【徳井健太の菩薩目線】第5回 脳を騙せば何だってできる。俺はフリスクで自分の脳をだました

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第5回目は、人間が感じる寒気、そして自己催眠について梵鐘をつき鳴らす――。



 今年の真夏に、夏風邪をひいたんだけど、改めて人間の脳みそって怖いなって思ったんだよね。

 ものすごく寒気を感じる風邪をひいたもんだから、パーカーを着て仕事に出かけたわけ。皆さんもご存知の通り、今年の夏は猛暑日の連続だったから、街中は薄着なのに汗だくな人だらけ。でも、俺はぶるぶる震えている……のに、汗がびっしょり。意味が分からないよね。体は猛暑を体感しているはずなのに、脳は極寒のような底冷え感を伝えてくるんだから。

 俺は、ふと、「これって麻薬や覚せい剤に近い体験をしているんじゃないかな」って思ったの。35℃を超える中、パーカーを着て汗ダクダクなのに、“寒い”と感じるってことは、脳みそ次第で、人間の感覚はどうにでもなるってことでしょ? ものすごく恐ろしいことですよ。同時に、「手を使わずに射精をする人も本当にいるんだ」って納得した。 「ラピュタは、本当にあったんだね」ってことだよ。

 以前、番組で催眠術にかかるっていう仕事があったんだけど、催眠術って「かかろう」という気持ちがないと、かからないらしくてさ。俺は疑い深いから、あんまりかからなかったんだけど、占いとか宗教が好きな人はかかりやすいらしい。催眠術師も、「ゲームみたいなもの」って例えていて、「かかりたいんだったらどうそ」って感覚らしい。ちなみに、かかって抜け出せるのが催眠で、そこから抜け出せなくなるのが洗脳。何かから抜け出せなくなっている人は、「洗脳されているのかもしれない」と、自分を疑ったほうがいいかもね。

 俺も『M- 1グランプリ』にエントリーしていた頃は、すごくメンタル的に厳しい時期だったの。俺たちにそんな大それた才能はないのに、なぜか吉村は「賞レースで結果を残したい」と躍起になっていた。

 まぁ、ポップさとか面白さとか、何かしらの分かりやすいアイコンがなかったから、吉村としては賞レースで箔をつけたかったんだろうなぁ。今は結成15年以内という条件だったけど、当時は結成10年だったから、7年、8年と経つにつれ、吉村からの「絶対に漫才で結果を残す。だから、しっかり俺のプラン通り漫才をしろ」的なプレッシャーが凄かった。当時の俺に対する扱いが非人道的だったことを忘れられないから、俺は今でも吉村を殺そうと思っているんだけど、そのときはそれ以上にストレスがやばくてね。とにかく、漫才が嫌いで仕方なかった。

 そんな具合でも、強制的に漫才の稽古をさせられる。気が付くと、俺は楽しくないときほど、口角を上げて「楽しいなぁ」って、あえて言葉にするようにしていたんだよね。完全に“末期”だよ。ブログとかで、ドクロの写真をUPする一歩手前の状態じゃん。

追い詰められて、フリスクをヤバい薬だと思って食べ続けた

 心療内科に行くかどうか迷ったんだけど、ここで薬に頼ったら、戻ってこれないと思ってさ。それでも追い込まれて、限界が近づいていることが分かる。そこで俺は、自分の脳みそをだます……つまり自己催眠をかけてみたらどうだろうって考えた。

 「毎日15分、人に見つからないようにフリスクをヤバい薬だと思って食べ続ける」

 これが俺がトライした脳みその騙し方だった。箱を銀のケースに入れ替えて、「これを食べると俺の脳みそは覚醒する、覚醒するんだ、覚醒しているんだ」って思いながら、ひたすら15分、ポリポリと食べ続けたの。人が来たら、ポケットに隠して、あたかもヤバいものを口に入れているような状況設定まで考えて。

 なんとか誤魔化し続けて、M-1にエントリーできなくなった2010年頃に、『(株)世界衝撃映像社』(フジ系)に出るようになった。俺のむちゃくちゃな言動が、そこそこ注目を集めるようになったけど、その裏には“フリスクという名のヤバいブツによる覚醒”があったから、と言えるかもしれない。

 自分たちのロケの評判も良くて、周りから「面白い」と言われるようになったあるとき……突然、ヤバい薬だったフリスクが、清涼菓子フリスクに戻ったんだよね。いつものように隠れて食べていたら、「これただのフリスクじゃん」って(笑)。今じゃフリスクを見ると、当時の地獄がフラッシュバックするから見たくもないくらい。でも、助けられたのは事実だし、自分の脳みそって騙せるもんなんだなって感慨深かった。

 脳みそさえ騙せれば、意外とどうにかなるのかもしれない。経験上、睡魔だけはどうにもならないけど、相当リアリティーのある自己暗示をかければ、自分の脳なんて騙せるもんだよ。

 ウサイン・ボルトがありえない速さで100Mを駆け抜けるじゃん? たしかにとてつもない身体能力があるんだろうけど、ボルトも、「俺はこれを食べればドーピングなんて目じゃないほどの速度で走れる肉体を手に入れる」みたいな感じで、競技前にチョコとかスナックとか食べているんだと思うよ。間違いなく、自己暗示をかけていると思う。超人みたいな選手って、脳みそにブレーキをかけない“何か”を食べていると思うんだよなぁ。でも、もとをたどれば同じ人間だから不思議。脳みそって、恐ろしいよ。

◆プロフィール……とくい・けんた 1980年北海道生まれ。2000年、東京NSC5期生同期・吉村崇と平成ノブシコブシを結成。感情の起伏が少なく、理解不能な言動が多いことから“サイコ”の異名を持つが、既婚者で2児の父でもある。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。