料理人・野村友里が伝える食の醍醐味「心が満たされる“心の食”が大切」【Be Style】



 「今もターニングポイントだらけですよ」と笑うが、中でも忘れられないのが20代前半の渡英経験。料理の勉強をするために、異国の地へ飛び込んだ。

 「イギリスを選んだのは、まったく異なる環境に身を置かなければ、自分自身と向き合えないと思ったから。私は今でも留意していることがあって、それは自分が感じた疑問を見過ごさないこと。何となくスルーしてしまうと、気が付かないままで終わってしまうし、言い訳をしてしまいそうで。だからこそ、自分が感じたことを見過ごさないようにしています。このときも、自分と向き合いたかったんですよね」

 見えてきたものは、日本では当たり前だと思っていたことの尊さやありがたみ。「一人で頑張るぞー! なんて意気込んでいたけど、みんなに助けられて今があるんだなって身につまされた」と微苦笑する。

 「だしの取り方は伝えられるけど、鰹節の有効性などは伝えることができなかった。当たり前のことこそ、きちんと伝えなければいけないし、伝える力がないといけないんだなって」

 イギリスで痛感したことは、これだけではない。

 「ロンドンはヨーロッパ中の料理人が集まってくるので、ヨーロッパ各地の料理を学べる場所でもあった。とりわけ、郷土料理の奥深さを知ることができたのは大きな体験でした。各地の風土や水に寄り添うように、その土地々々には郷土料理があります。これは世界中、どこにでもあるんですよね」


食べることで得ることができる体験には横軸と縦軸がある



 2009年には、ドキュメンタリー映画『eatrip』を監督した。原宿の一軒家レストランの名称も「eatrip」。人生とは食べる旅――。

 「一口食べると、いろんなことが思い浮かべてほしいという思いがあるんですよね。その食材が作られてきたプロセスや産地などを想起してあたかも旅をしたような横軸としての体験。そして、その料理が育まれてきた過去やその先にある可能性といった縦軸としての体験。この二つを感じ取ってもらえたら」

 祖母が作ったみそ汁は、なんであんなにも懐かしいのか。母が作る卵焼きは、どうして無添加の優しさを感じるのか。食を通じて、誰しもトリップするような経験があるに違いない。「もっと食について皆で話し合いができるような場があったらいいなって思うんですよね」。そう野村さんは話す。



 Ginza Sony Park(銀座ソニーパーク)にて、5月24日まで開催されている『#007 eatrip city creatures』は、そういった思いが込められている実験的プログラム。

 「実は、銀座の地下には湧水があるんですよ。その水と、銀座という大都会ならではのエネルギーを組み合わせて何かできないかなって。水と、訪れる人々の声や街の音を栄養素として食物を育てるインスタレーションなどを展開しています。食って、いろいろな愉しみ方があるんです」

 どんなに腹が立っていても、どれだけ悲しくても、お腹はすく。人生は、食べるという行為なしでは成立しない。飽食と叫ばれている中で、食をおそろかにすることこそ、一番“もったいない”ことかもしれない。

 「自分のいる場所によって、食べたいものって変わりますよね。弱肉強食みたいな場所にいれば、やっぱりお肉を食べてエネルギーを補充したくなる(笑)。私たちの心は、そのまま食と結びついているところがある。だからこそ、単に食べるだけではない食の魅力をもっと伝えていければと思っています。心が満たされるような“心の食”。私自身、提案していきたいし、皆さんも関心を抱いてくれたらうれしいですね」


アクティブオーガニック「Be」presents「BeStyle」は、TBSラジオで、毎週土曜午前5時30分~6時にオンエア。radikoでも聴取可。詳しくはHPを参照。
https://www.tbsradio.jp/be/

また、当日の模様は、以下のYoutube「Be Style」チャンネルからも視聴可能。
あなたの「なりたい」が見つかるかも――。
https://www.youtube.com/channel/UCtEhEgJPGJQ9IX4y5vbmESw/featured

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