【徳井健太の菩薩目線】第36回 “アイドル界のシソンヌ”を誕生させるような場所を作りたいよね

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第36回目は、アイドルが抱えるある問題について、独自の梵鐘を鳴らす――。
 今年の春から、『徳井健太のアイドル理論』(Kawaiian for ひかりTVにて配信中)という番組を担当している。日本全国のアイドルを訪問して、彼女たちの本音に迫りつつ、ご当地を案内してもらうという内容だ。
 
 「どういうアイドル番組にしたいですか?」と問われた俺は、「その日の身銭を稼ぐためだけに、安易にファンに媚を売るようなアイドルではなく、真正面からアイドル活動をしている人たちに会ってみたいです」と回答してしまった。スタッフの皆さんには、全国広しと言えど、ガチのアイドルを探す形になってしまった。大変なご足労をかけることになり、申し訳ないやら、ありがたいやら、であります。

 番組では、アイドルの本音を聞き出すわけだけど、だいたい悩んでいる。これまで金沢、名古屋、福岡などのご当地アイドルと話をしたけど、まぁ悩んでいる。人間のリアルをひしひしと感じる。というのも、アイドルを見てきた俺の私的な視点で恐縮だけど、大きく3つにファン層が分かれていると感じる。それは以下のようなものだ。

 1:頑張っているアイドルを一生懸命応援するライト層
 2:アイドルに対して知識や態度でマウンティングをするディープ層
 3:近づいてワンチャンを狙おうとするチャラ層

 大方、どのグループ、アイドルもこの3つの層に分かれるように思う。そして、悲しいかな、お金を落とすファン層って、だいたい「2」「3」に偏りがちになる。「1」は、熱量こそ素晴らしいものの、なかなかお金を落とさない(落とせない)。そして、“安易にファンに媚を売るようなアイドル”は、「2」「3」を併せのむため、経済的に余裕が生まれやすい。つまり、真面目であればあるほど、活動は限定され、アイドルという仕事を続けるか否かを含め、自身と向き合う可能性が高くなる。

 『徳井健太のアイドル理論』では、そんな彼女たちの悩みに、俺が耳を傾けることが、おなじみの光景になりつつある。自分が、瀬戸内寂聴みたいになっていることに申し訳なさを感じるほどだよ。俺だって、彼女たちの煩悩を聞きたくて番組を担当しているわけじゃない。真剣に頑張っている子たちの苦悩やまなざしを知ってほしいだけなんだ。

 

誠実さや真面目さが評価される世界がないといけない




 「真面目」という言葉ほど、解釈の難しいものはないと感じる。もちろん、素晴らしいことではあるんだけど、「じゃあ、真面目だったらそれでいいんですか?」と問われると、答えに詰まる。

 例えば、とても真面目な異性がいたとする。酒もタバコもやりません、ギャンブルにも興味がありません、日課は毎朝のランニング……そういった真面目に生きている異性が眼前に現れたとして、魅力的に映るかと言われると、「健康的ですね」としか言いようがない。真面目さや誠実さというのは、多少の不良さや歪みがあったほうが、より存在感を増すように感じてしまう。不良が優しいと無駄にキュンとしてしまう、あの謎現象にも通ずる。

 これって、アイドルにも当てはまる気がするんだよね。真面目で、一生懸命なアイドルに対して、どこかでファンも「一生懸命応援しなければ」というレスポンスのフィルターがかかってしまうのかもしれない。健康な人を健康な人が応援するって構造は、美しい。だけど、見方によっては、野菜や果物ばかりが並んだ食卓に見えなくもない。

 だからといって、誠実さや真面目さが評価されない世界は狂っている。そういった子たちを評価する受け皿がないと、やりきれないよね。その努力や才能に対してパトロンが支援する、今でいうとクラウドファンディングのようなサービスが一つの受け皿として成立するのかもしれないけど、やはりそれだと「2」「3」の金銭的支援が物を言う。本当は、宮廷画家よろしく、ハプスブルク家のような大金持ちがアイドルを支援したらいいのにって思う。もしくは、『M-1』や『キングオブコント』のような無名の存在をスターにさせる舞台装置があれば、純粋に歌やダンスを頑張っている子に光が当たるような気もする。

 「徳井さんをはじめ、何人かは僕らのことを褒めてくれましたけど、褒める人がいなかったら俺たちは辞めてましたよ。ヨシモト∞ホールのライブでも、ランキングに入れずに昇格できなくて、もがいていたんですから」

 とは、シソンヌのじろうの言葉だ。そんな日の目を浴びなかった彼らが、『キングオブコント』で優勝し、今では毎年全国ツアーを開催する、押しも押されもせぬコントの名手になったのは、周知の事実だろう。彼らのような存在が、アイドル界にもいるはずなんだよね。

 『徳井健太のアイドル理論』では、アイドル界のシソンヌを誕生させるような場所を作っていきたい。名振付師や往年の名アイドルたちが審査をしたりしてさ。ゆくゆくは、天下一武道会のように、全国津々浦々から誠実なアイドルだけが集うコンテストができたら最高だよね。参加資格は、“真面目”のみ。真面目にアイドルをやっている子しか出られない大会――。こうなると狂気を感じるから、ワクワクするよね。

◆プロフィル……とくい・けんた 1980年北海道生まれ。2000年、東京NSC5期生同期・吉村崇と平成ノブシコブシを結成。感情の起伏が少なく、理解不能な言動が多いことから“サイコ”の異名を持つが、既婚者で2児の父でもある。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。