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ひとりにつき650万円で承ります。『殺し屋、やってます。』

2017.04.25 Vol.689

 その殺し屋はコンサルティング会社を経営している。もちろん、そちらが表の顔で、殺し屋は裏の顔。殺しの料金は、一律650万円。この金額設定は、東証一部上場企業の社員の平均年収から算出している。日本を代表する企業の社員が1年間懸命に働いてようやく得られる金額を支払ってまで、相手を殺したいか。その覚悟を依頼人に問うという意味合いがあるらしい。依頼人と殺し屋をつなぐ男・塚原が事務所にやって来て「仕事が来たぞ」と言ったら、それが合図だ。ターゲットの写真と名前、住所、勤務先等を聞く。その日から3日間調査し、仕事を受けるか判断する。調査といっても殺人の動機などを調べるのではなく、本当に写真の人物がその名前で、居住地や勤務先に実在しているかを確認するだけ。動機など余計な情報はむしろ殺しをする時に邪念が入り妨げになるので、あえて聞かない。3日間の調査で依頼を受けると決めた場合、原則2週間以内に仕事を実行する。無事に(?)殺しが実行された事を知ると依頼人は成功報酬350万円を振り込む。前金300万円と合わせて計650万円のここまでが基本料金で、オプションはまた別料金。

 と、殺されるほうの事情や動機も気にせず、淡々と殺し屋という仕事に向き合う主人公。しかし、気になっちゃうのが人間というやつ。殺しのためにターゲットの日常行動を観察していると見える、不思議な行動や意外な秘密、そして殺し屋についた嘘などをそのままにしてはおけない。そこで彼の仕事がブレるわけではないが、冷静沈着で非情にも思える彼の人間らしさがほんのちょっと透けて見え、救われる。それぞれが工夫された7つの物語からなる同書、ブラックだがそのほろ苦さが心地良いエンターテインメント作品だ。

落語の世界にいらっしゃい!「落語ワンダーランド」

2017.04.25 Vol.689

“落語がブームだ”と言われ早十数年。今やブームではなく、余暇に落語を楽しむのがフツーになりつつある。かどうかはさておき、そこかしこに落語ファンを見つける事ができる。落語に興味を持ったらぜひ手にしてほしい一冊「落語ワンダーランド」が発売になった。春風亭昇太や春風亭一之輔といった、現在の落語ブームの先頭を走っている若手落語家から、大名人柳家小三治らのインタビューをはじめ、今見ておくべき落語家100人と新鋭落語家20人が大集合! 落語初心者に便利な落語の基礎知識、寄席・定席ガイド、落語のネタ紹介など盛りだくさん。さらに、気軽に楽しめる落語会案内、寄席デートの紙上シミュレーションなど、役に立つ実践的ガイドも満載。上方落語についての解説や噺家案内も。落語ファンも未来の落語ファンも楽しめる落語バイブルだ。

 

「あふれる」音楽『ゆずイロハ 1997-2017』ゆず

2017.04.25 Vol.689

 世に出しヒットした楽曲は数知れず! 数々の名曲を届けてきたデュオ、ゆずが自身初となるオールタイムベストアルバムをリリース。デビュー20周年のアニバーサリーを記念し、満を持して発表するもので、並んだ収録曲のタイトルを見ただけで、彼らの大きさを感じずにはいられない。それと同時に、2人の変わらぬ親しみやすさにも驚かせられる。『夏色』『栄光の架橋』、そして『雨のち晴レルヤ』など厳選した全50曲からは、彼らをずっと追い続けてきたファンならずとも、いずれかの楽曲がきっかけになって、さまざまな記憶が引き出される人も少なくないだろう。まもなく、アニバーサリーを祝うドームツアーもスタートする。

[J-POP ALBUM]Senha & Co. 4月26日(水)発売 3枚組3500円(税別)

「あふれる」音楽『THE LAST RIDER』Ron Sexsmith

2017.04.24 Vol.689

 カナダ出身のシンガーソングライター、ロン・セクススミスの最新作。一緒にツアーを回ったメンバーたちとともに完成させたという、これまでとは違うプロセスを経て制作した作品だ。ボーナストラックを含み全16曲を収録している。しっかりと地に足が着いた感のある芯のあるいい歌が並んでいて、楽曲それぞれから、ロマンティックだったり、メランコリックだったり、ビタースイートだったり、ハッピー感だったり、さまざまな感情が美メロに載せられあふれだす。ギターフレーズ、ピアノの音色、もちろんロンの声などが心の琴線に触れて、あらゆる方向へと揺さぶられる。

[ROCK ALBUM]ビッグ・ナッシング 発売中 2300円(税別)

今夏5年ぶりに仙台で「ジョジョ展」開催

2017.04.24 Vol.689

 アニメ化、実写映画化と話題の大人気マンガ『ジョジョの奇妙な冒険』誕生30周年を記念した「荒木飛呂彦原画展 ジョジョ展 in S市杜王町 2017」の制作発表会が24日都内で行われた。

 本原画展は『ジョジョの奇妙な冒険』の作者・荒木飛呂彦氏の出身地である仙台で行われる。仙台開催は5年ぶりのことで、期間は8月21日から9月10日となり、原画展をメインコンテンツとした「ジョジョフェス」として、作品の舞台となっているS市杜王町のモデルである仙台市が企画した。

 仙台市で原画展が行われるということもあり、仙台市がをモデルとしている杜王町が舞台の『ジョジョの奇妙な冒険』第4部と第8部を中心に多数の原画の展示をする。今回はモノクロで描かれている本編の原画が中心になるとのこと。

 

劇団公演ならではの味わい 小松台東『山笑う』

2017.04.23 Vol.689

 小松台東の作品は、作・演出を務める松本哲也が自身の出身地である宮崎県を舞台に、日常の何気ない出来事を何気なくそのままに、派手さも奇抜さも特になくあくまでシンプルに宮崎弁で送る。
 本作は女手一つで兄妹を育てあげた母親の通夜の夜を舞台としたもの。母に反抗し続けていた妹が東京から帰ってくるのだが、この妹は母の闘病中に一度も見舞いに来なかった。怒りを抑えきれない兄。それを見越してか、妹は東京から恋人を同伴させる。歓迎する者、あきれる者とさまざまな反応が入り交じる中、斎場の片隅にある親族控室で、母への想いを巡り家族が激しく、そして醜くぶつかり合うのだった。

 本作は2014年に「僕たちが好きだった川村紗也」というユニットに書き下ろした作品。再演を希望する声が多く寄せられたことから今回、劇団公演として再演することとなった。

 外部への書き下ろしということで、やや“行儀の良い”作品になっていたものに荒々しさとか生々しい部分もプラス。見終わった後に懐かしく、優しい気持ちになりながらも“座りの悪さ”のようなものを感じる作品になるという。

時が経っても風化しないもの かさなる視点−日本戯曲の力− Vol. 3『マリアの首−幻に長崎を想う曲−』

2017.04.23 Vol.689

 新国立劇場が今年3月から上演しているシリーズ「かさなる視点?日本戯曲の力?」のがラストを迎える。同シリーズは昭和30年代に執筆された日本戯曲の3つの名作を30代の気鋭の演出家によって上演しようというもの。

 今回は1959年に岸田演劇賞、芸術選奨文部大臣賞を受賞した田中千禾夫の名作。

 爆撃され被爆した浦上天主堂の残骸を保存するか否かで物議を醸していた終戦後の長崎。いつまでたっても結論の出ない市議会を横目に、原爆で崩れた浦上天主堂の壊れたマリア像の残骸を秘密裏に拾い集めて、なんとかマリア像だけでも自分たちの手で保存しようとする3人の女たちがいた。雪のある晩、最後に残ったマリアの首を運ぼうと天主堂に集まった彼女たちにマリアの首が語り出す…。

 戦争や被爆の体験を忘れようとする人々、その爪痕を残し記憶を風化させまいとする人々。さまざまな思いが詩的に、時に哲学的に描かれる。

 作品の上演の前に米国のシリアへの攻撃が起こってしまうなど、本作も観劇後に戦争についてなどいろいろと考えさせられることになりそうだ。

冷蔵庫の中身が変われば生き方が変わる『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』

2017.04.13 Vol.688

 37歳でフランスの名門料理学校、ル・コルドンブルーを卒業したアメリカ人の著者はある日、スーパーの中で衝撃的な光景を目にした。それはショッピングカートの中に、食材ではなく手軽に調理できる加工品が、やたらめったら投げ込まれていたのだ。思わずその女性を尾行し、行動を盗み見るとさらに大量の冷凍食品を次々と投げ入れていく。

 そして巨大なファミリーサイズの冷凍ハンバーグを手に取るのを確認したところで我慢できず、思わず話しかけた。著者はその女性との会話がヒントになり、加工食品に頼る女性10人を対象にした料理教室を開くことに。料理教室を始める前、著者は各家庭を訪問し、キッチンと冷蔵庫をチェックした。するとそこに意外な共通点を発見する。料理をしない女性たちの冷蔵庫にはぎっしりと物が詰まっているのだ。著者はレシピを教えるのではなく、女性たちの意識を変えることで、料理ができるようになると感じた。彼女が徹底してやったのが、テイスティング。塩、チキンスープ、オリーブオイル、チーズなど料理のベースとなる食材について、加工品からオーガニックのものまで数種類をテイスティングさせ、感想を言ってもらう。それがきっかけになり、自分たちがどんなに化学的な方法で加工されたものを食べていたかに気が付かされる女性たち。気付きを得た女性たちは、料理に対する苦手意識を克服していく。

 おいしそうなレシピとともに、食品廃棄の問題、添加物の問題、そして畜産業を含む生産から流通の問題までを取り上げたルポとしても興味深い。女性たちの成長とともに、自分の食生活を見直すきっかけとなる一冊。

スタートダッシュを楽しくキメる!『ニマイメ』スコット&リバース

2017.04.11 Vol.688

 米ロックバンド、ウィーザーのフロントマンであるリヴァース・クオモと米ロックバンドALLiSTERやthe HIATUSの細美武士らとのロックバンドMONOEYESで活躍するスコット・マーフィーの日本を愛する2人が日本語で歌うプロジェクトの最新作。前作『スコットとリバース』からは4年ぶりとなる。日本のロックサウンドと、ウィーザーを思わせるエモいメロディーラインが融合し、リスナーをキュンキュンどころかギュンギュンさせるアルバムだ。本作にはMONGOL800のキヨサク、RIP SLYMEのPES、miwaといった国内アーティストも参加している。楽しい1枚。

[J-POP ALBUM]ソニーミュージックジャパンインターナショナル 4月12日(水)発売 2400円(税別)

スタートダッシュを楽しくキメる!『ア・デイ・カムズ』勝手にしやがれ

2017.04.11 Vol.688

 結成20周年を迎えるジャズパンクバンド、勝手にしやがれが最新アルバムをリリース。常に熱量が高くクールでエネルギッシュなパフォーマンスが飛び出してくるような作品で楽しませてくれるが、アニバーサリーを迎える節目の作品だけに、いつも以上にスゴい! いつも以上にアツい! そして、とんでもなくカッコいい作品に仕上がっている。希望にあふれたタイトルトラックはもちろん、リスナーを本作の世界にいざなうような軽快な『デヴィットスター』、タイトルと相反するような『ア・デイ・ワズ』、『スウィート・バルカン・ビート』『コーヒー&タバコ』など音楽で旅しているような気分になってくる。

[J-POP ALBUM]UK.PROJECT  4月12日(水)発売 2900円(税別)

スタートダッシュを楽しくキメる!『Magical Fiction』チャットモンチー

2017.04.10 Vol.688

 福岡晃子と橋本絵莉子からなるチャットモンチーの2017年最初のシングル。タイトルトラックは80年代テイストのグルーヴのあるリズムが心地よい軽快な曲で、新年度とか新生活といった時節柄の新しさではなくて、過去にさらっとさよならして新しくスタートするリリックが載せられている。力強い応援ソングとは違うチャットならではの新しいスタートを演出する曲だ。カップリングには、ライブでたった1度だけ披露したチョコレート好きにはたまらない『ほとんどチョコレート』を浮遊感のあるサウンドで大胆アレンジ。ウルフルズの名曲を阿波踊りテイストを盛り込んでカバーした『かわいいひと』を収録。

[J-POP SINGLE]キューンミュージック 発売中 初回生産限定盤1265円 通常盤初回仕様1165円(ともに税別)

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