【徳井健太の菩薩目線】第13回「俺のような飼い犬になるな」徳井健太が予想する“2019年お笑い界の展望“

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第13回目は、2019年のお笑い界の展望について、独自の梵鐘を鳴らす――。

 賞レースで何の結果も出していない俺が、気が付くとお笑いに対して一家言を持つ審査員みたいなポジションになっていることに、自分自身、『疾風伝説 特攻の拓』よろしく、「!?」ってなってるの。どうしてこうなったのか分からないんだけど、年も明けたことだし、さらには元号も変わるから、2019年のお笑い界はどうなるのか、ちょっと考えてみる。

 昨年のM-1は、霜降り明星の優勝で幕を閉じたわけだけど、未来を予感させるシーンがあってさ。1回目のネタが終わった後に、松本さんが「このまま行くかも……だって、トロフィーのシルエットが2人のまんま」といったコメントを発したことを覚えている? 普通、松本さんからそんなことを言われたら、「いやいや! ハードル上げないでくださいよ!」みたいになるもんだけど、彼らは「ホンマや! よし!」みたいなリアクションをしたの。それってすごいことで、良い意味で痛い。何というか、セオリー通りじゃない。そういう若手がタイトルを取って、この後、活躍すると想像したら、テレビにおける笑いが変わってくるんじゃないのかなって思った。

 そろそろ、「俺が飼い主だよ」って気持ちを持った若手が出てきてほしいよね。俺みたいに飼われるんじゃなくて、飼い主的な芸人が出てきてほしい。俺自身、毎日、「狼は生きろ、豚は死ね」と思って生きているけど、飼い主になるか、飼われる側になるかは別問題。実際問題として、動物園にもオオカミはいるわけでさ、オオカミだって飼われてんだよ。豚で飼われてる奴が、1番ヤバいんだ。

 俺もさ、バラエティ番組に出演していて、ここ数年の流れをいろいろと考えることがある。やっぱりテレビの中で発言していることが、そのままネット上で取り上げられて、ときに炎上したりすることが珍しくなくなった。だから、頭の中でどうしても法定速度を意識して話してしまう。“置きにいく”話し方をすると、どうしたって芸人特有のキレはなくなる。法定速度を守って丁寧に置きにいったら、それはもう宅配業者だよ。

 やっぱり一歩踏み込んで、「死んでまえ!(笑)」みたいなツッコミやコメントを言えるのかってのは、今のテレビではものすごく難しいところがあるけど、それを笑いに昇華させることができれば、俺は別に問題ないと思う。ところが、ネットがそれをつまみ食いして、意図的に集団食中毒を発生させる。そう考えると、飼い主タイプの他に、そのねじれを破壊するようなタイプの芸人も頭角を表すんじゃないかと思う。というか、現れないといけないよ。野性爆弾のくっきーさんが、その風穴を空けたことで、機運も高まっていると思うしさ。


飼われるな。ブリーダーにもなるな。良き飼い主たれ

 この前、ヨシモト∞ホールでたまたま若手のネタを見る機会があったの。お客さんの評価によって自分の位置するクラスが昇格、降格する入れ替え戦だったこともあって、若手はここ一番のネタで望むわけ。ビックリしたことに、自分たちにしかできないようなネタで勝負する若手がとても多かった。

 裏を返すと、パッケージとして落とし込むようなベタなネタで勝負しない。むちゃくちゃ、尖ってんの。お客さんの女の子もベタなものでは笑わない。いや~、面白い時代が到来するよ、間違いなく。そういう才能豊かな子たちは、安易に飼われないでほしいね。ヤバいブリーダーってどこにでもいるから。これを読んでいる皆さんにも言いたい。飼われるな。ブリーダーにもなるな。良き飼い主たれ。

 平成は、「空気を読む」って文化……文化かどうかは分からないけど、一つのコミュニケーションを作ったと思う。でも、それって良くも悪くもじゃん。新しい元号になることで、そろそろ空気を読む、読まない、読めない、みたいな距離感で、相手と話したり、モノを作ったりするのは良くないんじゃないかなって思うんだよね。「空気を読む」って、俺からしたら洗脳文化だよ。

 そう思い込んでいるけど、実際のところは、相手がどう受け取るかなんて分かんないんだから。アクションがあってはじめてリアクションが起きる。「こいつ空気が読めない」ってのはリアクションなわけであって、アクションを起こす前からリアクションを気にするなんて、本来はおかしなことなんだよね。

 教科書通りにやらない人(やれない人)を、「KY」と評さないコミュニケーションや関係性……「空気を読む」とは違う表現が生まれることを望むよ。新世代の芸人たちには、そういう新しい言葉を作ってほしいなぁ。このままだとパンクロッカーを指さして、「法定速度が守れない人」とか言い出しかねない。そんな標識ばかりの道路、誰が走りたい? 安全第一なのは大いに結構。でも、快適に走る=標識が多い、とは俺は思わない。俺自身もそういうことを考えながら、2019年も生きていきたいよ。

【徳井健太の菩薩目線】は、毎月10日、20日、30日更新です

◆プロフィール……とくい・けんた 1980年北海道生まれ。2000年、東京NSC5期生同期・吉村崇と平成ノブシコブシを結成。感情の起伏が少なく、理解不能な言動が多いことから“サイコ”の異名を持つが、既婚者で2児の父でもある。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。