【学生起業】建築学を応用し「低コストなメタバース空間を実現」株式会社Urth・田中大貴さん
早稲田大学創造理工学研究科建築学専攻博士課程3年の田中大貴さん。2019年に文部科学省が主催する「GAP FUND PROJECTS」の支援を受けて2020年に株式会社Urthを創業し、現在は建築士を活用したメタバースを企業に提供している。
建築士の人材リソースを活用し、空間を表現手段に変える
「日本には建築士事務所がおよそ7万5000事務所あり、これはコンビニエンスストアの約1.5倍にあたる数です。この建築士の人材リソースを活用して、メタバースの開発とメタバース空間上の建築物の制作を行っています。株式会社Urthのミッションは “すべての個人が輝く社会を作る” で、それぞれが持っている個性を表現して認知され、最適に配置されることによってよりよい社会ができるのではないかという考え方です。例えば “今日はこの人に会うからこの服を着よう” とか “これを食べよう” ということはできますが、“この空間にしよう” というのはなかなかできませんよね。
実は人間が持つ表現手段の中で、“衣” と “食” はできているけど “住” はまだできていない。この “住” の部分を表現手段に変えることによって、その人のまだ表現されていなかった個性が表現され、知られていなかった能力が発揮されるのではないかと考えました。さらにオンライン上であれば、地理的な制約がないので無限の人に届けることができます。空間を表現手段にできるうえに、なるべく多くの人に伝えられるという理由でメタバースを選びました。
これまでは独自のメタバース空間を構築すると、開発コストに数千万円かかるという問題があったので、我々は建築士が普段使用するBIM(Building Information Modeling=ビルディング・インフォメーション・モデリングの略)やCADといった設計ツールのデータをメタバース用に変換できるシステムを開発しました。このシステムによって全国7万5000事務所にいる約32万人の建築士が生産拠点となり、従来の開発コストを大幅に削減できるようになっています。建築士にとっては隙間時間に取り組める新たな収益源となり、企業にとっては高品質なメタバース空間を低コストで実現できるメリットがあります」
建築に関心を持つようになったきっかけはあるテレビ番組から。
「『大改造!!劇的ビフォーアフター』というリフォーム番組を見て、“建築家っていいな” と思って建築学科を志しました。いざ入ってみたらちょっと閉鎖的な世界だなと思い、商学部のビジネスアイデアデザイン(BID)という授業に潜り込んだのですが、そこで “1週間で困りごとを100個見つける” という課題があって。他の学生が30個くらいしか見つけられないところをすぐに100個見つけられたことが、建築学科で学んだ “空間を使って人の困りごとを解決する” という考え方が他の領域にも応用できるという原体験になりました。
自分のアイデアで少しでも世界がよくなるなら、どんどん試してみたら面白いのではないかと思い、最初は東京都のテニスコートを一括検索できる予約システムを開発。さらに家庭教師をしている弟のためにオンライン契約システムを開発し、それを結婚式を挙げるカップルに芸大生がオリジナル曲を作るシステムに展開して『GAP FUND PROJECTS』で支援金を獲得しました。自分が建築士になって家を建てても幸せにできるのは10〜20人だが、全国の建築事務所の人たちが10倍家を建てられたらより大きな社会的インパクトがある。僕がリフォーム番組を見て感動したような瞬間がもっと生まれるのではないかと思い、2020年に起業しました」

