一人の政治家を追った一冊の本『政治家 中山泰秀』著者・杉浦美香氏が語る中山泰秀氏

 9月29日に自民党総裁選が終わり、政治のニュースは10月21日が任期となる衆議院議員選挙に移ることになる。公職選挙法第三十一条第三項では、衆議院の解散による総選挙は解散の日から40日以内と定められていることから、最も遅くて11月30日に投開票ということになるのだが、現在、その日程は定かではない。そんな中、一人の政治家を追った一冊の本が出版された。そのタイトルは『政治家 中山泰秀』。著者の杉浦美香氏に話を聞いた。

昨年12月に行われた「BEYOND 2020 NEXT FORUM in WASEDA」で学生たちに語り掛ける中山氏

 中山泰秀氏は現在、当選5回を果たし、これまで2007年の第1次安倍改造内閣で外務大臣政務官、2014年には第2次安倍改造内閣で外務副大臣、2020年の菅内閣では防衛副大臣兼内閣府副大臣を務めている。最近では自衛隊が東京と大阪で運営する新型コロナウイルスワクチンの大規模接種センターの本部長を務めたことでも知られる。

 
 まずは今回、この本を書くことになったきっかけは?

「私は産経新聞の大阪本社で社会部の記者をやっていたのですが、その時にアメリカの国務省のIVプログラムというものに招待されたことがあるんです。今はIVLPプログラムというんですが、これは議員、若手政治家、ジャーナリストといった人に米国への見識を深めてもらおうというプログラムです。中山さんも時期は違うんですがこのプログラムに招待されていました。その後、大阪のアメリカの総領事館から“前途有望な政治家がいるから一度会ってみては”と紹介されたのが中山さんでした。その時にはIVプログラムの情報交換をしたように記憶しています。中山さんが国会議員になる前の話です。大阪の社会部は政治部がやるような取材もしていたのですが、私が担当していたのは中山さんが立候補した選挙区ではなかったのでその後、特に接点はありませんでした。それから私は東京本社に転勤になり社会部、外信部、科学部といった部署で取材をしていましたので、こちらでも中山さんと接する機会はありませんでした。そして私は2019年にフリーのジャーナリストになったんですが、今年の1月に二十年来の友人である歴史学者で元海兵隊太平洋基地政務外交部次長のロバート・D・エルドリッヂさんという方から“会ってみないか”というお話をいただきまして、その時に“もしかしてあの時にお会いした?”という感じで何十年かぶりの再会を果たしました。いろいろとお話をする中で“ネット上には自分のことについていろいろな情報が流れている。その中には誹謗中傷するものもある。万が一、自分が死ぬようなことがあった時に残された娘とせがれに親父のことで悔しいことがあったら、この本を読めよ、と言ってあげたい。彼らが生きていくうえで、情報の武器を与えたい”といったことを話されました。確かに最近もイスラエルや台湾について発言された時や、さかのぼれば2015年のイスラム国(IS)による日本人拉致殺害事件で、ヨルダンに置かれた現地対策本部の本部長を務められた時にもいろいろと書かれていました。でも反論する機会もなかなかないし、下手に反論すると逆効果になることもあります。 全てに抗議することはできません。でも今回、こういう再会がありまして、中山さん自身も“実際に取材をして、ありのままを書いてほしい”ということでしたので取材させていただくことになりました」

 本書では安全保障といった中山氏の得意分野における政策等の話はもちろんなのだが「世襲議員」であることについても多くのページが割かれている。

「祖父の中山福蔵さんは国会議員、祖母の中山マサさんは日本初の女性閣僚、父の中山正暉さんも元建設大臣。伯父さんも国会議員。特に、マサさんは政治への女性の進出の先駆けのような人です。中山さんはそういった政治家一家のサラブレットということもあり“世襲”という批判が付いて回っています。看板があるからずっと当選しているかと思われがちなんですが、意外に苦労人で割と落選している。そういう意味では一般的なイメージの世襲議員とはずいぶん違うと思うんです。今回は安倍晋三前首相と中山さんの対談もさせてもらったんですが、私は安倍さんが初出馬された時に山口1区に大阪から取材に行っているんです。その時、対立候補はみんな世襲批判をしていました。私も世襲議員の企画の中で山口1区を取り上げようということで行ったんですが、大阪からいきなり来た記者ですから、なかなかご本人に直接取材をする機会をいただくことはできませんでした。でもついて回っているうちに5分くらい時間をいただけて、そこで時間もないものですから、焦って世襲の質問をしたときに安倍さんから“ではあなたは世襲ってどう思うんですか? あなたの意見はどうですか?”“もっと勉強しないとダメですね”と結構厳しく言われたんです。今回の対談では安倍さんにも“世襲議員とは”という話もしていただきました。今回の総裁選挙、そして来る総選挙にも与野党問わず世襲議員はたくさん立候補するでしょう。本の中では“世襲議員とは?”ということにも触れられたらなと思い、そういったことも多く書かせていただきました」

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