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時が経って感じ方が変わるものもあれば不変のものもある『Defiled−ディファイルド−』

2017.03.26 Vol.687

 2000年にアメリカ・ロサンゼルスで、刑事コロンボでおなじみのピーター・フォークとテレビで活躍していたジョン・アレキサンダーによって初演された濃密な二人芝居。

 図書館員の若い男が歴史ある図書館に立てこもる。理由はその図書館の目録カードが破棄され、コンピューターの検索システムに変わることへの抗議。男は建物を爆破するつもりなのだ。交渉にやってきたのはベテラン刑事。刑事は緊迫した空気の中、巧みな会話で心を開かせようとするが、男は拒絶。しかし会話の中で徐々に男の深層心理が明らかになり、2人の間には奇妙な感情が生まれてくる。果たして刑事の説得は成功するのだろうか…。

 タイトルのDefiledというのは「気高く、神聖なものが汚されること」という意味。2人の会話を聞くうちに、我々自身、時代に流され無意識のうちに多くのものを手放し、無自覚なままに物事の本質から目を背けてきたことに気づかされる。

 日本では2001年と2004年に大沢たかおと長塚京三によって上演され、強烈なイメージを残した。それから13年が経ち、今回は新キャストでの公演。

 社会情勢もモノの価値観も大きく変わり、受け取る側の意識も随分と変わったなかで、戸塚祥太と勝村政信がどんな作品に仕上げてくれるのか。

  東京公演の後は大阪(5月10?12日)、福岡(5月19?20日)でも上演される。

時が経って感じ方が変わるものもあれば不変のものもある かさなる視点—日本戯曲の力— Vol. 2『城塞』

2017.03.26 Vol.687

 新国立劇場ではシリーズ「かさなる視点?日本戯曲の力?」と銘打ち、今年3月から、昭和30年代に執筆された日本戯曲の3つの名作を30代の気鋭の演出家によって上演している。今回はその第2弾。安部公房の『城塞』を上村聡史が演出する。

 同作は戦後17年が経った1962年に書かれたもので、戦争によって富を築いたブルジョア階級の責任を問う安部公房の痛烈な視点が際立つ作品。

 舞台は敗戦から17年後のある富裕層の邸。そこに住む男、その父、男の妻、家に仕える従僕、そして男に雇われた若い女による不可思議な“ごっこ”が繰り広げられていた。彼らは敗戦の記憶を持ちながらそれぞれの立場からの利己的な主張をぶつけ合うのだが、それによって、彼らのバランスが危うい状況へと変化していくのだった。

 ここで語られる特権階級意識や戦争観、愛国心といったものが過去のものととらえられるのか、もしくは身近な感覚としてとらえられるのか…。見る者の“感度”が試されることになる。

 ちなみにこの「かさなる視点?日本戯曲の力?」では3月に谷賢一が三島由紀夫の『白蟻の巣』(公演は終了)、5月には小川絵梨子が田中千禾夫の『マリアの首 ?幻に長崎を想う曲?』を演出。5月13日には3人の演出家と同劇場の芸術監督を務める宮田慶子氏によるシリーズを振り返るトークセッションを新国立劇場にて開催する。

劇団Rexy第4回公演は人気BLコミックが原作

2017.03.23 Vol.686

 

 女性向けのアダルトコンテンツに出演するイケメン俳優「エロメン」たちを中心に結成された劇団Rexyの第4回公演『晴れときどきわかば荘』の上演が23日から始まった。

 本作は羽生山へび子原作の人気BLコミックが原作。

 物語の舞台となるのは女装ママが管理するアパート「わかば荘」の前でママが経営する小料理屋「わかば」。このわかば荘の住人たちは、夢をあきらめていたり、借金取りに追われていたりと、ちょっと癖のある男たちばかり。ある日、そこに入居希望のリーゼントの男子高校生がやってくる。彼は実は同級生の男子高校生に恋をしているのだった…。

 この男子高校生ばかりではなく、昔の友達、先輩後輩など至るところで繰り広げられるイケメンたちのボーイズラブは必見もの。

 とはいえそればかりではなく、同性ゆえのすれ違いや思い込みといった感情の揺れを描きながらも、カラッとしたラブコメディーに仕上がっている。

 出演は有馬芳彦、井深克彦、北野翔太、鶏冠井孝介、深澤恒太、矢島八雲、金子直弘、浅井陽登、松原隆司、染川祐一郎、島津健太郎。

 26日まで、渋谷のDDD青山クロスシアターで上演している。公演の詳細は劇団Rexyホームページ(http://rexy.tokyo/)で。

治るはずのないがんは、なぜ消滅したのか—『がん消滅の罠 完全寛解の謎』

2017.03.16 Vol.686

 2017年第15回の「このミステリーがすごい!」大賞の大賞受賞作は、医療本格ミステリー。日本がんセンター呼吸器内科の医師・夏目は、余命半年の宣告をした肺腺がん患者の病巣がきれいに消えていることに衝撃を受ける。実は他にも、生命保険会社に勤務する友人から、夏目が余命宣告をしたがん患者が、リビングニーズ特約で生前給付金を受け取った後にも生存し、そればかりかがんが寛解するという事が立て続けに起こっているという事を聞く。偶然にはありえない確率で起きているがん消滅の謎を、同僚の羽鳥と共に解明すべく調査を開始。一方、セレブ御用達の病院、湾岸医療センター。ここはがんの超・早期発見、治療する病院として、お金持ちや社会的地位の高い人に人気の病院。この病院のウリは、万が一がんが再発・転移した場合も、特別な治療でがんを完全寛解させることができるということ。果たしてそれはそこでしか受けられない最新の治療なのか?!

 がん消滅の謎を追究するうちに、夏目はこの湾岸医療センターにたどり着いた。その病院には、理由も告げずに日本がんセンターを去った恩師・西條が理事長として務めていることが分かり動揺する夏目。一体、そこではどのような治療が行われ、がん患者はどのような経過をたどっているのか。また、自分の病院で起きているがん消滅の謎との関係性は。専門用語が出てくる医療物は苦手な人もいると思うが、同書は非常に分かりやすく、ミステリーとして単純に楽しめる。果たしてそのトリックが可能なものなのかどうかは、判断できないものの、非常に興味深く読め、国立がん研究センターにいたという著者の知識が存分に生かされた大胆なストーリーに驚かされる。

スゴイ“パイセン”たち『Hot Thoughts』SPOON

2017.03.16 Vol.686

 米バンド、スプーンが最新作をリリース。96年にデビューしてから着実に作品を発表し結果も残してきた彼らは、まさにUSインディの雄といわれる存在だ。そんな彼らが名門マタドールからリリースする最新作は、ミステリアスだけれども、熱があって、とても意欲的だ。プロデューサーにディヴ・フリッドマンを迎え、アコースティック・ギターのサウンドをとりあえず横に置き、バンドはまた新しい扉を開けている。とはいえ、“スプーンらしさ”はしっかりと残っていてファンを小躍りさせ続けることは必至だ。独特な世界観にぐっと引き込まれる作品。

スゴイ“パイセン”たち『All Time Best Album THE FIGHTING MAN』エレファントカシマシ

2017.03.15 Vol.686

 デビュー30周年!!を迎えたロックバンド、エレファントカシマシがキャリア史上初となるオールタイムベストアルバムをリリース。代表曲のひとつである『今宵の月のように』を筆頭に、デビューシングル『悲しみの果て』、毎年毎年桜ソングと呼ばれる楽曲が生まれていたタイミングで発表し世の中をピリッとさせた『桜の花、舞い上がる道を』、コンサートの定番『ファイティングマン』も収録。30周年に合わせて収録曲は30曲。そして価格は3000円という、ちょっとオドロキのベスト盤なのだ。

スゴイ“パイセン”たち『半世紀 No.5』ユニコーン

2017.03.14 Vol.686

 メンバーも年を重ねて続々と50代に突入。ユニコーンは、メンバーの50歳を記念してライブイベント「50祭」を行ってきた。本作は、それぞれのイベントのテーマ曲として書き下ろされたオリジナル曲2曲ずつ5人分全10曲をまとめたもの。ラップから浮遊感漂うスペースオペラ的なタイトル曲、手拍子とセミの鳴き声で歌う「川西五〇数え唄」、「新・甘えん坊将軍?21st Century Schizoid Man?」、「私はオジさんになった」など、それぞれの生きざまや今の姿をイメージしつつも、今の社会を切り取ったものなんじゃないかとも思わせられる。それがユニコーンらしい。

スゴイ“パイセン”たち『MAKE IT BE R. STEVIE MOORE 』JASON FALKNER

2017.03.14 Vol.686

 米有力紙が「ローファイレジェンド」と称する米シンガーソングライターのR・スティヴィー・ムーアと、ジェリーフィッシュで活躍したジェイソン・フォークナーによるコラボレーションアルバム。70年代から自宅録音で制作して作品を世界に向けて発表し続けてきたムーアに、バンドそしてソロとしてポップ/ロックを鳴らしてきたフォークナーのタッグは、テクノロジーに代表される分かりやすい最先端を蹴散らして、音楽が本来持っている“ステキさ”を味わわせてくれる。温もりの伝わる作品。だけど、アルバムは『I H8 Ppl』のタイトルを連呼する曲から始まる。

スゴイ“パイセン”たち『まばたき』YUKI

2017.03.13 Vol.686

 ソロデビューから15周年のアニバーサリーイヤーを迎えているYUKIが放つ最新作。YUKIと豪華な作家陣たちが手を取って作り上げた楽曲が描き出す世界はキラキラとまぶしい。とはいえ“まばたき”さえ許されないような大切な瞬間や感情が切り取られていて、作品を聞くほど胸がきゅっと締め付けられる。全速力で駆け抜けていくようなアップテンポな『さよならバイスタンダー』、月まで届きそうな伸びやかな歌声が印象的な『tonight』など全13曲を収録した本作は“私たちが好きなYUKI”のすべてが余すところなく反映されたアルバムになっているといっても過言ではなさそう。歌声、メロディーラインに加えて、ギターやホーンセクションなど楽曲のアレンジ面にも心奪われるポイントが多数あって聞きいってしまう。キュートさ、セクシーさ、そしてちょっとしたダークさ。そういった要素がぎゅっとまとめられてさく裂しているアルバムの到着で、またしばらくYUKIに夢中になりそう。

巧みな脚本と物語の裏に隠されたテーマが実は結構ヘビー? ONEOR8『世界は嘘で出来ている』

2017.03.12 Vol.686

 本作は2014年に初演され、岸田戯曲賞、鶴屋南北戯曲賞にノミネートされた、田村孝裕にとっても代表作ともいえる作品。現代の日本でも大きな社会問題となっている「孤独死」を扱ったこともあり、観劇後に深く考えさせられる作品だった。

 日常にある「嘘」をテーマに、バカ正直に生きてきた兄と嘘ばかりついてきた弟の40年に渡る人生を描く。

 舞台は、とある1DKのアパート。ある男が孤独死をした。警察の現場検証、遺体の引き取りも終わり、2人の清掃人がやってきた。これから特殊清掃が行われるのだ。実は死んだのは清掃人のうちの一人、滝口の弟だった。遺品を整理しながら、滝口は弟の人生を思い返すのだった。

 初演時のキャストがほぼ勢ぞろい。甲本雅裕が演じる兄の実直さと恩田隆一の演じる弟のどうしようもなさのコントラストが鮮やか。現代と過去を行ったり来たりする形で物語を進ませることで、2人の人生がなぜこんなにも違ったものになってしまったのかが丁寧に描かれる。そして「嘘」というフィルターを通して見ると、兄弟どちらに肩入れするかは人によって分かれそう。

巧みな脚本と物語の裏に隠されたテーマが実は結構ヘビー? MONO『ハテノウタ』

2017.03.12 Vol.686

 MONOの作品を一言で言うと、現実にはあり得ない非日常の設定の中で繰り広げられる、軽妙かつ絶妙な会話劇といったところか。

 作・演出の土田英生の描く台詞とそのやり取りは、どのような設定においてもニヤリとさせられ、クセになる。そしてその作品を熟知したメンバーたちが具現化した舞台はMONO“ならでは”としか言いようのない、とても中毒性の高いものになっている。

 今回はボーカリストの浦嶋りんこをゲストに呼ぶなど、これまでの会話劇に音楽劇の要素をプラスした新境地ともいえる作品。

 ある薬の普及で100歳間近になっても若いままの人々がいた。服用の度合いによって老け方が違うため見た目はバラバラなのだが、みな同じ年というなんとも不可思議な風景。みんなは集まって歌い、そして懐かしい思い出話で盛り上がる。しかし未来のことを語る奴はいない。それはみな今年中に死ななければいけない運命にあるからだった…。

「死を前にした元気な人間」「元気なのに未来を考えられない」??この大いなる矛盾が生み出すシチュエーションはおかしいことはおかしいのだが、むしろほろっとさせられる。

 作品中にちょっとした社会問題を潜ませるのが土田のやり方だけに、今回もいろいろ考えさせられそうな予感。

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