歴史的な猛暑で問われる「改革力」【鈴木寛の「2020年への篤行録」第59回】

 西日本を中心に記録的な豪雨で、200人を超える大勢の方々が命を落とされました。あらためてご冥福をお祈りします。

 残されたご家族の皆様、地域の皆様の生活再建も大変な状況ですが、被災地にこの記録的な猛暑が追い打ちをかけています。それらの地域では、避難所となる学校でクーラーの未整備が目立ちました。

 文科省が昨年6月に発表した調査によると、公立学校のクーラーの整備状況(普通教室)は、東京の小中学校の教室ではほぼ100%。しかし、死者がもっとも多かった広島は5割にとどかず、倉敷の大規模な冠水で注目された岡山は26%に低迷。四国で犠牲者がもっとも多かった愛媛にいたっては、わずか5.9%。四国4県のなかでも際立って最低でした(ちなみに香川は97.7%とほぼ完備)。死者数とクーラーの整備率に因果関係はありませんが、雨がやんだあとも避難所にクーラーがないために熱中症の心配が絶えませんでした。

 都市部と地方の財政格差は、今回のような事態で浮き彫りになってしまいます。年々、財政が厳しくなる中で、教育への投資が進まなかったことも背景にありますが、学校は教育機能だけでなく災害時の避難場所としての役割もあるわけですから、幼児やお年寄りのことも考えると、予算配分をしていく上でクーラーの整備はなんとか進めなければなりません。

 その際、財政の問題だけでなく、私たちの社会が内包する「固定観念」「思考停止」もまた低くはないハードルです。今回の豪雨が起きる以前のことですが、ときおり、政治家などから学校のクーラー設置について、「子どもの頃からクーラーに慣れては耐える力がなくなる」などと根性論を持ち出す意見までありました。財源がないことを覆い隠そうとする魂胆も見え隠れします。財源確保の工夫をなぜしないのか。いまの時代、ふるさと納税の活用や、民間からの寄付やクラウドファンディングといった発想もあるはずです。

 そもそも夏休みの存在理由として「暑過ぎるので学校を1か月あまり休む」という発想自体も、もう古いかもしれません。エアコンを完備することで、学校の年間スケジュール全体を見直し、夏休みを少し短くして勉強や課外活動の時間を増やし、地域の大人たちとの交流や、プロジェクト学習のような新展開も一案です。

 今年で100回記念を迎える夏の甲子園も炎天下で試合をする「伝統」に対し、疑問の声が広がりつつあります。この記録的・歴史的な猛暑は、私たちが社会を変えられるのか、発想力や創造力が問われています。

(文部科学大臣補佐官、東大・慶応大教授)

東京大学・慶應義塾大学教授
鈴木寛

1964年生まれ。東京大学法学部卒業後、1986年通商産業省に入省。

山口県庁出向中に吉田松陰の松下村塾を何度も通い、人材育成の重要性に目覚め、「すずかん」の名で親しまれた通産省在任中から大学生などを集めた私塾「すずかんゼミ」を主宰した。省内きってのIT政策通であったが、「IT充実」予算案が旧来型の公共事業予算にすり替えられるなど、官僚の限界を痛感。霞が関から大学教員に転身。慶應義塾大助教授時代は、徹夜で学生たちの相談に乗るなど熱血ぶりを発揮。現在の日本を支えるIT業界の実業家や社会起業家などを多数輩出する。

2012年4月、自身の原点である「人づくり」「社会づくり」にいっそう邁進するべく、一般社団法人社会創発塾を設立。社会起業家の育成に力を入れながら、2014年2月より、東京大学公共政策大学院教授、慶應義塾大学政策メディア研究科兼総合政策学部教授に同時就任、日本初の私立・国立大学のクロスアポイントメント。若い世代とともに、世代横断的な視野でより良い社会づくりを目指している。10月より文部科学省参与、2015年2月文部科学大臣補佐官を務める。また、大阪大学招聘教授(医学部・工学部)、中央大学客員教授、電通大学客員教授、福井大学客員教授、和歌山大学客員教授、日本サッカー協会理事、NPO法人日本教育再興連盟代表理事、独立行政法人日本スポーツ振興センター顧問、JASRAC理事などを務める。

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