WEAVER河邉徹 長編SF『アルヒのシンギュラリティ』は「心の問題描きたかった」

 3ピース・ピアノバンド「WEAVER」のドラマーにして、2018年に『夢工場ラムレス』でデビューした小説家でもある河邉徹。3作目となる小説『アルヒのシンギュラリティ』(クラーケンラボ)は、人間とAIを持つロボットが共生する街・サンクラウドを舞台に、天才科学者の息子・アルヒと幼なじみの少女・サシャを中心に、ロボットと人間それぞれの存在意義を見つめる長編SFだ。さまざまな表現手段を用いながら活動を行う河邉に、小説を書き始めたきっかけや創作の源泉について聞いた。
「WEAVER」のドラマーであり小説家の河邉徹(撮影:堀田真央人)
 河邉さんが小説を書き始めたきっかけを教えてください。

河邉徹(以下、河邉)「『夢工場ラムレス』という小説が僕のデビュー作ですが、『小説を書いてみようかな』と思って書き始めたのはその2〜3年くらい前からになります。僕はWEAVERというバンドでほとんどの楽曲の歌詞を書いていて、歌詞という形で表現したり自分の思いを伝えたりしてきました。歌詞はメロディーに制限される部分もありますが、一方でメロディーやサウンドにのってまるで言葉に翼が生えたように、言葉の持つ意味以上のものを人に届けることができる。もしもメロディーやサウンドがない場所で言葉だけで表現を突き詰めたら、自分にどんなものが作れるのだろうかという気持ちもあったし、そうすることで歌詞にもいい影響があるんじゃないかと思って小説を書き始めました」

 『アルヒのシンギュラリティ』はどのくらい前から準備されていたのでしょうか。

河邉「実は第一稿は、前作の『流星コーリング』よりも前にできているんです。もともと僕は大学時代に哲学を専攻していて、その頃から心があるものとないものの境目はどこにあるのか、ということを考えていました。人間には心があるし、犬や猫にもあると思うけれど、虫やテーブルには心があるのだろうか? 技術が発達して人間と同じように振る舞うロボットが出てきたら、そのロボットには心があると言えるのだろうか? 歌詞ではなかなか表現できなかった世界観ですが、小説という形なら表現できるのではないか、と思って書き始めました。その後、作家の中村航さんが主宰する『ステキブンゲイ』という小説投稿サイトで連載の話があって、中村さんに読んでもらってアドバイスをいただき、連載用の最終原稿が書き上がったのが今年の3月くらいです。

 僕は書いている時に勢いでその物語や登場人物を走らせる感覚があるのですが、今回は未来の街と登場人物のイメージを思い浮かべた段階で書き出しました。キャラクターが固まったり変わったりすることもあるけれど、登場人物が動き出したらそのキャラクターが進みたい方向に進ませてあげるのが大事だと思っています。たとえば登場人物が最初は『僕は〜』と言っていたのに、後半では『俺は〜』と言っていたとしても気にせず、自分がワクワクする心を持ったまま書ききって、そのうえでおかしなことがなかったか整理していくような書き方をしています。書き直しも含めると2〜3年かかっているんですけど、この物語に関しては最後まで楽しんで書くことができました」
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