日本で唯一のそうめん研究家!「ソーメン二郎」が語るそうめんの魅力

 連日の猛暑に巣ごもり需要……いつにも増してそうめん気分が高まった今年の夏。まだまだ残暑が厳しい中、日本で唯一のそうめん研究家であるソーメン二郎さんに、改めてそうめんの魅力について語ってもらった。
日本で唯一のそうめん研究家、ソーメン二郎さん(撮影:堀田真央人)
 普段はイベントプロデューサーのソーメン二郎さん、「ソーメン二郎」誕生のきっかけは?

「『ソーメン二郎』を名乗って6年目になります。僕は三輪そうめん発祥の地、奈良県桜井市で生まれました。親戚が製麺所をやっていて、小学生の頃からお手伝いでお中元の伝票を書いたり発送の手配をしたり、木箱を運んだりしていたんです。ところが近年はお中元の需要が徐々に減少していく中で、職人さんの高齢化や後継者不足などが重なり、どんどん衰退していくそうめん業界の状況に危機感を抱いていました。現に毎年多くの製麺所が廃業していて、このままだと10年後には半数近くに減ってしまうでしょう。

 そうめんは1200年の歴史がある奈良県の名産品で、僕はずっとそうめんを食べて育ってきました。その文化が僕の代で終わってしまうのはあり得ない、そのために自分は何をしたらいいのかと考えるうちに、そうめんの魅力を伝えるキャラクターを作りたいな、とぼんやり頭に浮かんだんです。その後、たまたま編集者と飲んでいた時に、自虐的にそうめん業界の話をしたら『それは面白い』と言って、すぐに原稿を書いてくれました。『明日、記事をアップするので名前を考えてほしい』と連絡が来て、夜中だったのでラーメン二郎をもじってソーメン二郎でいいか、と(笑)。その記事で初めて『ソーメン二郎』を名乗ったら、凄まじい反響があったんです。

 記事を読んだ人から『私もそうめんが好きだ』『ソーメン二郎頑張れ』といった応援の声をたくさんいただきました。そうめんは国民全員が知っている食べ物ですが、他の麺類のような専門店は少なく、食べ方がワンパターン、家庭では手抜き料理と言われるなどネガティブな話題ばかりでした。でも流しそうめんをしたりお中元で贈ったり、と愛されてもいる。そういうそうめんの魅力を、僕が面白く伝えていけばいいんだと『ソーメン二郎』としてPR活動を始めたんです」

 今年は例年に比べてそうめんの需要が高まっていると聞きます。

「ステイホームによってお家で食事する機会が増え、そうめんの出荷量は昨年より20%程度拡大しているそうです。感染症とそうめんの関係は古く、1200年前に遡ると奈良県では天然痘や飢饉が猛威を奮っていました。三輪山の大神神社(おおみわじんじゃ)で宮司の子息が、疫病や飢餓に苦しむ市民の救済を祈願したところ神の啓示があって、その地にまいた小麦を石臼で挽いて湧き水で延ばし糸状にしたものが三輪そうめんの起源だと言われています。

 歴史的には、過去に一度だけそうめんブームが起こったことがあるんですよ。江戸時代に僕の生まれた三輪地方はお伊勢参りの宿場町で、全国から三輪に泊まりに来た人が三重県に向かい、お伊勢街道をひたすら歩いていきました。ですからお伊勢参りに訪れた人は三輪そうめんと伊勢うどんの両方を食べていて、三輪そうめんは細くて美しくおいしいぞと評判になり、製造技術が各地域に伝わって全国に広がっていったのです。もともとは寺院や宮中で食べられていたものですが、豊臣秀吉が姫路城に入った時に播州の煮麺(あたたかいそうめん)でもてなされ、その頃からそうめんが庶民の口にも入るようになったと言われています」
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