ミュージシャンで小説家 WEAVER河邉徹が語る「この時代に僕が物語を届ける意味」

 3ピース・ピアノバンド「WEAVER」のドラマーで小説家でもある河邉徹。音楽と小説を行き来しながら表現活動を行う河邉に、最新作『アルヒのシンギュラリティ』(クラーケンラボ)に込めた思いや今後執筆したいテーマについて聞く。
長編SF『アルヒのシンギュラリティ』を上梓した「WEAVER」の河邉徹(撮影:堀田真央人)
 『アルヒのシンギュラリティ』についてもう少し詳しく聞かせてください。前半に散りばめられた違和感が、後半で回収されながら加速度的に物語が展開します。こうした構成は、執筆中にどこまで意識していたのでしょうか。

河邉徹(以下、河邉)「今回の作品は前半と後半で大きく章が分かれているのですが、前半の出来事が後半に意味を持ってつなげられたんじゃないかと思います。僕は歌詞を書く時にも、前半の言葉の意味が後半では変わって聞こえたり、前半で話していたことが後半に意味を持って響いてきたりするのが好きなんです。不思議ですけど物語というのは、それまでに起こったことや登場人物のことを考えて書いているうちに、前半では意識していなかった言葉が後半でより響くように出てくることが往々にして起こるんですよ。これ、うまく言えてるのかな?(笑)たとえば、僕たちには未来が見えていなくても、『あの時こうしていて良かった』とか『この人と出会えたから今ここにいる』といった、物語めいたことは誰の人生にも起こりますよね。小説でも主人公が物語の中で走り出していたら、未来に起こることが決まっていなくても、前半で起こったことが後半にうまく引き継がれていくんです。

 小説を書いている時は、本になったらどうなるかまでは想像できていません。ですから、出来上がった本をぱらぱらめくっていると、後半の好きなシーンのところで『うわ、あとこれだけしかページがない』と自分でも驚いたり。そもそも本が出来上がった直後は、もう直せないから怖くて全部通して読むこともできないですけど(笑)」

 言葉のリズムや光が射すような明るくみずみずしい文体が魅力です。文章を書く時に気をつけていることは?

河邉「僕は文章を一度書いたあとに散々読み直して、しっくりくるように書き直しています。語尾が『〜だった』なのか『〜である』なのか、『とても』という言葉がひと言入るだけでもリズムが変わります。僕がドラマーなのが関係あるのかは分からないですけど、文章の中でリズム感をしっかり整えていくことは、読んでもらいやすくするのに大事なことなんじゃないかと思います。書き直し過ぎると尖った表現が丸くなってしまうので、ちょっと変だけど印象に残るところは残しておくなど、自分でも気をつけなければいけないのですが」
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