真琴つばさが語るトップスターの責任感 「羽の重さの分だけ、喜びと重みがある」



「小学校5年生のとき、宝塚が大好きだった私の親友が『ベルサイユのばら』に誘ってくれたんです。当時は、プログラムのうしろに台本があったんですけど、帰る途中、ずっと友だちと読み合いっこをしていたことを覚えています」

 自身の宝塚の原点を、そう真琴さんは元トップスターらしいクールかつ美声なトーンで振り返る。「でも、原点はもっと子どもの頃かも……」。それ以前に意外な始点があるという。

「数年前に親戚から教えてもらったのですが、私が1歳半のときに、親戚と一緒に、有楽町の阪急百貨店に行ったらしいんです。屋上階にビアホールがあって生バンドが演奏していたのですが、演奏後、私が勝手にステージに上がって踊って歌い出したと聞いてびっくりしました。もしかしたら、そのときから宝塚を意識していたのかもしれない(笑)」

 当初、真琴さんの両親は宝塚への進路に反対していた。

「大学受験も合格して、実は進学する大学も決まっていたんですよ。でも、諦めきれなくて」



 宝塚音楽学校の入学試験は、毎年3月末に行われる。応募資格期間は、義務教育終了(中学卒業)から高卒までの年齢(15歳~18歳)。受験のチャンスは最大4回。高校卒業時、真琴さんにとってはラストチャンスだった。

「一次試験が受かったとき、両親から「これでいいだろう」と言われたんですけど、どうしても宝塚に行きたかった。子どもの頃の夢って、すごいパワーがあると思うんですよ。中学時代の成績は、平均以下でまったく良くなかった。でも、高校生になって「宝塚に行くんだ!」って目標も持ってからは、どういうわけか途端に成績も伸びて、クラスの2位まで上がったんです。夢や目標を持つことって、いろいろな部分に作用するんですよね」

 1983年、第71期生として宝塚音楽学校に入学。大学ではなく、夢を選んだ。しかし、道のりは優しいものではなかった。

「トップスターになるためには、入場券みたいなものがあるんです。新人公演というものがあって、そこで主役になれないとトップスターへの道は拓かれない。入団してから7年目までが新人期間になるのですが、私は7年目の最後にその入場券をいただくことができた。それまでは本当に……暗黒時代(苦笑)」

 1期下に紫吹淳、2期下には姿月あさと、そして同期には元花組トップスターの愛華みれがいた。スター候補がひしめき合う中で、入学試験同様、ラストチャンスで切符をつかみ取る。「先にトップスターになったのは私だったけど、愛華みれはいつも私の先を歩いていました」と、感慨深そうに笑う。

 トップスターについて話が及ぶと、こう語る。

「一番最後、フィナーレの最後に登場するのがトップスターと呼ばれている人。出演者全員がトップスターの私を迎えてくれているので、私しか客席にいるお客さんを見ることができないし、客席からの無数の視線が注がれる。喜びもあるけど、責任感もすごい。羽の重さの分だけ、喜びと重みがある」


実はもう少し早く退団する予定だった



 真琴さんは、月組トップスターに就任した4年後の2001年に、宝塚歌劇団を退団する。退団が頭をよぎった瞬間は、どんなときだったのだろうか?

「宝塚に入って一度も辞めたいって思ったことがなかったんですよ。後輩に追い抜かされて、袖で出番を見ていたときも、やめたいとは思わなかった。初めてトップスターという立場になって、紫吹淳さんが二番手にいたとき、「そろそろかな」って予感めいたものがありました。舞台上でアカペラで歌っていたとき、突然、客席 、舞台、私の三方に光が降り注いで天に上がっていくような瞬間があって……そのとき、「いつ辞めてもいい」って思ったんですよ」

 退団時、当時宝塚史上最多となる1万人のファンに見送られ、宝塚を去ったエピソードは有名だ。

「辞めるときは、自己申告です。覚悟を持って理事長室に行くんですけど」、そう話し始めると、思わぬ裏話があったことを明かす。

「 「お話よろしいでしょうか」と伝えてイスに座ろうとしたとき――。イスに座る瞬間って、ちょっと気持ちが緩むじゃないですか!? 今まさに腰を下ろそうとしたときに、理事長から「辞めたらあかんで」って言われて、「この瞬間にそれ言う!?」って(笑)。その一言で、覚悟が崩れちゃって、“辞めます”という自分の気持ちを強く押すことができなくなってしまいました……。あのとき、覚悟が崩れてなかったら、もう少し早く退団していたかな」
 退団後は、バラエティなどでも大活躍の真琴さんだが、今年二月には、大阪松竹座にて『喜劇なにわ夫婦八景』の舞台が控えている。上方落語の巨星、桂米朝の素顔と弟子たちと喜怒哀楽がつまった共同生活を、妻である中川絹子の視点で描いた本作。真琴さんは、メインである中川絹子を演じる。

「私自身もとても楽しみにしていて、素晴らしい舞台だと思います。現在進行形で、関西弁の特訓をしているのですが、エセ関西弁にならないか、それだけが心配の種(笑)」

 一方で、役作りのために、「体づくりと心づくりが大切」と語る。

「私の場合、体と心を整えておかないとダメなんですね。極端な人間なので、ここ数か月の間に、クラシックとモダン、さらにピラティスを習いに行っていて、ついには合気道にも通うようになってしまった! 不思議なもので、合気道のときに言われて分からなかったことがピラティスで分かったりする。理解や感覚が循環していくんですよ。表現こそ違うけど、どれも心が散漫にならないように整えてくれる」

 だからと言って、無理に習い事や稽古をする必要はないと朗笑する。

「本来私は、自分から体を動かすことがすごく苦手なんです。だけど、やっぱり心が教えてくれる瞬間がある。皆さんも、「体を動かさなきゃ」って思うことがあるはず。でも、体を動かさなきゃいけないときって、自然と心が教えてくれる。変に焦らないで大丈夫」

 最後に、「好きな自分になるためには?」、そう聞いてみると。

「感謝かな。私は、寝る前に「今日も一日ありがとうございます」と口にしてから寝ます。寝るときだけじゃなくて、近くの神社を通るときなども、「今日もありがとうございます」って口に出して通り過ぎたりします。宝塚時代の後半くらいから、こういった習慣を心がけているのですが、瞬間、瞬間を生きているって、本当に奇跡的ですごいこと。きちんと言葉にすることって、大事だと思うんです」

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