世界で加熱するARグラス市場に挑む若き日本人起業家に聞く「起業を決意する熱量」の源泉
スマートフォンの“次のデバイス”として熱い開発合戦が繰り広げられているARグラス。その最も重要なディスプレイの開発で注目を集めるCellid。厚さわずか1ミリの透明ディスプレイを武器に、世界の先端メーカーが競い合う次世代市場へ挑む同社CEOの白神賢さんに、事業の着想から研究者時代の経験、そして起業に向かった原動力までを聞いた。
“次世代のスマホ”ARグラスの重要技術にいち早く挑戦
――やはり今、世界の最先端テック領域では、ARグラスはスマホの次のデバイスとして注目されているのでしょうか?
「そうですね。現在、多くのメーカーが“スマホの次のデバイス”としてARグラスを開発・販売しようとしている状況があります。我々も、スマホの次のデバイスとして期待されている ARグラス の開発を、ファブレスで行っています。特に当社が力を入れているのは グラス部分の透明ディスプレイで、外が見える状態のまま情報を重ねて表示できる、厚み1ミリの透明ディスプレイを作っていまして、メーカーや量産を目指す企業に向けて、ARグラス用の透明ディスプレイを提供するというビジネスを行っています」
――そのビジネスアイデアは、どのように生まれたのでしょうか。
「私はもともと素粒子物理学を研究していて、スイスのCERN(欧州原子核研究機構)で陽子衝突実験に参加していました。地下には山手線くらいの大きさのリングがあって、その中を加速された陽子が衝突することで新しい粒子が生まれるかを調べる研究です。新粒子が生まれる確率は極めて低いので、とにかく大量のデータを貯め、処理することが必要で、そこからAIやグリッドコンピューティングなど新しいコンピュータサイエンスの技術にも関わるようになりました。当時としてはとても新しい技術で、“これは面白い、社会実装したい”と思ったことが原点です。次に、“この技術を何に使うか”を考えたとき、デバイスは20年周期で大きく変わっているという点に着目しました。1960年代のメインフレームから1980年代のパソコン、2000年代のスマホへ。そこからさらに20年経ち、次は“身につけるタイプ”のデバイスになるだろうと考え、ARグラスの時代が来ると確信したのです」
――着目された当時、まだMetaもウェアラブルを明確に発表していませんでしたよね。
「そうですね、まだ“Facebook”だった頃です(笑)。ただザッカーバーグ氏もスマホ戦略の試行錯誤からウェアラブルに着目したのではないかと。見据えている未来は我々と近いのではないかと思います。今ではAI搭載のグラスを多くの人が構想していますし、ウェアラブルへの注目度は非常に高い。その潮流の最先端はやはりアメリカ西海岸なので、当社も現地にオフィスを構え、そこからグローバルへ広げていきたいと思っています」
――すでに世界では“次のスマホ”開発の熱い戦いが始まっているんですね。
「最先端テック領域では、プラットフォームや主要デバイスはアメリカが中心で、製造はアジアに移っています。ただその中でも、優れた材料や加工技術にアクセスしたい企業は多く、日本のエッジの効いた技術は今も求められています。ディープテック分野でも、日本が強みを発揮できる領域は大きいと思っています」

