5月30日に初防衛戦のWBO女子Sフライ級王者・吉田実代「“女子ボクシングも面白いな”と思われるような試合をする。生で見てほしい」

椎野トレーナーの持つミットにパンチを打ち込む(撮影・蔦野裕)

誰かの力になれたり誰かに勇気を与えられるなら、取り上げられ方にこだわりはなくなった

 昨年は日本青年会議所(JCI JAPAN)の「第35回青年版国民栄誉賞 TOYP(The Outstanding Young Persons)2021」で「会頭特別賞」を受賞。その際に「引退はまだまだ」という感じだったのだが、この1年で何か心境が?
「アメリカで試合をしたいとか強豪選手と統一戦をやりたいという願望はあったんですが、どこかで自分でも“無理だろうな”とか思っていたりするところがありました。それで“また日本人選手とずっとやっていくのか”とか“それしか自分には道がないのか”みたいにちょっと悲観的になった時もあったんですけど、みんなが“吉田をアメリカに行かせてあげよう”と思わせるほどの覚悟を持って自分はトレーニングをしていたのか? それくらい熱意があったのか?と考えたときに、すごく中途半端なところにいたなと気づいたんです。頑張っていなかったわけではないけど、覚悟を決めて腹を決めてやっていたわけでもなかったから。それだったら辞めたほうがいいんじゃないかと思った時もありました。体調もあまりよくなかったこととか、移籍して、負けて、勝って、という大きな変化もあって、去年はすごく人生を見つめ直す機会がありました。格闘技関係ではない、違う分野の一流の人たちに話を聞きに行ったり、外の世界を見るようにしたのが大きくて。そこで“自分はどうしたいのか? 何になりたいのか?”を考えた時に、やっぱり後悔したくないなと思いました。この最後のボクシングで一番輝ける時間に、しっかり自分が覚悟を決めてやれば、もしかしたら夢が手に届くところに来るかもしれないと思ってから覚悟を決めてトレーニングをするようになるとやっぱり周りも変わってくる。自分は自信がないほうなので、そこが少しずつだけど、これでいいんだ、間違ってないんだ、みたいなルーティンに変わってきて、今はすごく充実しているなと思っています」

 では海外挑戦や2階級制覇は変わらぬ目標として持っている?
「はい。だから今回は、ここでつまずいていたり微妙な試合をしているようでは、夢物語に終わってしまうと思っています。だから勝つのは当たり前なので“絶対に勝ちます”みたいなことはほとんどコメントしていないんです。逆に後がないと思っているんで、全然追われる立場じゃない。こっちも追われてるんです(笑)」

“戦うシングルマザー”という言われ方についてはどう感じていますか?
「どうなんですかね。“子供を武器にして”という人もいれば“それでも頑張っている”という人もいて賛否両論あると思います。分かりやすいので、それをすごく推されていることに違和感を覚えた時期もありました。その一方で、じゃあ自分の実力は伴っているのか、自分に実力があれば、もうちょっと胸を張れたのかなという部分もあったんですが、やっぱり取り上げやすいキャラクターではあるじゃないですか(笑)。

 というところに悩んだりもしたんですが、今、私は“ボクシングとか格闘技に出会って人生を変えてもらった”という思いがあって“人生って何度でもやり直しが利く”ということを私が体現しているので、この姿を見てシングルマザーの人が“私も頑張ろう”と思ってくれればそれでいいし、女性に限らず挫折をした人に“いろいろあったみたいだけど、今すごく頑張っている。僕も頑張ろう”って思ってもらえればいい。誰かの力になれたり誰かに勇気を与えられるなら、取り上げ方がシングルマザーでもなんでもいいなとあまり深く考えなくなりました(笑)。取り上げてもらえるなら、自分のやっていることを分かってもらえるなら、そこにはこだわりはないという感じです。全然吹っ切れています」