【いまライブで聴くべきバンド】西麻布「新世界」編

明るさとアンニュイさのコントラストが美しい「赤松ハルカ」

 赤松ハルカ(あかまつはるか)の作る楽曲を言葉で説明するのはとても難しいのですが、例えるなら「戦争が終わって、時代が明るくなった時にラジオから聞こえてくる」ような…。そんな、明るさとアンニュイさ、どちらも持っているアーティストです。

 彼女が歌う時、いつも余計なものは必要ないな、とそんなふうに感じてしまいます。照明なんていらなくて、道端でおもむろに弾いていても、そのオーラと空気感に飲み込まれてしまうような、そんな存在感や佇まい、呼吸の美しさを感じさせるアーティストです。

 座ってお酒のグラスを傾けながら聴いてほしいアーティストです。キャバレーで、BGMとして歌っているのに、意識のすべてがそちらにとられてしまうような…そんな陰の雰囲気が好きな人はぜひ一度生の歌声を聞きに来てほしいです。ライブによって他アーティストとのセッションもあり、かなり聴き応えがあると思います。

 大森靖子や酸欠少女さユリなど、ノンフィクションな痛みを歌ったアーティストが流行っていますが、彼女たちが20代の痛みを歌えるアーティストだとしたら、赤松ハルカは30代以降の「酸いも甘いも」を歌える人だと思います。
繊細なイントロと裏腹な深い音圧で世界観に飲まれる「UNCLOSE」

 UNCLOSE(アンクローズ)を初めてライブで見た時、久しぶりに「骨太な」ロックを聴いたな、と思わされました。美しいイントロから入る電子音ボイスなのに、曲展開はミクスチャーのような切り替わりを見せるので、急に「闇に飲まれる」という感覚に襲われます。ライブハウスで爆音で聞いても、演奏の上手さのおかげなのか「耳障り」ということがなく、ただのうるさいロックを聞きたくない人にはおすすめです。

 今らしい打ち込みサウンドは使いこなしつつも、人の演奏するバンドサウンド部分もしっかりと成立していて、生音と電子音のバランスがいいんです。そんな音圧が深さとは裏腹な、飾り気のないベースボーカルのREIの佇まいも印象的です。他のメンバーはガスマスクをつけてライブしていて、世界観が独特です。この空気感はやはり生音を聴いてこそ感じるものだと思います。
店長の尾崎さん
六本木の新しい文化と、新宿「ゴールデン街」の古き良き文化の融合したライブハウス

「新世界」は、六本木と西麻布の境目の高級できらびやかな雰囲気のある街にある。隣は有名なクラブ「西麻布エーライフ」。そう聞くとなんだか敷居の高い場所のように感じてしまうが、尾崎さんは次のように語る。

「もともと、ライブハウスの歴史やルーツとして、現在の形に至るまでに自由劇場であったり、音楽実験室として親しまれていたり、サブカルチャーの発信地としての歴史も受け継いだライブハウスなんです。そのために西麻布や六本木のクラブから流れてくるEDMとは真逆の、落ち着いた音楽を好む人も多いと思います。ライブハウスといったら爆音!……という雰囲気が得意じゃない人にはおすすめです。うちでは座席に座ってのアコースティックイベントなどもあり、イベントやステージに立つアーティストによって形式がガラリと変わるのも特徴のひとつなんです。その反面、下北沢のような”音楽好きのコミュニティ”感が薄いんです。サブカルのコミュニティって、服装がずれただけでちょっと仲間に入りづらい雰囲気があるけど、新世界はむしろ自分の美意識が強すぎて、周りと全く同調しないような個性を持つ人同士が、お互いを尊重しあえるような空気があります」

 挙げてもらったアーティストたちも、渋谷や下北沢のアーティストたちはまた違う、しかし六本木の典型的なイメージとも一銭を画す個性的なアーティストたちばかりだ。