「もはや情報は“動画”で得る時代。活字にしばられないメディアの形へ」佐々木紀彦(PIVOT株式会社 代表取締役CEO)

“学び”を得て“方向転換”! 元NewsPicks編集長が立ち上げた経済コンテンツアプリ

「東洋経済オンライン」編集長としてリニューアルを敢行し月間PVを約10倍に。その後、国内外の経済ニュースを中心に伝えるソーシャル型のオンラインニュースメディア「NewsPicks」の編集長に就任し、ビジネスパーソンや就活生必読メディアとして確立させるなど、Webメディア業界を語るに欠かせない存在。Webが大きな転換期を迎えようとしている今、佐々木氏が挑む、新たなオンラインメディアの形とは。

佐々木紀彦(ささき のりひこ)…1979年福岡県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業、スタンフォード大学大学院で修士号取得(国際政治経済専攻)。「東洋経済オンライン」編集長、NewsPicks創刊編集長、NewsPicks Studios CEOを経て、2021年6月にPIVOTを創業。著書に『日本3.0 2020年の人生戦略』『米国製エリートは本当にすごいのか?』『起業のすすめ さよなら、サラリーマン』他

「実はPIVOTを立ち上げるまで、具体的にスタートアップを意識したことは無かったんです」と明かす佐々木氏。

「その4カ月くらい前に、NewsPicksの創業者(梅田優祐氏)と話していて“佐々木さんは起業したほうがいいんじゃないか”と言われ、初めて自分で起業することを意識した感じでした。今でこそ学生起業家や、学生時代から起業を意識する若い世代も増えましたが僕の学生時代は起業意識ゼロでした。当時は周りに起業を意識している人もいませんでしたし、やっぱり異端児がやるものというイメージでしたね(笑)」

 その一方で早くから“自分がやりたいこと”を明確に意識していた。

「学生時代には外資系のコンサルなんかもいいかなと思ったんですけど、基本的にはコンテンツ作り、メディア作りがずっとやりたかった。企業の中でやるか自分で立ち上げるかだけの違いで、自分自身のやりたいことは昔から変わっていないですね」

 東洋経済新報社に入社して5年後、休職してスタンフォード大学大学院にて国際政治経済を学び、復職後は東洋経済オンライン編集長として腕を振るい、月間PVを約10倍に。その後NewsPicks創刊編集長に迎えられ、同メディアを躍進させた。まさに経済系オンラインメディアのパイオニア。そんな佐々木氏が満を持して独立。「日本がピボット(方向転換)する」をミッションに掲げる社会・経済系コンテンツアプリ『PIVOT』をリリースした。

「今思うととても恵まれていたと思います。まだ株価も高いときで投資家も見つけやすくそこまで苦労せず資金調達できた。仲間集めの面でもコアメンバーが早めに集まったのもラッキーでした。ただ、ビジネスモデルや他との差別化という部分はかなり考えました。いろいろな人にヒアリングしたりプレゼンしたり」

 入念にビジネスモデルをブラッシュアップさせつつNewsPicks退社後、約半年で起業。コンテンツアプリ『PIVOT』をローンチした。

「まだサービスを立ち上げて半年なので“壁にぶつかる”のはこれからだと思いますが(笑)、いけるという手ごたえが半分、誤算もあったなというところが半分。中長期的に見れば確かな可能性を感じています。それに私はけっこう試行錯誤しながらニーズに合わせていくのが得意なんです。最初からコミットしなくてもいずれできるという自信があります」

 目まぐるしくニーズが移り変わるオンラインの世界。“誤算”にもすぐに反応した。

「思っていた以上に、ニーズが映像にシフトしていたんです。もともと活字コンテンツも多めに作っていたんですけど、コロナを機に動画へのシフトがどんどん進んでいて、今後、活字メディアはさらに衰退していくと実感しました。そこで割合として動画にリソースを多く割き、活字コンテンツは最小限にした。ローンチからまだ数カ月でしたが、ここで決断しないとこのスタートアップは失敗するなと思い、すぐに動きました」

 活字メディアの世界で数々の成果を打ち出してきた佐々木氏。“活字から動画”へのシフトに抵抗は無かったのだろうか?

「そこはまったく無かったです。もともと僕は映像も好きですし、オンラインメディアの編集長としてずっと、活字も映像も、経営も学んでおくことは必要だと思っていまして、2018年に子会社としてNewsPicks Studiosを立ち上げて、経済系の動画コンテンツを手がけてきました。そこでCEOに就いて社長経験も積んだので、具体的に起業を意識したのは起業半年前だったとはいえ、結果的にPIVOTに向けて長年、準備を重ねてきたといえますね(笑)」

 Web3.0の時代を迎え、オンラインメディアも大きな変化を迎えようとしている

「もちろん活字が無くなるわけではないでしょう。でもやっぱり、書籍の市場はますます縮小していますよね。それと同じように、Webでも活字はもっと減っていくと思います。思えば私のキャリアを振り返ると、紙でメディアを作り、紙は厳しいということでデジタルに移り、デジタルでも活字のニーズが減っていくという状況が見えてきた。では、どうするかというと動画しかなくて。映像を制する者がメディアを制するということが明確になってきたと思っています」

 動画という今の時代のニーズに応えることはもちろん、スキルセット、マインドセットに生かせる旬なオリジナルコンテンツをそろえ、社会や経済の話題に関心を持つ人が高いバリューを感じられるメディアとなっている。

「とくに20代から40代前半、次の時代を作っていく人にとって価値のあるメディアになりたいと思っています。今日の株価だったり、ニュースは他でもやっているので、PIVOTでは、報道というより、読者が自分の仕事や学びに生かせる情報を大事に、そこにいかに貢献できるかを意識していきたい。大人のための動画の学校のように、自分の仕事やライフプランに役に立つ情報を気軽に得られる、そんなメディアになれたらうれしいです」

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