「イカゲーム」が世界と韓国エンターテインメント界に与えた甚大なインパクトとは?

Netflixシリーズ「イカゲーム」シーズン1~3:独占配信中

カンヌ国際映画祭で韓国映画が一本も選ばれず…まさかの異変

 K-ドラマ人気の大きな余波を受けたのが、韓国映画界だ。多くの有能な監督や脚本家、スタッフ、俳優たちは映画から資本が集まるTVシリーズへと流出し、国内映画の製作本数も観客動員数も下降の一途を辿っている。例えば「イカゲーム」の監督・脚本・原案ファン・ドンヒョクは、コン・ユ主演『トガニ 幼き瞳の告発』(11)やシム・ウンギョン主演『怪しい彼女』(14)といった映画メインの監督だった人物だ(彼の次回作はプロデュースを務めるNetflixのチョン・ソミン主演のシリーズ「Dealer」)。パク・ウンビン、コ・ユンジョン、パク・ギュヨン、キム・ジウォン、シン・イェウンといった人気女優たちの主戦場も映画ではなくTVシリーズである。もはや「映画スター」という言葉が消滅しつつあるのが現状なのだ(ちなみに韓国の人気俳優たちのギャラはべらぼうに高い、と韓国のみならず他国のプロデューサーたちも口を揃えて語っていた)。

 昨年のカンヌ国際映画祭で韓国映画が一本も選ばれないという驚きの結果は韓国映画界に大きなショックを与え、韓国の映画祭で韓国映画人たちに会うたびにこの話が話題になり、みな深刻に事態を受け止め危機感を覚えている様子が見て取れた。さらに韓国映画のヒット作も減り、OTT(動画配信サービス)の人気に押され映画館の入場者数が落ち込み、大手シネコンが一部の劇場を閉鎖する状況に追い込まれるなど、苦しい状況が続いている。
とはいえ、COVIDパンデミック以降、映画の興行ビジネスが苦戦しているのは韓国に限った話ではなく、映画が主要産業であるアメリカを始め世界共通の問題である。また韓国のほとんどの映画祭では短編映画が数多く上映され、チケット争奪戦になるなど活況を呈している。短編で才能を認められた新人の監督や俳優たちが今後商業映画の世界で活躍し映画界を盛り上げる、ということも当然ありえるのだ。

 昨年末に韓国で公開された、日本映画『今夜、世界からこの恋が消えても』(22)のリメイク『Even If This Love Disappears from the World Tonight(英題)』(25)と、中国映画『僕らの先にある道』(18)をリメイクした『Once We Were Us(英題)』(25)という2本のラヴストーリーは国内で大ヒットを記録し、両作とも損益分岐点をすでに超えている(筆者も年末にこの2本をソウルの映画館で観たが、若者を中心に満席の大盛況だった)。2月11日の旧正月にはヒットメーカー、リュ・スンワン監督の最新アクション『Humint(英題)』が韓国で封切られる。ヨン・サンホ監督(『新感染 ファイナル・エクスプレス』)の未知のウィルスを題材にしたSFアクションホラー『Colony(英題)』も国内で5月公開を予定しており、ヒットが期待される(『新感染~』に続きカンヌでお披露目の可能性も)。

 さらに昨年、批評・興行の両面で成功した巨匠パク・チャヌク監督の『しあわせな選択』(3月6日公開)は、ゴールデングローブ賞3部門にノミネートされるなど賞レースを賑わせている。国際的な評価が高いナ・ホンジン監督(『哭声/コクソン』『チェイサー』)の新作で、ファン・ジョンミン、ホ・ヨン、マイケル・ファスベンダー、アリシア・ヴィキャンデルが出演する『Hope(英題)』は、今年のカンヌ国際映画祭でワールドプレミア上映されると予想される。韓国映画界の明るい材料は少なくない。

 今後は韓国のTVシリーズと映画の業界が、バランス良くうまく人材の交流を図りながら共存しつつ、共にクオリティの高い魅力的な作品の多くを生み出していくことを期待したい。
(文・小林真里)