緊急通販や単行本、パン販売も…コロナ禍で奮闘する『ビッグイシュー日本版』佐野未来【インタビュー】

 ホームレス状態にある人に、自社で発行する雑誌『ビッグイシュー日本版』を路上で販売してもらい、自立を支援しているビッグイシュー日本。昨年9月で設立17年目を迎えた同社だが、新型コロナウイルス感染症の影響で人の往来が少なくなった今、販売者は売り上げの低下など厳しい状況に置かれている。東京事務所所長の佐野未来さんに、改めてビッグイシューの仕組みやコロナ禍で新たに始めた取り組みについて聞いた。
「ビッグイシュー日本」東京事務所所長の佐野未来さん(撮影:蔦野裕)
『ビッグイシュー日本版』の販売の仕組みを教えてください。

「ビッグイシューはイギリスのロンドンで始まった取り組みです。1冊220円で雑誌を仕入れ、450円で販売し、差額の230円が販売者の収入となります。10冊で2300円、20冊で4600円と売れば売るほど収入になる仕組みです。とはいえ、最初は1冊も仕入れられない状態の方がほとんどで、10冊は無料で提供し、それを販売した4500円を元手に仕入れてもらいます。

 日本では2003年に大阪でスタートして現在、全国でおよそ110名の販売者がいます。50代以上の男性が中心ですが、リーマンショック以降や今回の新型コロナウイルスの影響で20〜30代の相談も増えています。この17年間の一番大きな変化は若年層の貧困化で、路上生活に非常に近いところにいる若い人が増えてきた印象がありますね」

 どのように制作しているのでしょうか?

「1日と15日発売で、大阪の編集部で編集スタッフとデザイナー、契約ライター、カメラマンなどが一緒に制作しています。国際ストリートペーパーネットワークと呼ばれる同じ使命を持つ全世界の100誌以上のストリートペーパーが加盟しているネットワークがあって、そこからも記事の配信があります。この仕組みの肝はいいコンテンツを作ることで、面白くないと読者に買いたいと思ってもらえませんよね。読み続けたくなるような雑誌でないと、販売者も誇りを持って路上に立つことができませんし、『あなたがいるから雑誌が買えてうれしい』という声は販売者のモチベーションにもなります。ビッグイシューはホームレス問題の解決を目指していますが、そのためにも質の高い雑誌を作ることがすごく大事だと思っています」

 雑誌販売以外はどんな活動を?

「路上生活が長期化する場合にはさまざまな課題が絡まり合っていることが分かり、2007年にNPO法人ビッグイシュー基金を設立しました。課題を解決するためのネットワーク作りや『路上脱出・生活SOSガイド』といった小冊子の作成・配布、シェルター(一時保護施設)およびステップハウスの運営、当事者から吸い上げた意見をもとに政策提案を行うなど、活動内容は多岐にわたります」
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