徳井健太の菩薩目線 第73回 人付き合いって何だろう。“意味のないもの”で、「社会人パシリ」へと誘う洗脳装置だよね



 ボート仕事の帰り。共演した手相占いでおなじみの島田秀平さんのご厚意で、車に乗せてもらい帰路につく。

 過ぎ去る東京の街を見ながら、「やっぱり若手は、業界人が多そうな港区に住んだ方が仕事のつながりが増えるんじゃないですかね」なんて口にすると、島田さんは「俺も若いときにいろいろな人と付き合ってみたけど、仕事なんか一つも取れなかったよ」と話してくれた。

 つながりから得た仕事。芸人にとって、前説はその最たる例だけど、前説だけ続けていれば安定するかといえばそうじゃない。車は、外苑西通りを走行する。俺は、「風水的にどうなんですか?」と聞いた。すると、「ここはいい。 でも、風水的に西麻布は良くない」と、島田さんは教えてくれた。正直、俺はほっとした。 西麻布が風水的にも恵まれているのだとしたら、完璧すぎるじゃないか。

 人付き合いなんて、何の意味も持たないのかもしれない。若い頃、仕事欲しさにあれこれ付き合いを広めたとして、目先の一年、首の皮はつながる。でも、10年、20年と続くような仕事に辿りくなんて、幻想レベルだ。

 若手だった当時、前説の仕事はとても大事な仕事だと思っていたけど、いま振り返ると、そこから何かにつながったことはほとんどなかった。「ほとんどない」というと、『少しはあるんじゃないか』って思われるかもしれないけど、それを言うなら世の中の全てのことには、何かしらの“少し”の可能性はあるはずだよね。

人付き合いで得る仕事は、その大半が誰でもできる仕事。
真髄は、頑張れたか否か。


 人付き合いで得る仕事は、その大半が誰でもできる仕事だ。だからこそ、人付き合い程度の理由で振ってくれるんだと思う。一方でうちの相方のように、その蜘蛛の糸のようなわずかな伝手を頼りに、のし上がっていく人間もいる。でも、付き合いだけで仕事が舞い込むほど芸能界、自営業は甘くない。真髄は、頑張れたか否か。

 世の中には、誰にでもできる仕事がたくさんある。それゆえ、付き合いから派生する仕事もたくさんある。付き合いから派生する仕事の9割は、実は誰でも出来る仕事なんじゃないかと思っている。 誰でもできる仕事を振られたとき、大切なのは「またお願いします」という気持ちじゃなくて、「喰ってやる」という野心なんじゃないだろうか。秀吉が、信長の草履を温めていたとき、「またお願いします」なんて考えていたら興ざめだよ。

 たしかに、きっかけとしての付き合いは大事かもしれない。でも、その付き合いから頂戴しただろう仕事のためにヘコヘコしていたら、いつまでたっても誰でもできる仕事しか振られない。もはや仕事ではなく雑用だ。雑用を頂戴して喜んでいたら、「社会人パシリ」を宣言したも同然。誰でもできる仕事を自分がやり続けるのって、自分しかできない仕事の時間を失うことだ。

 焼きそばパンを買いに行って、「焼きそばパンを買いに行けるお前はすごい!」って褒められた――として、それを真に受けて喜ぶバカがどこにいる。「焼きそばパンを買いに行くのもアリだよな」なんて思えたなら、自分は洗脳されていると疑った方がいい。「焼きそばパンは美味しいだろ?」。そう言ってくるおじさん連中には気をつけてほしい。

「●●さんに嫌われたら終わりだ」。これはもう、人付き合いじゃなくて脅迫だ。 仮にその人に嫌われたとしても、日本の成人なんて何千万人もいるんだから、終わりなわけがない。むしろ脅迫めいた関係性の人と、なんちゃって仕事をしていくことのほうが、破滅に向かうだけじゃないかな。

 ただ――、これが20代で理解できるか? って言われるとなかなか難しい。人付き合いに翻弄される人が後を絶たない理由の一つが、これだ。どうしたってそんなややこしいことに気がつき始めるのは、30を超えてきてぐらいから。では、どこで見定めをすればいいのか、俺なりに考えてみる。

 俺の場合、自分がオファーをかける側になったとき、違和感を覚えるようになった。「この金額で声をかけていいんだろうか」、「この人の貴重な時間を使っていいんだろうか」、そう考えるようになったことで、翻って、いま自分が携わっている仕事と改めて向き合えるきっかけになったところがある。いつまでたっても使われる側にいちゃいけない。たとえそれが小さなことだったとしても、自分がディレクションする側にまわれるように、時間を使っていかないといけないよね。

 コロナは人付き合いを見直す良い機会だと思う。会いたくない人には、コロナを大義名分に「会わない」という選択をすればいい。自然と人に会う機会が減ってきて、本当に自分にとって大切な人や意味のある人が、見えてきたんじゃないだろうか。その関係をザルにかけて、こすってこすって、覗いてみたとき、人付き合いにどんな意味があるのか、清算する機会が今だと考えてみてはどうだろう。

【プロフィール】
1980年北海道生まれ。2000年、東京NSC5期生同期・吉村崇と平成ノブシコブシを結成。感情の起伏が少なく、理解不能な言動が多いことから“サイコ”の異名を持つが、既婚者で2児の父でもある。吉本興業所属。
公式ツイッター:https://twitter.com/nagomigozen 
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UC-9P1uMojDoe1QM49wmSGmw
<<< 1 2