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座・高円寺で風煉ダンス『まつろわぬ民2017』。東北ツアーも敢行

2017.05.08 Vol.690

 2014年に上々颱風のボーカル・白崎映美を主演に迎え上演された風煉ダンス『まつろわぬ民2017』が5月26日から東京・高円寺の座・高円寺1で再演される。

「前回の公演が終わった時に“東北のお客さんにも見せてあげたい”という声を多くいただきました。公演後も白崎さんの『東北6県ろ?るショー!!』を手伝っていたこともあって、座・高円寺との提携公演が決まってから福島とか白崎さんの出身地の山形でツアーができないかな、と思っていたら“ぜひ呼びたい”と言ってくださる方もいて、今回、東京、福島、山形の3カ所で上演することになりました」というのは風煉ダンスの主宰で作・演出を務める林周一。

 同作は東日本大震災後、作家・木村友祐の『イサの氾濫』という小説にインスパイアされて“白崎映美&とうほぐまづりオールスターズ”というバンドを作ってライブを続けていた白崎の『まづろわぬ民』という楽曲に想を得て作られた作品。舞台は一軒のゴミ屋敷。行政によるゴミ撤去が行われようとしたその時に屋敷に住む老婆に誘われゴミたちの百鬼夜行が始まるというお話で、現在と過去の東北が絡み合う情念にあふれた作品だった。

「この芝居は東日本大震災とどうしても切っても切れない部分がある。2014年からたった3年だけれども、この3年という時間は長いようで短いもの。でもいろいろなことが変わってきている。避難指示なんかも解除されて、福島なんかも徐々に戻る政策も取られているけど、それに対してもいろいろな意見があるわけじゃないですか。でも今回の再演に関してはそういう難しい話には立ち入らないで、もっと普遍的な話、どこかの東北の過疎の町のゴミ屋敷で起こる騒動、みたいなふうに考えていたんだけど、手を付け始めると、もとが白崎さんの“東北に元気を取り戻そう”という目的で始めた東北6県ろ~るショー!!のために作った楽曲から想を得たこともあって、その根っこからは逃げられなかった。そうすると、前回の台本の甘かったところとか、実際に今では使えないところ、使いたくないところが見えてきた。キャストもいろいろと変動があったこともあって、大きな骨子、構成や流れはだいたい同じなんだけど全然違う話になった。2014年版はみんなが英雄を待っていた。そしてその英雄は帰ってくるんだけど、今回はそういうものに頼らないで自分の足で立って歩いていかないといけない、というような話になる。いわば英雄不在のお話で限りなく新作です」

 この3年間で林の気持ちの中でそういう考え方が大きくなってきた?

「3年間の間にそうなったのではなくて、自分がそういうものになっていかないといけないというところもあると思う。自分で立って、人を助けるということをやらないといけない」

 誰かに頼るのではなく、自分で立って、立てた人は誰かを助けていく。

「集団というものはお互いを頼り合って、信頼しあってやっていくものだと思うんですが、その集団論としての話の内容が僕らの風煉ダンスの現在の状況とたまたまシンクロするというか似たような感じになっているということもあります」

 最近、自主避難に関わる問題とか復興相の心無い発言といったニュースが世間をにぎわせているが、今回は特にこの話題にぶつけたわけではない。

「全然考えていなかったんですが、震災に重ね合わせて見てもいいし、全然関係なく見てもいい。あまり前情報なく見てもらったほうがいいっちゃいいのかもしれないですね」

 風煉ダンスは野外劇や既成の劇場ではないところを演劇空間に仕立て上げての作品が多いのだが、今回は座・高円寺という“The劇場”ともいえる場所での公演。

「野外とも違うしね。というか、実はだらだら長くやっていますが(笑)、きっちり劇場という空間でやるのは初めてなんです。稽古するスタジオがあって、楽屋も潤沢にあってという恵まれた環境をちゃんと使い切れるのかどうかという(笑)」

 他の劇団ではなかなか聞かない悩み。そして「来年は立川で野外劇をやりたいと思っている」という。彼らにとっては非常に“珍しい”劇場公演。果たしてどんな作品に仕上げてくれるのか。

心地よいアルバム『BEST SELECTION “blanc”/“noir”』Aimer

2017.05.07 Vol.690

 注目のシンガーソングライター、Aimer(エメ)がベストアルバムを発表。コンセプト別に選曲した白盤『blanc』と黒盤『noir』、2つの作品を同時にリリースした。白盤はバラード楽曲を中心にコンパイル。彼女が注目を集める大きなきっかけとなった野田洋次郎(RADWIMPS)楽曲提供の『蝶々結び』を始め、『あなたに出会わなければ?夏雪冬花?』、デビュー曲の『六等星の夜』など、1曲ごとに彼女の歌声が心にしみ込んでくる作品だ。一方、黒盤はエモーショナルな楽曲を中心に選曲している。ONE OK ROCKのTakaが提供した『insane dream』など全14曲を収録している。しっとりとした楽曲とハスキーな歌声の印象が強い彼女だが、本作のリリースによって彼女の魅力は広がっていきそう。これまでの彼女の軌跡をまとめた作品だ。

心地よいアルバム『in・ter a・li・a 』At The Drive In

2017.05.07 Vol.690

 米バンド、アット・ザ・ドライヴ・インが17年ぶりに放つ最新アルバム。メンバーのオマー・ロドリゲス・ロペスと、オマーの別プロジェクトのマーズ・ヴォルタを始め、ミューズ、シガーロスなどを手掛けたプロデューサーのリッチ・コスティがタッグを組んだ作品。メンバーが「信頼をすべてオマーにすべて託した」という本作では、2017年にアップデートされた彼らのロックが聞ける印象。17年のインターバルで否応なく盛り上がった期待感には、リリース前に発表してきた収録曲数曲のミュージックビデオを通じて、じわじわ少しずつ答えてくれてきた印象があるだけに、アルバムがリリースされれば待ちかねていたファンには熱狂が訪れそう。全11曲を収録。

価値感をぐらつかせる作品 イキウメ『天の敵』

2017.05.07 Vol.690

 SFやオカルト、ホラーといった題材を自由自在に操るイキウメ。作・演出の前川知大の作る作品は見る者の立ち位置を不安にさせ、そして「ない」とは分かっていながら「あってもいいんじゃないか…」とついつい思わされてしまうような価値観をぐらつかせるもの。

 今回は2010年に上演した短篇集『図書館的人生Vol.3 食べ物連鎖』の中の一篇をベースとした作品。

 ライターの寺泊は、食事療法の取材中、戦後まもない1947年に「完全食と不食」について論文を書いた医師、長谷川卯太郎を知る。その卯太郎の写真が料理家の橋本和夫に酷似していたことで、寺泊は二人の血縁を疑い、橋本に取材を申し込む。橋本のルーツは、食事療法を推進していた医師、卯太郎にあると考えたのだ。そこで橋本は寺泊に「長谷川卯太郎は私です。今年で 122 歳になる」と言ったのだった…。

 完全食を求めて生き延び、ついには人ではなくなってしまった男が世界の観察者となっていく物語。短篇集では駆け足にならざるを得なかったが、今回は男の100年間がじっくりと描かれる。

また今年は劇団を代表する作品である『散歩する侵略者』が7月に文庫化、9月に映画の公開、10月には舞台で再演される。8月には前川の作品を長塚圭史が演出する(Bunkamuraシアターコクーンほか)など、大きな話題がごろごろしている。

岩松了が若い俳優たちとじっくり! M&Oplaysプロデュース『少女ミウ』

2017.05.07 Vol.690

 M&Oplaysプロデュースではこれまでも劇作家・演出家の岩松了を作・演出に迎え多くの作品を発表してきた。

 岩松ほどの作家となると、どうしても大きな劇場で著名な俳優を起用しての公演が多くなってしまうのだが、今回は岩松自身が「何年かにいっぺんやりたくなる」という若手俳優たちとの小規模な劇場での公演。6年前に同じくM&Oplaysプロデュースで手掛けた『国民傘』以来、ザ・スズナリで最新作を上演する。

 その『国民傘』では、なぜ人は争うのか「戦争」についての考察がテーマとなっていたが、本作は一家心中の生き残りの少女・ミウをめぐる「虚偽と真実」についての青春群像劇となる。

 主演を務めるのはNHKの朝の連続テレビ小説『マッサン』でブレイクし、その後も映画『青空エール』など映像作品への出演が続く堀井新太、ドラマ『時をかける少女』で連続ドラマ初主演を果たし、映画『オケ老人!』など映画やドラマでの活躍が目覚ましい黒島結菜。黒島は一昨年のM&Oplaysプロデュース『虹とマーブル』以来2度目の舞台出演となる。

 この2人をはじめ10人の若手俳優が出演する。この作品をきっかけに大きな飛躍を遂げる俳優もいるだろう。そんな目線でも楽しめそうな作品。

日本人、絶滅『プログラム』【著者】土田英生

2017.05.06 Vol.690

 著者は劇作家で、演出家、俳優の土田英生。劇団「MONO」代表で、99年に『その鉄塔に男たちはいるという』という作品でOMS戯曲賞大賞を受賞。2001年には『崩れた石垣、のぼる鮭たち』で芸術祭賞優秀賞を受賞した。ほかにも、多くのテレビドラマ・映画脚本の執筆を手掛けるベテランだが、同作が小説家としてのデビュー作となる。

 舞台は東京湾上に作られた人工島・日本村。そこは島全体が日本をイメージしたテーマパークになっており、純粋な日本人以外は、住んでいる人も訪れる人も全員バッジ装着の義務がある。閉じたその島には、安全・安心な夢の次世代エネルギーとして世界中が注目するMG発電の巨大な基地と本社があった。ある日、その島の上の空に赤い玉が浮かび上がり、それが徐々に空全体に広がっていった。空が赤く染まっていくに従い、二度と起きることのない永遠の眠りにつく強い眠気が島にいる人間を襲い…。

 作品全体のベースはSFで、近い未来に起こりそうな設定が不安をあおる。しかし物語は「燕のいる駅?午前4時45分 日本村四番駅」、「妄想と現実?午前9時55分 大和公園」など、短い話が時系列に連作となっており、その一つ一つは笑えたり、微笑ましかったり、バカバカしかったりする。そこには普通の人たちの日常があり、迫りくる“その日”を意識させるものはない。けれど、その人々が小さな出来事に右往左往し、人として普通の生活をしている事が逆に、赤い空が広がる描写と相反し、不気味さと不安を増していく。些細なことに喜びや悲しみ怒りを感じ1日1日を生きる。そんな普通の人の日常を脅かす“その日”は、現実世界でも案外近くに迫っているのかもしれない。人類の終末を予言しているような衝撃作だ。

「あふれる」音楽『Girl』秦基博

2017.04.29 Vol.689

 シンガーソングライターの秦基博の最新シングルは、ドラマ『恋がヘタでも生きてます』の主題歌。もれなく、きゅんとさせられる楽曲で、老いも若きも男も女も恋したい気分になることは間違いなしの楽曲だ。この曲はもともとアルバム『Signed POP』(2013年)に収録されていた曲で、今回シングルとしてリカットされた。曲の冒頭、♪ふわり?から始まるサビから、ふわふわと柔らかい感触と、誰かを愛しく思う気持ちがあふれてくる。カップリングには『70億のピース』を弾き語りバージョンで収録した。

[J-POP SINGLE]AUGUSTA RECORDS 5月3日(水)発売 初回盤(CD+DVD)5800円 通常盤1000円(ともに税別)

「あふれる」音楽『So Good』Zara Larsson

2017.04.28 Vol.689

 才能と美貌、“天が二物を与えた”次世代ポップクイーンとして注目を集める、 ザラ・ラーソンの日本デビューアルバム。ダンサブルかつポップ、耳の肥えたEDMファンをも夢中にさせるサウンドが特徴で2015年にリリースしたシングル『ラッシュ・ライフ』が世界的にヒット。今や音楽ファンの必須のサービスとなっているSpotifyは「最も再生されたスウェーデンの女性」に認定している。アルバムも心地よい楽曲が勢ぞろいで『ソー・グッド』!な内容。今夏のサマーソニックでの来日が決定し、日本でも人気に火がつきそう。キュートでクールで、ポップでEDM。好きになる要素しかない。

[DANCE ALBUM]ソニーミュージックジャパンインターナショナル 5月3日(水)1800円(税別)

ひとりにつき650万円で承ります。『殺し屋、やってます。』

2017.04.25 Vol.689

 その殺し屋はコンサルティング会社を経営している。もちろん、そちらが表の顔で、殺し屋は裏の顔。殺しの料金は、一律650万円。この金額設定は、東証一部上場企業の社員の平均年収から算出している。日本を代表する企業の社員が1年間懸命に働いてようやく得られる金額を支払ってまで、相手を殺したいか。その覚悟を依頼人に問うという意味合いがあるらしい。依頼人と殺し屋をつなぐ男・塚原が事務所にやって来て「仕事が来たぞ」と言ったら、それが合図だ。ターゲットの写真と名前、住所、勤務先等を聞く。その日から3日間調査し、仕事を受けるか判断する。調査といっても殺人の動機などを調べるのではなく、本当に写真の人物がその名前で、居住地や勤務先に実在しているかを確認するだけ。動機など余計な情報はむしろ殺しをする時に邪念が入り妨げになるので、あえて聞かない。3日間の調査で依頼を受けると決めた場合、原則2週間以内に仕事を実行する。無事に(?)殺しが実行された事を知ると依頼人は成功報酬350万円を振り込む。前金300万円と合わせて計650万円のここまでが基本料金で、オプションはまた別料金。

 と、殺されるほうの事情や動機も気にせず、淡々と殺し屋という仕事に向き合う主人公。しかし、気になっちゃうのが人間というやつ。殺しのためにターゲットの日常行動を観察していると見える、不思議な行動や意外な秘密、そして殺し屋についた嘘などをそのままにしてはおけない。そこで彼の仕事がブレるわけではないが、冷静沈着で非情にも思える彼の人間らしさがほんのちょっと透けて見え、救われる。それぞれが工夫された7つの物語からなる同書、ブラックだがそのほろ苦さが心地良いエンターテインメント作品だ。

落語の世界にいらっしゃい!「落語ワンダーランド」

2017.04.25 Vol.689

“落語がブームだ”と言われ早十数年。今やブームではなく、余暇に落語を楽しむのがフツーになりつつある。かどうかはさておき、そこかしこに落語ファンを見つける事ができる。落語に興味を持ったらぜひ手にしてほしい一冊「落語ワンダーランド」が発売になった。春風亭昇太や春風亭一之輔といった、現在の落語ブームの先頭を走っている若手落語家から、大名人柳家小三治らのインタビューをはじめ、今見ておくべき落語家100人と新鋭落語家20人が大集合! 落語初心者に便利な落語の基礎知識、寄席・定席ガイド、落語のネタ紹介など盛りだくさん。さらに、気軽に楽しめる落語会案内、寄席デートの紙上シミュレーションなど、役に立つ実践的ガイドも満載。上方落語についての解説や噺家案内も。落語ファンも未来の落語ファンも楽しめる落語バイブルだ。

 

「あふれる」音楽『ゆずイロハ 1997-2017』ゆず

2017.04.25 Vol.689

 世に出しヒットした楽曲は数知れず! 数々の名曲を届けてきたデュオ、ゆずが自身初となるオールタイムベストアルバムをリリース。デビュー20周年のアニバーサリーを記念し、満を持して発表するもので、並んだ収録曲のタイトルを見ただけで、彼らの大きさを感じずにはいられない。それと同時に、2人の変わらぬ親しみやすさにも驚かせられる。『夏色』『栄光の架橋』、そして『雨のち晴レルヤ』など厳選した全50曲からは、彼らをずっと追い続けてきたファンならずとも、いずれかの楽曲がきっかけになって、さまざまな記憶が引き出される人も少なくないだろう。まもなく、アニバーサリーを祝うドームツアーもスタートする。

[J-POP ALBUM]Senha & Co. 4月26日(水)発売 3枚組3500円(税別)

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