韓国・釜山国際映画祭はなぜ“アジア最大の映画祭”なのか 映画監督が熱気をリポート

連日、さまざまなパーティーで映画人が交流。写真は香港ナイト・パーティ

映画祭に浸る環境…地元の人も気軽に楽しみ、世界の映画人は毎晩交流

 釡山映画祭には連日韓国全土、さらには国外から数多くの映画ファンが集結するが、これは韓国のどの映画祭にも共通するのだが、観客は20代の若い女性が多くを占めている(同じく映画祭で働くボランティアの女性も大学生ぐらいの元気な女性が中心)。グッズ売り場も連日大盛況で、グッズ店の白い紙袋を持った人を毎日頻繁に見かけた。また、チケットが比較的取りやすい平日は地元の年配の人たちが家族や友人と一緒に映画を楽しんでいた。巨大な国際映画祭として映画祭の敷居が低すぎるのも問題だが、地域と密着し地元の人たちも簡単に映画の「お祭り」として気軽に参加できるような敷居が高すぎないムードを作り上げているのも映画祭が大きく成長した理由の一つだろう。チケット代も安価だ(通常の上映は一般1000円程度。シニアはさらに300円ほど安い)。映画祭期間中は韓国の映画誌「シネ21」協力のもと、映画祭の最速レポートや上映作品のレビュー、スターのインタビュー、星取り表が掲載された冊子が無料で配布されるのも嬉しい(オールカラー24ページなので決してコストは安くないはずだ)。

 映画祭の会場はセンタム・シティという、「新世界」と「ロッテ」というデパートが2つあるものの、それ以外は特になにもない静かなエリアに位置するシネコンなどがメイン。繁華街の西面(ソミョン)や、釡山の代名詞でもある韓国最大規模の海産市場、チャガルチ市場からも距離的に少し離れており、映画ついでに簡単に観光することはできないが、逆にストイックに映画に向き合うことができる環境ということもできる。

 他の国際映画祭と比較すると、僕の経験上、釡山に一番近いのは毎年9月に開催される、カナダのトロント国際映画祭だ。規模は少し異なるが、トロントも、とにかくハリウッド・スターを中心にゲストの数が多く、ラインナップも強力で、北米最大の映画祭だけに秋の映画祭シーズンの賞レースに絡みそうな作品の重要なワールドプレミアの場となる。この映画祭の観客賞を受賞した作品がオスカー作品賞に選ばれることも少なくない。街全体で映画祭を盛り上げているイメージが強く、ボランティアも老若男女問わず多くの地元民が参加しているのが特徴的だ。

 釡山国際映画祭と並行して開催されるのが、ACFM(アジアン・コンテンツ&フィルム・マーケット)。アジア最大の映画やTVシリーズのマーケットで、アジアを中心に世界中の映画配給会社のバイヤーやセラー、セールス・エージェントが集まり商談が行われる(マーケットで世界的に有名な映画祭はカンヌとベルリンだ)。また、プロジェクト・マーケットはアジアの長編映画の企画マーケットであり、優れた映画の企画には賞や賞金が与えられる。昨年から始まったプロデューサー・ハブは、韓国を中心としたプロデューサーのネットワークの場所で、それぞれが持つプロジェクトをアピールして共同製作のパートナー探しをしつつ、同業者と交流を深めることができる(僕も昨年参加した)。夜は週末を中心に海水浴場で有名な街、海雲台(ヘウンデ)のホテルなどでパーティが行われるが、世界の映画人とネットワークを広げる意味でも重要な場所だ。僕も参加初日から毎晩パーティに参加し(日曜日は3つのパーティをハシゴした)、海外の友人らと再会し、新たな友人(プロデューサー、監督、俳優など)をたくさん作ることができ、有意義な時間を過ごすことができた。

 最後にグルメの話をすると、釡山名物といえばテジクッパ。白いスープの豚のクッパだ。西面には駅の近くに、テジクッパ通りもある(特に有名なお店が「松亭3代クッパ」)。また海雲台では、老舗の「海雲台元祖ハルメクッパ」が人気。ここのクッパは牛肉で、肉だけではなく大根やもやしがたっぷり入っており、スープもややスパイシーながらあっさりしている。サイズはレギュラーとラージの2種類あるが、ラージを頼んだら軽く2人前のボリュームで仰天した。港湾都市釡山は海産物も有名で、チャガルチ市場を中心に新鮮で種類豊富な魚介類の料理を食べることができる。特にカニやアワビなどが有名だ。映画『国際市場で逢いましょう』(14)の舞台となった、チャガルチ市場の近くにある巨大な伝統市場「国際市場」や、人気観光地でカラフルな家屋が立ち並ぶレトロな「甘川文化村」にもぜひ足を伸ばしてみてほしい。

巨大な野外スクリーン