【ライブレポート】忘れらんねえよ、恒例『ツレ伝』で見せた世界を救うパンクロック

Photo by ATSUKIIWASA

青春パンクは戦争を止めるのかもしれない



 その後『君は乾杯の時俺とだけグラスを合わせなかった』、『バカばっか』。全力で歌いながら柴田は「 あほども、ばかやろう! 愛してる! 」とフロアにさけぶ。『バカばっか』の途中で、キュウソヤマサキと同じく、柴田もフロアにダイブした。

「セイヤは細いし、どう考えてもあっちの(ダイブ)の方がかっこいい。一人じゃ勝てないからみんなでビールのところまで運べ!」と、フロアの真ん中までダイブしていって、ビールをイッキ飲みした。そんな時まで対バンと比較してしまう人間らしさに、客席は涙していたのかもしれない。柴田がその日着ていたTシャツはグレーで、汗でびっしょりなのがよく目立った。そんなところも柴田らしかった。

 終演が近づく。こうして見ているとMCしている時間と歌っている時間が半々くらいだったような気がする。「全然届かないけど、俺よ届け」と言って始まった。彼氏がいる女子のことを好きなどうしようもない男子の、どうしようもない恋の歌。真髄を見たような気がした。これが青春パンクってやつなのか… 。忘れらんねえよというバンドは、イヤホンで聴いているだけではもったいない。会場に来たら、必ずロックのゲシュタルト崩壊が起きる。おしゃれラップやシティポップが流行する日本で、 今や日本のシーンから消えかけている…これがパンクロックなのだ。

 最後の曲は『忘れらんねえよ』。暗くなった会場で、「サイリウムみたいに携帯を振ってもらっていいですか」と柴田が言った。 ぽつりぽつり、灯っていくスマホのライトは夜空の星のようだった。柴田が歌わなくても、会場が合唱した。こんな、全員を巻き込むライブがあるんですか。ひとつになっているように感じた。仕事がうまくいかない人も、 好きな子に振られた人も。 ステージ袖にいたキュウソもスマホを振っていた。壮大な景色を見ながらふと、「柴田が日本の総理大臣になったら日本は平和になるんじゃないか?アメリカの大統領になったら、戦争がなくなるんじゃないか?」そんなふうに思った。恋は、青春は、世界を救うのかもしれない。こんなことを考えたのは、10数年ぶりだった。
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不器用な代弁者が見せる壮大な愛のライブ



 あまりに壮大すぎた忘れらんねえよのライブ。そのバンド名から、誰がこんなにピースフルなライブを想像するだろうか。柴田は青春スーツを着たまま大人になってしまった人なのだ。

 会場にいた観客に感想を聞いてみた。たまたま2人の子連れ女性を見かけたので、「どうして親子で来たのか」聞いてみた。「柴田さんのようにかっこよく生きてほしい。青春時代に知りたかったから」。なるほど。こんなまっすぐな曲聴いて育ったら、まっすぐな子になるに違いない。

 後方で静かに泣きながら見ていた男女に、忘れらんねえよの良さを聞いてみた。「柴田さんが作れって言ったサークルで、一緒に肩を組んだ彼女と今年結婚した。仕事つらくてもがんばれるのは、忘れがいるから」と笑顔で話していた。なんてこった、幸せのカタマリだ。

 忘れらんねえよの美化されていない率直な曲に、救われる人はたくさんいるのだろう。恋に仕事に、行き詰まってしまった時、忘れらんねえよと柴田のライブを見に行ってみてほしい。忘れは11月に6thフルアルバムをリリースする。忘れらんねえよを知らなかった人も、この機会にぜひ聞いてみてほしい。


(文・ミクニシオリ)
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