【徳井健太の菩薩目線】第53回 セオリーや理論って、ときに説教じみている。夢中になるからゾーンに入る



 新年早々、「AbemaTV」の『新春オールスター麻雀大会2020』に出場した。著名人24人(3人一組×8チーム)が、Mリーグルールで24時間真剣勝負をし続ける狂った麻雀大会。腕が鳴ったのは言うまでもないよね。

 麻雀で勝つためには実力と運、双方が必要だ。理論派と言われてる人たちは、オカルトチックな論法を信用していない。でも、俺は時にそういったオカルトチックな戦いが必要になると思っている。そういう摩訶不思議があってほしいと願っているだけなのかもしれない。

“亜空間殺法”なるものがある。プロ雀士である故・安藤満氏があみ出した麻雀の戦法だ。亜空間殺法は、鳴き(チー、ポン、カン)を活用してツモ順を変化させたり、流れを変える戦法――と伝えても、麻雀が分からない人には、まったく意味が分からないだろうから、簡単に説明する。

 一言で言えば、卓を囲む雀士の運を変える、という手段。「嘘くさい」、そう思った人は正常だ。先述したように、勝つためには実力に加え、運が求められる。仮に自分に運がなくても、相手の運を変えてしまえば、風向きは変わるかもしれない。麻雀は4人で打つわけだから、順々に牌を取ることになる。その順番は最後まで変わらない。つまり、自分がどの牌を引くかは、あらかじめ決まっていることになる。Aさんから始まるならば、

 Aさんは1(つ目の牌)・5・9/Bさんは2・6・10/Cさんは3・7・11/Dさんは4・8・12

 という具合に、何手先の牌を引くかは変わらない。これをクラッシュさせるのが、亜空間殺法だ。鳴くことで自分は牌を取らずに済むため、次の人に“自分が引くはずだった牌”を引かせることが可能となり、決められた順序を変えることができる――結果、巡ってくるはずだった牌が変わることで、運気をイレギャラーなものにしてまうというわけだ。

 セオリー通りに考えれば、そのまま牌を引いた方が勝率は上がるかもしれない。でも、今自分は負け続けていて、このままこの牌を引いても悪運が付きまとうのではないか……だったら、その悪い流れを他者になすりつける。何か予感めいたものや流れを変えるために、本能に従って(鳴くことなどで)空間を入れ替える。本当に効果があらわれるかは分からないから、理論派からは毛嫌いされる。桃鉄でわざわざ特急カードを使ってキングボンビーをなすりつけに行くのとは勝手が違うわけで、卓上には理論や統計があるわけだからね。だけど、運というものは見えないだけで、キングボンビーのような憑き物が牌に付いているのだとしたら、その牌をあえて他者に引かせるのも、俺は必要だと考える。


夢中=必死=ゾーン、すなわちチャクラ開眼



 セオリーや理論って、ときに説教じみている。カラオケで演歌を歌っているとする。気持ちが乗って、ポップスのようにアレンジして歌うのは、その人の自由だ。ところが、演歌に詳しい人は、「演歌の意味、分かってます? それって演歌じゃないですよ」などと言い出す。セオリーや理論で考えればその通りだけど、“気持ち”を考えれば、そんなことは二の次でいい。存分に楽しんでいるかどうかが大事であって、いちいちセオリーを気にしていたら没入できなくなる。

 俺にとって麻雀も似たようなものだ。没入するためには、セオリーなんか気にしている暇はない。相手から見れば理解不能、悪手に映っても、自分は必死なわけだから、それが悪手かどうかも分からない。あの手、この手、亜空間で攻めたてる。必死だからこそ、没入状態……すなわちゾーンに入ることができるんだ。

 手前味噌だけど、『新春オールスター麻雀大会2020』の俺は、まさにそれだった。心の奥底で、理論派を黙らすほどの本能を爆発させてやろうと思っていた。そんな無駄かもしれない気概に加え、不眠不休で麻雀を打っているチームメンバーの他二人を見ていると、特に仲が良いわけでもないけど「勝ちたい」と思えてきて、気が付くと必死になっていたんだ。だから俺は、自分がどう打っていたか、覚えていない。

 何かに夢中になるって状態は、裏を返せば必死ということ。理論やセオリーを越えて、あらゆる手段で向き合っている。「これは違うかな」「これは確率的に低い」、そんなことを頭がよぎっているとしたら、それは夢中になっていないってことだよ。夢中になったら、新しいチャクラが自ずと開く。だからこそ、ワケの分からない亜空間殺法よろしく、説明不能な切り札を隠し持っていた方が良い、と俺は思う。夢中になったとき、きっとあなたの新しい扉を開く鍵になる。

 ……まぁ、『新春オールスター麻雀大会2020』では、最後の最後に、俺以上に水崎綾女さんがとんでもないチャクラを開眼したため、俺は敗れ去ったけど。でも、帰り際、昔お世話になった麻雀好きのディレクターから5年ぶりくらいにLINEが届いてさ。「徳井さんの麻雀を見ていたら、学生のとき麻雀が楽しかったのを思い出しました」って。
どんなに些細なことでも、誰かに届くのって、うれしい。夢中って大事だよ。

※【徳井健太の菩薩目線】は、毎月10日、20日、30日更新です
◆プロフィル……とくい・けんた 1980年北海道生まれ。2000年、東京NSC5期生同期・吉村崇と平成ノブシコブシを結成。感情の起伏が少なく、理解不能な言動が多いことから“サイコ”の異名を持つが、既婚者で2児の父でもある。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。公式ツイッター:https://twitter.com/nagomigozen
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