【徳井健太の菩薩目線】第28回「親として息子におくったアドバイスが正しいのか悩むなぁ」

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第28回目は、中学に通う息子の“とある事件”を聞いた徳井氏の戸惑いについて、独自の梵鐘を鳴らす――。

 「自分だったらどうするだろう?」という出来事を、 4月に中学1年になったばかりの長男から聞いた。

 長男は、野球部に所属しているんだけど、部活もクラスも一緒のA君という男の子が厄介だと話す。どうやら虚言癖、自分本位(思い通りにならないと泣きだしキレ始める)など、入学から2か月あまりだというのに、すでにクラスと野球部の中で、問題児として扱われ始めているらしい。そこで長男は、かかわると面倒にしかならないことを実感したため、「今後は基本的に無視をした方がいいんじゃないかって悩んでいる」と、俺に話すんだ。

菩薩目線第1回目「“考えられる”子どもに育ってほしいなぁ」で話した通り、俺はいろいろな人間に触れてほしいという思いから、公立の中学校へ進学させた背景がある。とは言え、まさかこんなに早く直面するなんて、ちょっとビビっている。まだ、5月じゃない。

 俺は考えた。社会に出れば、たしかに付き合う必要はないかもしれない。でも、学校だ。これから3年間、同じ空気を吸わなければならない。“無視をする”という判断が正しいのか、親としての立場も踏まえて、考えてみた。

 「もし無視をするとしても、A君が泣いたり、困ったりしていたら、助けるという選択肢は忘れるなよ」

 俺は、そう伝えるのが精いっぱいだった。金八やGTO鬼塚だったら、「仲良くしないとダメだッ」なんて熱弁を振るうのかもしれない。だけど、現実は綺麗事とびっくりするくらい相性が良くない。

 俺は、この件に対して他の親だったら、どう子どもに伝えるのか、心底聞いてみたい。自分が言ったことは正しかったのか? 改めて考えると、堂々巡りだ。助けたところで長男に飛び火するケースだって考えられる。ホント、子育てってのは、親が死ぬまで続くRPGだよ。

当たり障りのないことだらけの“一億総無難時代”がやってくる!?



 一つだけ言えるのは、無視をするにしても、助けるにしても、自分の心に正直であってほしいってこと。世の中は、いろんな要因が絡み合って、事象が発生しているわけじゃん。A君だって、複雑な背景があって、そういう性格になったのかもしれない。となると、そういう状況下で、唯一操縦できるのは、自分の意志だけだと思うんだ。

 「自業自得だから無視する」、「手を差し伸べないといけない」……何かを前にしたときに、いくつかの言葉が頭の中にこだますると思う。これは大人になっても変わらない。その心の声に嘘をつくような行動はしてほしくない。自分で自分の操縦を放棄したら、きっと後悔するだろうからね。「あのとき、こうするべきだった」って。

 自分が助けたいと思ったときに助けられる人になってほしい。親の勝手な願望だと分かっているけど、「助けたいと思ったけど助けることができなかった」、「助けたいと思っていなかったけど助けちゃった」ではなく、自分の意志を選び、そして実直に行動を移せる人間になってほしいって思うの。だから、「逃げたいと思ったから逃げた」でもいい。

 そもそも、こんな要求の高いことを中学1年生に伝えること自体、どうかしているんだよね。俺たちが中学1年生のときは、もっとバカが許されたし、実際にバカでもどうにかなった。ところが、今の時代はそんなに単純な話じゃない。楽観視しているだけ、置いていかれそうだ。

 こういう環境下で、学校の先生が“何かを教える”、“どう教える”のかって考えると頭が下がる。そもそも道徳的なことなんて教えるだけリスキーなんじゃないのか、とすら思ってしまう。このコラムでもたびたび学校教育の話題が出てくるけど、綺麗事を言ったところで、今の子どもたちからは鼻で笑われそうだ。子どもたちは、スマホから多種多様な意見を知った気になっている。ともすれば、「平均的な当たり障りのないことを言うのが無難」という判断になる。ホント、何かを教えるということは、立場こそ違え、それぞれが大変な立場にいると思う。

 社会における組織の中でも同じだ。上司は当たり障りのないことを言わないと、〇〇ハラスメントと後ろから刺されてしまうかもしれない。一億総無難時代が、そこまでやってきている。だけど、「無難でありたいから無難を選んだ」って意思の選択だけはやめてほしいんだよね。それじゃ、あまりにつまらない。平均的なことならAIでもできるんだから。親ってのは、やっぱり要求が高くなってしまう身勝手な生き物なのかもしれない。親の過保護と老婆心は紙一重だよ。
※【徳井健太の菩薩目線】は、毎月10日、20日、30日更新です
【プロフィル】とくい・けんた 1980年北海道生まれ。2000年、東京NSC5期生同期・吉村崇と平成ノブシコブシを結成。感情の起伏が少なく、理解不能な言動が多いことから“サイコ”の異名を持つが、既婚者で2児の父でもある。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。