあふれる人物の裏側にある物悲しさといったものが絶妙なタイミングとあんばいで顔を出し、その人々が抱えるドラマにぐいぐい引き込まれる。  そんな赤堀の新作書き下ろしは、中年のおっさん4人に2人の女性が絡むお話。おっさん4人を演じるのは光石研、大森南朋、赤堀雅秋、田中哲司という一筋縄ではいかないベテランたち。ヒロイン役には昨年に続いての舞台出演となる麻生久美子。そしてデビュー5年目にして数多くの作品に出演し、若手演技派女優として頭角を現している木下あかりと豪華な顔ぶれとなっている。 『同じ夢』 【日時】2月5日(金)〜21日(日)(開演は平日19時、土13時/18時、日13時。※6日(土)、7日(日)は15時開演。11日(木・祝)は14時開演。10・17・18日は14時の回あり。火曜休演。開場は開演30分前。当日券は開演45分前) 【会場】シアタートラム(三軒茶屋) 【料金】全席指定 一般6800円、高校生以下3400円(世田谷パブリックシアターチケットセンター店頭&電話予約のみ取扱い、年齢確認できるものを要提示)、U24(18〜24歳)3400円(事前の会員登録が必要)、トラムシート5800円 【問い合わせ】世田谷パブリックシアター(TEL:03-5432-1515 [HP] http://setagaya-pt.jp/ ) 【作・演出】赤堀雅秋 【出演】光石研、麻生久美子、大森南朋、木下あかり、赤堀雅秋、田中哲司

今年は春から池袋『逆鱗』NODA・MAP

2016.01.11 Vol.658
 野田秀樹率いるNODA・MAPの約2年ぶりとなる新作。松たか子が7年ぶりのNODA・MAP出演、前作『MIWA』から瑛太と井上真央が連続出演など豪華なキャストが話題だが、いつにもましてなにやら深く考えさせられそうな作品となりそうだ。  タイトルの『逆鱗』はチラシで見ると「逆」のつくりの部分や「鱗」の魚へんや米の部分を裏返しにするなど、随所に謎を散りばめ、なにやら意味ありげな表記になっている。  物語は、かつて沈没船の窓越しに人間と交わした約束を果たすために人間のふりをして地上に現れた人魚と、海中水族館の「人魚ショー」で人魚のふりをする人間が出会い、大きく動き出す。  タイトル表記の意味は多分この鏡合わせのような存在の2つのキャラクターに起因するものなのかもしれない。加えて、作品中に世相や政治的な出来事に対するメッセージを織り込むことの多い野田の今回のメッセージは「怒り」? それとも…と、初日の幕が開けるまでもいろいろ考えてしまう。チラシを手に取ったときから、すでに見る側の物語は始まってしまっているのかもしれない。  前売りはいつもどおり完売だが、当日券もいつもどおり毎公演発売する。

今年は春から池袋『夫婦』ハイバイ

2016.01.11 Vol.658
 作・演出の岩井秀人が描く作品は引き込もり、家族ゆえに起こるさまざまな問題、不倫愛などといった、人間関係の綾とかこじれから発生する物語が多い。  そのどれもが生々しく、時代をえぐるものになっているのは、引き込もりのように岩井自身で経験したことや、不倫のように体験者に綿密な取材を行った末に描かれたものだから。  そんな岩井が今回取り上げるのは「人生の仕舞い方」。これは一昨年、実父の死に直面し、その時に長年連れ添った母と父の知らなかった関係性を知ったことがきっかけ。悪かったはずの父と母の仲が、父の容態が悪くなるにつれて日々溶解していく。そんな様子を見て、他人だった夫婦がどのようにして始まって家族になり、そして別れることになるのか、といった多くの人が体験する現実を描こうと思ったという。  そんな夫婦の物語の半面、父は外科医であり、最新の手術を受けたにもかかわらず、医療ミス的な原因で死んでしまったことから、無念さややるせなさといったものを嫌でも感じさせる作品となっている。  最近は舞台ばかりでなくドラマ、映画などでもその個性をいかんなく発揮中の山内圭哉がハイバイ初登場。

黒木華が樋口一葉を演じる『書く女』二兎社公演40

2015.12.28 Vol.657
 明治時代に活躍した女流作家・樋口一葉の半生を、彼女の創作の原点となった日記をもとに描いた作品。2006年に寺島しのぶ主演で上演され、朝日舞台芸術賞(舞台芸術賞)、読売演劇大賞(最優秀女優賞)を受賞するなど大きな話題を呼んだ。  今回、それから10年が経ち、キャストを一新して再演する。  樋口一葉を演じるのは2014年に『小さいおうち』でベルリン国際映画祭最優秀女優賞を受賞、NHKの連続テレビ小説『花子とアン』にレギュラー出演するなど、舞台に映像にと活躍の幅を広げている黒木華。  物語は19歳にして戸主となった一葉が小説家として成長していくさまを文学関係者だけでなく、吉原遊郭近くやさらに貧しい地域に住む人々との交流を通して描いていく。文学者として成功しながらも貧困からは抜け出せず、若くして病に倒れた一葉につきまとう女性としての問題や悩みは、今も日本では変わらぬものとして存在位している。  そんな視点から見ると、この作品は一葉の物語でもあり、現在にも通じる日本の女性が直面する問題を描いた物語でもある。

青年団からまた新たな才能が『怪童がゆく』青年団リンク・玉田企画

2015.12.28 Vol.657
 平田オリザが主宰する青年団からは五反田団、サンプル、ままごとといった多くの劇団が生まれている。それは所属する劇団員すべてが公演企画を提出することができ、それを起点に「若手自主企画」「青年団リンク」といった形で作品を上演し、やがて劇団として独立するという道ができているから。  この玉田企画は青年団演出部に所属する玉田真也によって2012年に若手自主企画として発足し、2014年から青年団リンクとして活動している。  その作品はちょっとしたボタンの掛け違い、人間関係の亀裂などから起こる居心地の悪さを俯瞰した視点で描いたもの。例えば、リビングでの家族の団らん中にテレビでエッチな番組が流れてしまった時の居心地の悪さとか、修学旅行でお呼びでないのに女子の部屋に入ってしまったときの居たたまれない感といえば分かりやすいかも。  今回の題材は「恋愛」。モジモジしたり、思わず「やっちまった〜」と頭を抱え込むような行動をしてしまったり…。ついつい自分に置き換えて「笑えねえ」と思いつつも、他人のことだと思えば笑えちゃう、そんなお話。

年末だろうが成人式だろうが芝居は上演されるのだった 劇団鹿殺し 活動15周年記念公演『キルミーアゲイン』

2015.12.13 Vol.656
 関西学院大学で演劇をしていた、座長で演出を担当する菜月チョビと劇作家の丸尾丸一郎を中心に劇団を立ち上げたのが2000年。来年、鹿殺しは15周年を迎える。  当初は関西で活動を続けていたが、2005年に東京に拠点を移す。劇団員全員で一軒家に住み、東京ではまだまだ知名度が低い彼らは、演劇公演のかたわら路上パフォーマンス、ライブハウスへの出演など、さまざまな場所で表現活動を続けた。  名前からキワモノっぽくとらえられることもあったが、丸尾の手による物語は情緒的で深く人間の感情を描くもの。そこにオリジナルの音楽をふんだんに使った演出が加わり、独自のエンターテインメントを構築した彼らの作品はやがて多くの観客の目に留まるようになり、人気劇団に数えられるまでに成長した。  そのなかで丸尾は岸田戯曲賞に最終ノミネートされるなど、劇作家としての地位を確立。菜月は外部公演での演出の依頼も増え、2013年には文化庁新進芸術家海外派遣制度でカナダに派遣されるなど、一定の評価を得るに至った。  今回は15周年の幕開けとなるこん身の新作。演劇にどっぷりつかった彼ららしく、演劇の現場を題材としたもの。  ここで立ち止まることなくより高みを目指す彼らの挨拶代わりの作品だ。

年末だろうが成人式だろうが芝居は上演されるのだった 青年団リンク ホエイ『珈琲法要』

2015.12.13 Vol.654
 平田オリザが主宰する青年団は平田以外にも多くの劇作家・演出家が所属しており、自由に公演企画を提出することができ、審査に通った作品が「若手自主企画」として上演される。そこで観客から一定の評価を得ると「青年団リンク」としてユニット化され、やがて劇団として独立していく。  ホエイは俳優の河村竜也がプロデューサーを務め、山田百次が作・演出を手掛ける、2013年に若手自主企画として立ち上がったユニット。  今回はその第1作である『珈琲法要』を再演する。  物語は文化4年、西暦1807年に北海道の斜里地方で起こった津軽藩士殉難事件を題材としたもの。ロシア帝国の襲撃に対する警護のため斜里に送られた津軽藩の藩士たちだったが、東北とは比べ物にならない寒さに多くの者が命を落とす。この事件は藩の恥部として闇に葬られていたのだが、約150年後に生存者が残していた日記が発見され明らかになった。この日記をもとに藩士たちの無念の闘いをアイヌの調べにのせて、全編津軽弁で描く。  津軽弁に一部分からない部分があるかもしれないが、命を落とした者たちの無念さは十分伝わってくる。そして現在の日本の状況と照らし合わせると、事の重大さが身近な問題として認識できるかもしれない。

Copyrighted Image