伊藤健太郎の“帰る場所”…「ファンの皆様へ届けたい」と自ら作った芝居の場「涙が止まらなかった」

撮影・蔦野裕

「おれ、まだ終わってない」…渾身のセリフに、撮影を見守る人々も涙

 この作品は伊藤にとってまさに、人の温かさが形になった宝物のよう。

「そして何より温かみを感じたのは、千村監督が、あのタイトルをつけてくれたということです」

『お帰りなさい』というタイトルを最初に聞いたときは…。

「監督ご自身は“ポロっと思いついた”というようなことをおっしゃっていましたけど(笑)、実際はいろいろ考えて、あのタイトルをつけてくれたんだと思うんです。タイトルを聞いたとき改めて、この作品と出会えてよかったなと思いました。それに、この作品自体、普段から応援してくれる方々がいてくれたから作ることが出来たショートフィルムでもあるので、そういう意味でも本作の始まりからずっと温かさを感じています」

 祖母キクの温かい言葉に背中を押され、ほとばしる思いがそのまま言葉になったかのような「おれ、まだ終わってない」という雄大のセリフや、再び前を向こうとする姿は、伊藤本人の今の思いとリンクするかのよう。

「そうですね…。特にラストシーンのあのセリフはもちろん、雄大として言っているんですけど、どうしても自分自身の思いも入ってきてしまって、すごく難しかったです。あのセリフを通して僕自身いろいろ考えましたし、口にすることで僕自身“伊藤健太郎”が奮い立たされているような感覚もありました。現場では、涙が止まらなかったですね」

 伊藤の芝居は、撮影を見守っていた現地の人々の心も震わせた。

「あのシーンも、つがる市のフィルムコミッションの方々が雪の中、周りを囲んでくださっていて、皆さんに見守られながらの本番だったんですが、カットがかかって気づいたら、皆さんも涙を流していて…。なんか、初めて会った人たちなのに、なんでこんなに温かいんだろうなって…本当に、本当にありがたかったです」

 イベントでは、つがるでの日々を通して、再び前を向いていく主人公の変化を、どう演じ分けていったか熱く語っていた伊藤。心から芝居を愛していることが伝わってくる。

「好きですね(笑)。理由はもちろん、たくさんあるんですけど。例えば、僕たちの仕事って日々、本当にさまざまな人たちとお会いするんですが、僕は人と会うのがすごく好きなんです。そして、役を通していろいろな人生を生きることができるのも楽しい。いろいろな人の人生の一部かもしれないけど、その思いを知ることもできて、すごく考えさせられます。俳優をしてなかったら、触れ合うことができなかった人生と出会うことができるのが、本当にうれしいんです。あとシンプルに、映画館の大きいスクリーンやテレビに自分が映っているのが、すごくテンションが上がるんです(笑)。“ほら、オレ映ってる!”って、テレビ中継に映った中学生みたいな(笑)。未だにそうなんです。自分的には、この気持ちはこれからも大切にしていきたいと思っています」

 初心とともに、再び前を向く。

「もちろん他にも、自分が出た作品を見た人の気持ちに何か少しでも残すことが出来たりとか…俳優業が好きな理由を言っていたら、キリがないですね(笑)。もちろん大変なこともしんどいこともありますが、自分は、そういうこともひっくるめて全部好きなんだ、と思います」

 この6月30日には25歳を迎える。新たな一歩を踏み出すために、俳優・伊藤健太郎が“帰る場所”は…。

「この先も、カメラの前に立っていたいですね(笑)」
(TOKYO HEADLINE・秋吉布由子)

『お帰りなさい』場面写真