スマホアプリで心のバリアフリー。「出かける勇気と楽しさ」感じて

 「友人が“駅が怖い”と言う。ICTでなんとかできないか」。2014年、視覚障害の友人を持つ同僚が、こう相談を持ちかけた。それが、友枝さんと社会課題との出会いだ。

 メーカーの研究所やシンクタンク系企業で、CGやAI、医療システムに至るまで、ソフトウェア開発に従事した友枝敦さん。それまで障害のある人と接する機会はほとんどなかったが、2020年2月、仲間とともに、要配慮者が近くの支援者にサポートを求められるスマートフォンアプリ「袖縁」を開発する社会起業家になった。5年半の歳月を経て見えたのは、心のバリアフリーという闘いだ。
心のバリアフリーを目指すスマートフォンアプリ「袖縁」を開発した社会起業家の友枝敦さん
アプリ開発のはじまり

 同僚の相談を受け、社外の有志でアプリ開発に乗り出した友枝さん。これまで技術・研究志向を中心にキャリアを積んできたため、まずは、社会課題への意識や地域コミュニティの知識を学ぼうと、大学のソーシャルデザイン講座を受講したり、区の地域コミュニティ担い手養成塾を受講したりした。そこでNPOなど社会課題に取り組む人たちとの輪が広がり、新たなヒントやパワーを貰うことも多かったという。

 袖縁の仕組みは、シンプルだ。要配慮者は、出迎えや手助けが必要になったとき、アプリを使って、近くの配慮者に介助依頼ができる。出迎えや手助け等のボタンで依頼するほか、「筆談でお願いします」や「便座や流し方等、トイレの個室の案内をお願いします」など、自分の状況や好みにあった細かい要望を知らせる「あんちょこ(トリセツ)」欄を設けたり、「トイレは同性に案内してもらいたい」などのデリケートな要望にも対応するため、配慮者の性別が選択できるようにするなど工夫も凝らした。アプリの名には、「些細なことも、古くからの縁によるもの」という意味のことわざ「袖振り合うも多生の縁」をもじり、支え合いの願いを込めた。
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