戦後最悪の日韓関係をいかにすべきか(中)【長島昭久のリアリズム】


 日韓関係は、前回の寄稿からさらに悪化しています。なんと韓国政府は、勢い余って遂に日韓GSOMIA(軍事情報包括保護協定)までも破棄してしまいました(11月23日に失効)。事態は、日韓関係を超え、米韓関係をも破壊しかねない想定外のレベルに達してしまいました。

 日韓関係の将来を考える前に、日韓GSOMIA破棄の地政学的なインプリケーション(影響)を考えておかねばなりません。GSOMIAは、その名のとおり秘密保護に関する取り決めです。その取り決めがあって初めて機微な軍事情報が日韓間でやり取りできるようになるのです。朝鮮半島情勢をにらみ日米韓の緊密な連携が不可欠と考える米国が日韓両国へGSOMIA締結を強く働きかけた所以です。よく破棄は締結されたほんの3年前に戻るだけだから大したことではない、などと訳知り顔で述べる方がいますが、とんでもない話です。GSOMIAは日米韓安全保障協力の「紐帯(ちゅうたい)」ともいうべき重要な協定なのです。それは、朝鮮半島有事を想定すれば明らかでしょう。ハドソン研究所の村野将研究員が指摘するように、韓国軍と連合して即応態勢を維持する在韓米軍は、「後詰」の在日米軍がなければ十分に機能を発揮できません。在日米軍は自衛隊の支援が必要不可欠です。したがって、日韓の軍事的「紐帯」を断ち切ってしまえば、在韓、在日米軍の戦力発揮が困難に直面してしまいます。だから、日韓GSOMIA破棄に米国が激しく反発しているのです。

 しかも、今までは北朝鮮の核やミサイル情報が3国間のやりとりの大半を占めていましたが、今後は、中国やロシアに関する情報なども日米韓で緊密に共有することが期待されていました。今回韓国政府は、この可能性を潰してしまったのです。しかも、GSOMIA破棄を繰り返し求めてきたのは北朝鮮であり中国でした。つまり、韓国は、日米との関係よりも中朝(露)との関係を優先させてしまったのです。これは、地政学的には極めて由々しい事態です。古来、朝鮮半島は、ランド・パワー(中露など大陸国家連合)の磁力に引き寄せられる傾向を持ってきました。それが、1950‐53年の朝鮮戦争以来、38度線を挟んで南の韓国と米国が同盟関係を結び(米軍を駐留させ)、日米同盟(および在日米軍)と連動させることにより、韓国を日米を中心とするシー・パワー(海洋国家連合)に引き込んでパワー・バランスを維持してきたのです。

 今回の韓国政府の判断は、この地政学的前提を大きく突き崩すものです。つまり、今後の推移次第では、我が国(および米国)の安全保障の根幹を揺るがす可能性を排除できません。日韓関係の将来を考えるということは、この最悪の事態を想定した近未来を念頭に置いて我が国の安全保障戦略を練り直すということと大きく重なります。この続きは、次回詳しく論じたいと思います。

(衆議院議員 長島昭久)
【長島昭久プロフィール】
自由民主党 衆議院議員(6期)。1962年生まれ。慶應義塾大学で修士号(憲法学)、米ジョンズ・ホプキンス大学SAISで修士号(国際関係論)取得。2003年に衆院選初当選。これまで防衛大臣政務官、総理大臣補佐官、防衛副大臣を歴任。2019年6月に自由民主党に入党。日本スポーツ協会理事、日本スケート連盟副会長兼国際部長。