気鋭のジャーナリストとノンフィクション作家がトークイベント 宮下洋一、河合香織が語る「命」は誰のものなのか

「安楽死の是非は慎重に考えるべき」と語る宮下
 宮下は、主人公の女性に対し「僕はその人の生き方自体にすごく惹かれて、最後まで追ってみたいという思いがあった。もし同じ病気を持つ違う人を取材した場合、同じ判断に至ったかは分からない」。さらに「一般的には痛みたくないからこそ安楽死を選ぶわけですが、彼女は痛みや苦しみだったら耐える覚悟はできていた。なぜこのタイミングを選んだのかというのは、もし病気が悪化して言葉が発せられず身体も動かなくなった時に、日本では安楽死が法制化されていませんからずっとベッドで暮らす状況になったと思うんですが、彼女の生き方からするとそれが本当に耐えられなかった」と推し量る。

 また、河合が「スイスの医師による『私もあなたのような病気を抱えていたら、同じ決断をしているわ』という言葉はすごく踏み込んでいるが、どういう気持ちで発せられたのか」と問うと、宮下は「この医師はもともと緩和ケア医だったが、自分の父親が病気で身体が動かなくなった状態で自殺未遂をして、ある団体で自殺ほう助をさせてもらっている。安楽死を施す医師にはそういう背景があると思います」と答えた。また、世界中の患者を受け入れるスイスで、さまざまな死生観に触れて医師が葛藤する例や、アメリカでは医師は処方箋を与えて実行は本人が行うが、失敗する事態が発生している例などを報告した。

『安楽死を遂げた日本人』は、宮下の前著を読んだ多系統萎縮症を患う日本人女性の「安楽死をスイスにて行うつもりです」というメールから始まる衝撃作。
『安楽死を遂げた日本人』
【著者】宮下洋一【発行】小学館【価格】本体1600円(税別)
<<< 1 2