【徳井健太の菩薩目線】第31回 SKE・荒井優希は新しい時代のイエロー像を作り出すだろうな

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第31回目は、新番組で共演するSKE・荒井優希の姿に胸を打たれたエピソードについて。此度も独自の梵鐘を鳴らす――。
 今年の6月から、『SKE48 ゼブラエンジェルのガチばん!!』(YouTube KYORAKU ch にて配信)というパチンコ番組のMCをしている。『SKE48 むすびのイチバン!』(東海テレビ)しかり、SKEとは仕事をする機会が多い。ありがたいものです。

 昨今のパチンコ番組を見ていると、アイドルが来たところで、勉強をしていないもんだから、パチンコライターと一緒に打って、ワーワーと騒いで帰るだけ……というパターンが少なくなかった。そんな背景もあって、俺は企画段階から携わることになった。勉強不足のアイドルが好き勝手に騒いでいる姿は、アイドルファンにとっては楽しめるものかもしれない。だけど、パチンコファンの視聴者は離れていく。であれば、一人で打たせて、パチンコの緊張感を彼女たちから伝わらせれば面白くなるのでは。そうして生まれたのが、この番組だった。

 俺たちが若手の頃、お笑いライブに芸人がたくさん集まると、「誰かが盛り上げてくれるだろう」という考えが生まれ、必ず手を抜く奴がいた。こういった心理を、ドイツの心理学者・リンゲルマンは「社会的手抜き」(リンゲルマン効果)と呼んでいる。

 リンゲルマンは、綱引きを利用して実験を行い、参加人数と力の入れ具合を比較したんだ。その結果、1人で綱引きをした際の力の入れ具合を100%とすると、2人の場合は93%に、3人の場合は85%に下がり、8人の場合は1人当たり49%まで減少した。集団になるほど、「誰かが何とかしてくれるだろう」という手抜きの心理が働き、責任感も分散してしまうことを、科学は暴いているんだ。だから俺は、たった一人でアイドルがパチンコと向き合った方がいいと考えた。ゼブラエンジェルだけは、ガチ。

 リンゲルマン効果が働かないように、本放送前にどれだけやる気があるのかを見定める特別回を設けた。その中に、荒井優希というメンバーがいた。番組内では、“ゆきちゃんイエロー”として登場する。どういうわけか、やる気があるのか、ないのか……俺を含め、スタッフ全員が分からなかった。イエロー担当なのに、あんまり笑わないんだ。京都弁のはんなりした話し方のせいもあるのかもしれない。前代未聞のイエローだと思った。


「やりたいこと」と「できること」は違う。だったら、どうできるようになるか




 ところが、いざロケ当日を迎えると、ゆきちゃんイエローは信じられないような知識量を発揮した。ともに番組を進行するパチンコライターの森本レオ子さんが、「すごい……」と感嘆するほどだった。たしかに、特別回の際に「勉強はしている」と公言していた。とは言え、プロが目を丸くするほどの知識量だ。なぜ、このときに、もっとアピールしなかったのか不思議で仕方がない。

 「どうしてそんなに知っているの?」。収録後、飄々としている荒井さんに、次々と質問が飛ぶ。すると、彼女はこう言った。

 「毎日、パチンコのYouTubeを見て、勉強しました」

 “カレー食って、笑っている”、そんな陽気なイエローの時代は終わったんだ。こんな真面目なイエローがいるのかと、俺は涙した。なんという努力家、なんというチャレンジ。話を聞くと、YouTubeで勉強するという考え方は、納得できるものばかりだった。

 アイドルを生業にしている女の子が、堂々とパチンコ店で勉強をするわけにもいかない。パチスロ雑誌を購入するのだって、周囲の視線を考えれば、気が引ける。端から見れば、仕事のために読んでいるとは解釈されないだろう。そんなときに、YouTubeを通じて情報を手に入れるというのは、誰にも迷惑をかけず、誰の目も気にせずにすむ勉強法というわけだ。移動中も、知識を吸い上げることができる。

 しかも彼女は、音を消し、台の光り方だけを見て、勉強したという。TVチャンピオンに出る人の発想だ。聴覚からの情報をシャットアウトし、光り方などの細かい演出を視覚のみから叩き込んだ彼女の番組での立ち居振る舞いは、すさまじかった。と同時に、YouTubeが勉強方法のツールとして超優秀であるという事実を認めざるを得なかった。嗚呼、時代は変わったんだなって。

 収録後、荒井さんは「まだまだ満足していない」と、この先もYouTubeを駆使して勉強を続けることを宣言していた。

 「やりたいこと」と「できること」は違う。誰だって、やりたいことをしたい。でも、そのためにはできることを、どれだけこなせるかなんだ。荒井さんは、いま、「できること」をガチばん!!という番組の中で、爆発させようとしている。そして、その陰にはYouTubeといった今の時代ならではの努力の方法が介在している。荒井さん以外にも、番組には面白いSKEのメンバーがそろっている。きっと彼女たちなりの、今の時代ならではの努力の跡が見える放送になると思う。どうできるようになるか、それを彼女たちは教えてくれるはずだ。懸命に「できること」に取り組む。そういう人たちは、いつだって美しい。


※【徳井健太の菩薩目線】は、毎月10日、20日、30日更新です
【プロフィル】とくい・けんた 1980年北海道生まれ。2000年、東京NSC5期生同期・吉村崇と平成ノブシコブシを結成。感情の起伏が少なく、理解不能な言動が多いことから“サイコ”の異名を持つが、既婚者で2児の父でもある。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。