【徳井健太の菩薩目線】第15回「無駄なところに、個性やプライドを持つことで、神は細部に宿る」

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第15回目は、神を細部に宿らすだろう“無駄なこだわり”について、独自の梵鐘を鳴らす――。

無駄なところに、個性やプライドを持つことで、神は細部に宿る

場所は、二の次でもいい。大事なことは、それ自体を抱くこと

 吉本に、そろそろ結成8年目を迎えるサンシャインって若手がいる。彼らは今、一年間で100本のネタを作るって企画をしていて、たまたま俺はライブを見に行く機会があったの。
 
 ネタに関しては明言は避けるけど、そのライブでとてつもないイナヅマが走った。お笑いライブって、漫才やコントの合間に出囃子的な曲が流れるんだけど、その曲がまぁ~カッコよかった! ライブが終わった後も、「あの曲、なんて曲なんだろう」って余韻に浸りながら帰路についたほど。

 思い返せば、ピースが単独ライブをしていたときも、又吉くんがまるでDJのようにカッコいい曲を使っていた。観に来たお客さんのアンケートを見ると、「あの曲はなんていう曲ですか?」「曲がカッコよかった!」なんて意見も多くてさ。ネタの感想がなくなるなんて、本末転倒じゃないのか? 当時の俺は、そんなところにまでこだわって意味があるのか懐疑的だった。でも、40も近くなって、改めてオッサンになった視点で見てみると、そのこだわりがどうしようもなく愛おしいことに思えてきた。

 無駄なところに、個性を持つこと、プライドを持つこと……“神は細部に宿る”って、こういう延長線上に存在するようになるんじゃないのかなって。

 俺たちは、単独ライブをしなくなって随分経つ。回を重ねるごとに、単独ライブのタイトルもシンプルになっていった。というのも、考えれば考えるほどダサくなるような気がしたし、歳を重ねるにつれ、「そんなところにこだわるなんて中二病だろ」といった気恥ずかしさがあった。ところが、サンシャインのライブを見て、無駄かもしれないところにこだわるということは、表現の末端であり、初期衝動をもっとも表現しやすい部分なんじゃないのかなって思った。

 もし、平成ノブシコブシが単独ライブをするとなったとき、俺たちは間違いなくコントの内容や、いかにして集客をするかってことしか考えられないと思う。でも、それじゃダメなんだなって気が付かされた。タイトルや合間の選曲にもこだわるからこそ、全体の質が上がっていくんだろうなぁと。


無駄なこだわりが、いつしか配慮やメッセージに変わることもある

 もちろん、全員に当てはまることじゃないと思う。職人のように、自分たちはネタを考えることに集中して、演出家にそういった部分を任せる方法だってある。ただ、初期衝動をどこかにぶち込むことって、生きている手前、とても大事なことなんじゃないのかなって思う。メインディッシュに初期衝動をぶち込むのは、なかなかリスキー。だったら、お笑いライブでいうところの合間の曲みたいなサイドディッシュにぶち込めばいい。核となる部分じゃなくて、末端にぶち込むだけで、大分、人間らしさが変わってくるんじゃないかなと思う。

 まるで少年のように、いつまでも核そのものが初期衝動的な人がいる。やっぱりそういう人たちってカッコいいよね。でもさ、そんなことができる人はごく少数だし、そもそも真似しようにも理性が働いて、ブレーキをかけがちになる。ところが、末端の部分だったら初期衝動をぶち込めそうなもんじゃない。大切なことは、個性を持つことやプライドを持つことであって、それらを宿す場所は二の次でもいいのかもしれないということ。そうするだけで、いろいろと伝わるものが変わるような気がするよね。

 俺がラーメンを好きな理由も、そういった無駄な……といったら失礼だけど、ここは誉め言葉として受け取ってほしい、無駄なこだわりが全開だからこそ。化学調味料ととんこつのスープを加えれば、それなりに美味しいラーメンは作れる。でも、本当に上手いラーメンって、信じられないような手間ひまをかけて作る。早朝から仕込んで、常に立ち仕事と根気のいる作業の連続……ラーメンを作っている職人さんが早死にするのは、不思議なことじゃないんだよね。なぜ自ら、死や、体を壊してしてしまう仕事を選んでいるんだろうって思う。だからこそ、一杯でも多く食べたいと、俺は思う。どれだけ旨くても、楽な作り方をしているラーメン屋には行きたくないよね。

 世の中には、無駄なこだわりがあふれている。割りばしとプラスチックの箸、どちらも置いてあるそば屋とか。一つにしたほうが片付けもコストもかからないのに、双方を用意している。そういった無駄なこだわりって、いつしか気遣いとか、示唆に富んだメッセージとして、世の中に溶け込んでいる。そう考えると、無駄なこだわりって大事だなって、改めて思うんだよね。

徳井健太の菩薩目線】は、毎月10日、20日、30日更新です

◆プロフィール……とくい・けんた 1980年北海道生まれ。2000年、東京NSC5期生同期・吉村崇と平成ノブシコブシを結成。感情の起伏が少なく、理解不能な言動が多いことから“サイコ”の異名を持つが、既婚者で2児の父でもある。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。