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演劇の可能性を広げる実験的な新プロジェクト ワタナベエンターテインメント Diverse Theater『物理学者たち』

2021.09.15 Vol.745

「Diverse Theater」というのはワタナベエンターテインメントが立ち上げた、さまざまなクリエーター、プロデューサーとのコラボレーションにより、演劇の可能性を広げる実験的な新プロジェクト。その第一弾となる今回はオフィスコットーネの綿貫凜氏とタッグを組む。

 今回はスイスを代表する劇作・小説家・推理作家のフリードリヒ・デュレンマットの代表作の一つである『物理学者たち』をノゾエ征爾の上演台本・演出により上演する。

 物語の舞台は、サナトリウム「桜の園」の精神病棟。そこには「物理学者」の3人の患者が入所していた。そのサナトリウムで、ある日看護婦が絞殺される。犯人は通称“アインシュタイン”を名乗る患者で、院長は放射性物質が彼らの脳を変質させた結果、常軌を逸した行動を起こさせたのではないかと疑う。 しかしさらなる殺人事件が起き、事態は思わぬ方向へ動いていった。

 第二次世界大戦での甚大な原爆被害も記憶に新しく、ベルリンの壁建設や水爆ツァーリ・ボンバの爆発実験など、世界情勢が緊迫した 1961年に執筆された本作では「科学技術」そして「核」をめぐって渦巻く人間の倫理と欲望が描かれる。

キンプリ神宮寺が三島由紀夫の代表作に挑戦「神宮寺勇太を大放出したい」

2021.09.14 Vol.Web Original

 

 キンプリことKing & Princeの神宮寺勇太が11月から上演される舞台『葵上』『弱法師』に主演、ストレートプレイに初挑戦する。また、神宮寺は本作が舞台単独初主演となる。

 三島由紀夫の全八篇の短編戯曲からなる代表作「近代能楽集」の二編を連続して上演する。『葵上』は、「源氏物語」を原典に、嫉妬や欲望、情念など、心の内に秘められた闇を描く。『弱法師』は終末観に腰を据えた青年が主人公で、現実的なもの全てに対する敗北を表す最後の台詞が印象的な作品だ。

「初めて単独での主演舞台をやらせて頂く事を聞いた時、心臓のビクン!とする音が聞こえました」と、神宮寺。「主演として舞台に立たせていただける喜びと、自分にどこまで出来るのかな?という思いが同時に駆け巡りました。ストレートプレイに挑戦させて頂くのも初めてですし、色んなことが初めてづくしな作品になります。」

『葵上』では美貌の青年・若林光役を、『弱法師』では戦火で視力を失った二十歳の青年・俊徳役を演じる。

「2作品の役を演じる事は、決して簡単ではないと思いますが、この2つの作品を演じ切ることができた後に演じる事の楽しさや、表現の幅が広がっているように、全身全霊で稽古に臨みたいと思います! 来ていただけるお客様に今まで見た事のない、神宮寺勇太を大放出したいと思います」

 共演は、中山美穂ら。中山は『葵上』では光のかつての恋人・六条康子を、『弱法師』では俊徳を救おうとする調停委員・桜間級子を演じる。

 中山は「長い芸能生活の中で、お芝居の舞台というのは1度しか経験が無く、正直不安でいっぱいです。古典文学から近代劇にされた三島作品2作ですから、尚更歴史の重みを感じています」としたうえで、「人間の奥深い感情を、ストレートに演じることになると思うのですが、演出の宮田さん、キャストの皆さんと丁寧に思いを込めて演らせて頂きます。何より、足を運んで下さるお客様に満足頂ける『葵上』、『弱法師』をお届け出来るよう、努めて参ります」と、コメントを寄せている。

 演出は宮田慶子。

 11月に東京グローブ座、12月に梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティで上演。

野田の世界観を熟知したメンバーが揃った印象 桃尻犬『ルシオラ、来る塩田』

2021.08.30 Vol.744

 今年で第22回を迎える三鷹市芸術文化センターの名物企画「MITAKA“Next”Selection」の第2弾。

 桃尻犬は2009年に立ち上げた団体で、メンバーは作・演出の野田慈伸のみ。その作品は人間の悪意や杜撰さ、どうしようもなさ。人生のくだらなさ、つらさ、どうしようもなさ。それらがポップに楽しく、HAPPYに描かれる。

 今回の作品は10年前にコンビニに煙草を買いに行ったまま帰ってこない母親に置いていかれた兄妹のお話。2人はいつしか兄が妹を殴り始め、妹もなんとなく「嫌だなぁ」とは思いつつもあまり強く出られない関係に。その一方、隣の家は日曜のお昼に庭で焼き肉を食べるようなハッピーな家だったりするのにだ。この捨てられた兄妹をめぐり、それを助けたり、助けられたり、ただ一緒にいたりする人たちの隣をうらやむ羨望のお話。野田曰く「うるさく、元気がいいお芝居にしたい」とのこと。

 桃尻犬は公演のたびに俳優を集め、作品を作るスタイルなのだが、今回も野田の世界観を熟知したメンバーが揃った印象。

主演舞台『検察側の証人』開幕を前に小瀧望「今はエンタメを届ける必要があると思っています」と決意

2021.08.28 Vol.Web Original

世田谷パブリックシアターで8月28日開幕

 今年2月に行われた「第28回読売演劇大賞」で杉村春子賞と優秀男優賞を受賞した小瀧望(ジャニーズWEST)が主演を務める舞台『検察側の証人』が8月28日、東京・三軒茶屋の世田谷パブリックシアターで初日の幕を開けた。

 同作は「ミステリーの女王」として知られるアガサ・クリスティによって書かれた法廷を舞台としたミステリー劇。独り身の資産家婦人の殺害容疑で起訴された容姿端麗な青年・レナードは無罪を主張するが、状況証拠は不利なものばかり。逮捕され、彼をさばく法廷が開かれるが、唯一のアリバイを証言するはずの妻・ローマインはなぜか検察側の証人として現れ、「彼から『婦人を殺した』と告白された」と証言する。法廷を舞台に緊迫感あふれる応酬が展開され、最後はまさかの急展開を迎える。クリスティ自身も自伝の中で「これは私が描いた戯曲の中でも、お気に入りの一つであった」と語る作品が読売演劇大賞優秀演出家賞など数々の演劇賞を受賞するなど注目を集める演出家、小川絵梨子の新翻訳、新演出で上演される。

 この日はフォトコールが行われた後にレナードを演じる小瀧、妻・ローマインを演じる瀬奈じゅん、そして法廷でレナードを追い詰める敏腕検事マイアーズを演じる成河が取材会を行った。

今度狙うのは『自由』だ。東京芸術劇場『カノン』

2021.08.17 Vol.744

 東京芸術劇場では2009年に野田秀樹が芸術監督に就任以来、さまざまな自主企画による作品を上演している。その中に国内外の演出家が野田の戯曲に挑むというシリーズがあり、昨年3月には劇団・快快の野上絹代が『カノン』を演出する…はずだったのだが、その時期といえば新型コロナウイルス感染症の感染者が徐々に増え始め、イベント等の開催の自粛が求められ始めたころ。この公演もぎりぎりまで開催を模索。劇場入りまでしたものの、無念の公演延期となっていた。

 今回、関係者の尽力もあり約1年5カ月の時を経て、ついに公演が実現する。

 キャストについては一部を除き、昨年3月の公演メンバーらがそのまま出演。沙金役のさとうほなみが2021年4 月に世界190カ国同時配信された NETFLIX 『彼女』に主演し、注目を浴びるなど、俳優たちは昨年3月以降、それぞれの分野で大きく成長した。

 作品では思想や理想、人間の本質、若者たちの焦燥感といったものが描かれており、昨年3月でも十分上演の意義がある作品だったのだが、コロナ禍にある現在、その意義はより一層高まったと言えそうだ。

男たちが役を入れ替えながらモノローグを綴っていく「ティーファクトリー『4』」

2021.08.16 Vol.744

 本公演は昨年5月に世田谷パブリックシアターで上演される予定だったのだが、新型コロナウイルス感染症の拡大防止による緊急事態宣言が発出された影響で延期となっていたもの。

 1年3カ月の時を経て全スタッフ・キャストそのままに上演されることとなった。

 この戯曲は2011年に世田谷パブリックシアター学芸企画〈劇作家の作業場〉「モノローグの可能性を探る」という上演予定のないワークショップからスタートし、改稿とリーディングを重ねるなかで2012年に白井晃氏の演出で舞台化され、鶴屋南北戯曲賞、文化庁芸術選奨文部科学大臣賞を受賞するなど高い評価を得た。その後、ニューヨーク、ソウル、コペンハーゲンといった世界各国でも上演された。今回は川村自らが演出を手掛ける。これまで川村が他のカンパニーと演出家に書き下ろした戯曲をティーファクトリーで上演したことはなく、かなりのレアケース。

 物語は5人の男たちが役を入れ替えながらモノローグを綴っていく独特なスタイルで進む。どうやら被害者の遺族らしい彼らのモノローグから生と死、感情の停止といったものが浮かび上がる。

 コロナ禍で1年延期され、東日本大震災から10年の今年、この作品が上演されるというのも何かの縁と感じざるを得ない。

1934年初演のミュージカル・コメディ ブロードウェイ・ミュージカル『エニシング・ゴーズ』

2021.08.11 Vol.744

 1934年にブロードウェイで初演されたコール・ポーター作詞作曲のミュージカル・コメディ。主人公でナイトクラブの大スターのリノ、ウォール街のビジネスマンのビリー、社交界の華であるホープ、英国紳士のオークリー卿がそれぞれの思いを胸に同じロンドンに向かう船に乗船。そこに神父に変装したギャングのムーンフェイスやその情婦のアーマも乗り込んできて大騒ぎになり……。

 リノを演じるのは宝塚時代に男役を突き詰めて来た紅ゆずるで、本作が退団後初めてのミュージカルとなる。緊急事態宣言の発出によって東京・明治座での公演は一部中止となってしまったが、制作決定時の会見で、紅が「この作品を観劇している間は心を開放していただいて、明日から頑張ろうってポジティブに思っていただける作品にしたい」と話したように、元気をくれる舞台になるはずだ。

 本ミュージカルは日本では1989年に初演。それから再演を重ねて今回は8年ぶりの上演となる。8月11〜29日の明治座での公演の後は、名古屋、大阪、福岡でも公演がある。

こんな時代だからこそ演劇が見たい プリエールプロデュース『マミィ!』

2021.07.26 Vol.743

 

 1979年のNHK連続テレビ小説『マー姉ちゃん』で主演を務め一躍脚光を浴びるようになってからドラマ、映画、舞台、そしてバラエティー番組とさまざまなシーンで活躍してきた女優の熊谷真実。その美貌とパワフルなたたずまいは全く年齢を感じさせないものなのだが、実は昨年3月に還暦を迎えた。

 熊谷は個性豊かな家族の中で育ち、小さい頃はいじめられっ子だったという過去があるのだが、この還暦という機会に自分の人生を反映させた物語を作・演出家の田村孝裕の手で作品にしたいと思い、田村にオファー。今回の企画が立ち上がったという。

 今回、熊谷が演じるのは蒸発して15年も帰ってきていない夫を持った還暦を迎えた女。還暦の誕生日に祖母が危篤となってしまったのだが、それを聞きつけた夫が数年ぶりに帰宅。これを機に穏やかだった家族の時間がきしみ始める——という物語。

 熊谷は田村の作・演出による『世襲戦隊カゾクマン』というシリーズ三部作に出演。そちらはコメディー色の強かったのだが、今回はちょっと趣が変わった作品。

 放蕩する夫を演じるのが佐藤B作というのも絶妙なキャスティング。

こんな時代だからこそ演劇が見たい 劇団普通『病室』

2021.07.22 Vol.743

 三鷹市芸術文化センターの名物企画「MITAKA“Next”Selection」が22回目を迎える。今年は「劇団普通」と「桃尻犬」の2劇団が参加する。

 7月30日から上演が始まる劇団普通は劇作家・演出家・俳優の石黒麻衣が2013年に旗揚げした団体。所属劇団員という形はとらず、公演ごとに俳優を集め、石黒の作品を上演する。その作品は家族、きょうだい、友人のような間柄の人々の日常の生活を題材とし、独自の会話における間と身体性によって醸し出される緊張感を特徴としたもの。また「言葉」のみならず「身体言語」に着目し、リアリティーを極限まで追求した「会話劇」とは一線を画す「態度劇」とでもいうべき演劇の表現におけるあらたな試みをしている。

 今回の作品は2019年に初演されたもので、石黒の実体験をもとにしたもの。地方の入院病棟の一室を舞台に入院患者たちとその家族、病院関係者らの日々の生活や人間関係、そしてその人たちの人生が全編茨城弁で紡がれる。

こんな時代だからこそ演劇が見たい 音楽劇『GREAT PRETENDER グレートプリテンダー』

2021.07.14 Vol.743

 キスマイことKis-My-Ft2の宮田俊哉が主演する音楽劇。映画『コンフィデンスマンJP』などで知られる古沢良太が脚本・シリーズ構成を手がけた人気アニメ『GREAT PRETENDER』を舞台化、演技、歌、ダンスで届ける、コンフィデンスマン(詐欺師)たちと悪党のコンゲームだ。

 宮田演じる自称日本一のコンフィデンスマンのエダマメは、ひょんなことから詐欺師のローランに出会い、ハリウッドの映画プロデューサーをターゲットにした計画に加わることになる。しかし相手も慣れたもので、さまざまな提案を突き付けられ、窮地に立たされたエダマメは……。

 原作から飛び出してきたような宮田は、休憩を含んで約2時間半、ほぼ出ずっぱり。滝のような汗をかきながら、はったりをかまし、騙す。……そして騙される…?

 宮田のパフォーマンスも去ることながら、美弥演じるローランは、騙されてもいいほどのイケメンっぷり。原作にはない役どころの加藤が担当する面白パートもポイント。

 ドキドキハラハラの展開に、心が締め付けられるパートも。情報マシマシながら物語がスッと入ってくるのは秀逸!

こんな時代だからこそ演劇が見たい『物語なき。この世界』

2021.07.10 Vol.743

 本作は最近では映像の世界でも脚光を浴びる脚本家・演出家の三浦大輔の3年ぶりの書き下ろし作品。三浦はシアターコクーンには2015年にブラジル演劇の巨匠ネルソン・ロドリゲスの『禁断の裸体』の演出で初登場。2018年には自作の『そして僕は途方に暮れる』でエロスや暴力シーンを封印し、精緻なセリフで微妙な人間関係を演出し新境地を開いた。

 その後は映画、テレビドラマと映像の世界での作品が続いたが、今回は満を持しての演劇作品となる。

 今回の舞台は新宿歌舞伎町。10年ぶりに歌舞伎町のうらぶれた風俗店で偶然再開した売れない俳優と売れないミュージシャン。その出会いは「運命」というには間抜けすぎる出来事。自分の人生に「ドラマ」など起こるはずはないと諦めの気持ちを持つ平凡な2人だったが、この出会いをきっかけに2人に突然大きな事件が降りかかる。

 こう書くと「ドラマ」や「事件」を中心に描かれているように見えるが、三浦が描くのは「そもそも『物語』など存在するのか?」ということ。

「都合のいい出来事ばかり並び立てる」ことに違和感を感じる三浦がキレイごとやメッセージなしで、この世界の矛盾を暴く作品となる。

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