やっぱりテレビが政治をダメにした 【鈴木寛の「2020年への篤行録」 第49回】

 本コラムが先月掲載された後、政界の風景が恐ろしく一変しました。9月の3連休に衆議院解散の動きが突然報じられました。下落気味だった内閣支持率も回復の兆しをみせた一方で、民進党は新体制発足直後からスキャンダル騒動で大揺れ。「小池新党」の選挙準備も不十分であることから、安倍総理が一気に勝負に出てきました。

 ところが、小池百合子氏がここで電撃的な動きをみせます。水面下で進めていた新党旗揚げの準備を急加速させると、安倍総理が25日に記者会見で解散を正式に表明する直前に小池氏は緊急会見を行い、新党名を「希望」とすることと、自らが代表になることを明らかにします。

 もともとはその翌日に新党旗揚げの記者会見がある予定でしたが、1日早めてニュースを提供したのは、その日の政治ニュースが総理の会見一色になるところを、「安倍VS小池」の構図に持ち込むことだったのでしょう。実際、翌朝の新聞各紙の一面は総理会見がトップ扱いだったものの、準トップに小池氏の記事をもってきていました。まさに「目論見どおり」といえるでしょう。

 その後、民進党が公認候補を出さず、事実上、希望の党に合流する方向となり、維新などとも選挙協力が決定。これほど目まぐるしい政局の動きは、1993年の細川政権誕生や2005年の小泉総理が仕掛けた郵政選挙に匹敵、いや、それをも上回る激しさです。世の中が「小池劇場」に揺れる中、津田大介さんがツイッターで「今こそこの本を読もう」と勧めていたのが、4年前に刊行した拙著『テレビが政治をダメにした』(双葉新書)でした。

 この本は、情報社会学者としての知見を下地に、政治家時代に体験した生々しい話を加え、テレビに翻弄される政治の現場の実態に警鐘をならしたものです。本の中では、郵政選挙の事例から、テレビ番組、なかでも政治バラエティ番組に出ているかどうかが比例区の当落を分けている傾向などを明らかにし、政治家がテレビに迎合し、なかには芸能プロダクションと契約までして出演の機会を増やそうとする動きも指摘しました。

 政治がテレビに迎合し、テレビも政治を単純化・劇場化して伝えることに注力してしまわないか? 当たり前ですが、選挙で問われるべきは政策です。テレビ政治においては、“テレビ映え”しない、社会保障や教育、医療や年金といった地味でも非常に重要な政策の論議が後回しになる恐れがあります。いまこそメディア側に自戒を求めたいし、私たち有権者も厳しい眼差しで目を向けていかねばなりません。
(東大・慶応大教授)

東京大学・慶應義塾大学教授
鈴木寛

1964年生まれ。東京大学法学部卒業後、1986年通商産業省に入省。

山口県庁出向中に吉田松陰の松下村塾を何度も通い、人材育成の重要性に目覚め、「すずかん」の名で親しまれた通産省在任中から大学生などを集めた私塾「すずかんゼミ」を主宰した。省内きってのIT政策通であったが、「IT充実」予算案が旧来型の公共事業予算にすり替えられるなど、官僚の限界を痛感。霞が関から大学教員に転身。慶應義塾大助教授時代は、徹夜で学生たちの相談に乗るなど熱血ぶりを発揮。現在の日本を支えるIT業界の実業家や社会起業家などを多数輩出する。

2012年4月、自身の原点である「人づくり」「社会づくり」にいっそう邁進するべく、一般社団法人社会創発塾を設立。社会起業家の育成に力を入れながら、2014年2月より、東京大学公共政策大学院教授、慶應義塾大学政策メディア研究科兼総合政策学部教授に同時就任、日本初の私立・国立大学のクロスアポイントメント。若い世代とともに、世代横断的な視野でより良い社会づくりを目指している。10月より文部科学省参与、2015年2月文部科学大臣補佐官を務める。また、大阪大学招聘教授(医学部・工学部)、中央大学客員教授、電通大学客員教授、福井大学客員教授、和歌山大学客員教授、日本サッカー協会理事、NPO法人日本教育再興連盟代表理事、独立行政法人日本スポーツ振興センター顧問、JASRAC理事などを務める。

日本でいち早く、アクティブ・ラーニングの導入を推進。