日本で唯一!安全保障に関する国立学術研究機関、防衛省「防衛研究所」はどんな組織?【前編】

 防衛省のシンクタンクであり、国立の安全保障に関する学術研究機関でもある「防衛研究所」。普段私たちが意識することの少ない防衛研究所だが、一体どんな組織で、どのような人がどういう思いで働いているのだろうか? その概要や魅力などを中山泰秀防衛副大臣(肩書きは当時、以下同)と、防衛研究所の庄司潤一郎研究幹事、飯田将史米欧ロシア研究室長、庄司智孝アジア・アフリカ研究室長に話を聞いた。

安全保障に関する国立学術研究機関である防衛省「防衛研究所」(撮影:蔦野裕)

 防衛研究所というのはどのような組織なのでしょうか? その沿革や役割の概要を教えてください。

中山泰秀(以下、中山)「防衛研究所とは、防衛省のシンクタンクであり、我が国で唯一の国立の安全保障に関する学術研究機関です。安全保障や戦史に関する調査研究を行うほか、戦史史料の管理・公開を担っています。こうした中には、大正時代のスペイン風邪パンデミックに関する史料など、現代においても意義のあるものが多数含まれています。また、諸外国の国防大学に相当する教育機関として、防衛省や自衛隊の幹部および他省庁の職員などへの教育も行っています。

 私は、防衛副大臣に任命された当初から防衛研究所が非常に重要な機関だと捉えています。防衛研究所は我が国最大の戦史史料を保有しており、歴史のことを『増鏡』とも言いますが、折々で増鏡をひもといてその時代に何が起こったのかを検証するのは大切なことです。そしてジオポリティックス、つまり地政学と戦史を比較することで、現代の政治家として何が見えるのか判断することができます。政治家の立場から見ると、防衛研究所の皆さんは優秀なブレーンであり、防衛省の心臓部のひとつだと考えています」

庄司潤一郎(以下、庄司潤)「防衛研究所は、来年で創設から70周年を迎える長い歴史を持つ機関です。1952年8月に当時の保安庁保安研修所として発足し、1954年に防衛庁防衛研修所、1985年にそれまでの研修・教育から研究に重点が置かれることとなり、防衛庁防衛研究所に改称いたしました。2016年に目黒地区から市ヶ谷駐屯地に移転し、より政策指向のシンクタンクとして機能を発揮しつつあると思います。

 防衛研究所の組織には管理職として所長、副所長、研究幹事、そのもとに企画部、政策研究・理論研究・地域研究を行う研究3部、教育部、戦史研究センター、国際交流・図書担当の特別研究官、政策シミュレーション担当の特別研究官の8部局から構成されています。このうち主に研究3部において現代の安全保障を、戦史に関する業務は戦史研究センター、安全保障に関する教育訓練は教育部が担当しています。

 防衛研究所というのは非常にユニークな組織で、政策研究もあれば戦史の研究も行い、防衛省や自衛隊の研修機関でもあり、一方戦史研究を支える史料も所蔵しています。このように多様な機能がひとつの施設に集まって、より政策指向にアプローチできる有機的な組織は、国内だけでなく海外でも珍しいのではないでしょうか」

飯田将史(以下、飯田)「私は防衛研究所に所属して20年ほどになりますが、当時は焦点が当たっていなかった中国に関する研究を強化する必要性があり、2011年に組織変更を行なって中国の研究者を大幅に増員しました。特に安全保障に特化した研究者を集めており、これだけ安全保障に関する中国研究者を集めた機関は国内で唯一だと思います。日本の安全保障を取り巻く環境は極めて速いスピードで変化し、時代に合わせて新しい分野の研究者も採用しており、たとえば宇宙やサイバーといった領域、地域としては経済や安全保障の面で注目の高まっているアフリカといった分野の研究者を少しずつ増員しています」

中山「陸・海・空に加えて宇宙、サイバー、電磁波といった戦闘領域が登場し、そういった分野にも精通する必要が出てきたということですね」

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