村上春樹に親近感!?売り切れ続出「文學界」ジャズ特集をジャズ喫茶で語る

 1933年創刊の老舗文芸誌「文學界」11月号(文藝春秋)が、文芸誌初のジャズ特集として145ページの総力特集「JAZZ×文学」を組み、発売から2日で重版されて話題を呼んでいる。発売直後の10日には、四谷のジャズ喫茶「いーぐる」にてオンライントークセッション 「ジャズ×文芸」が行われ、今号に寄稿したジャズ評論家・編集者の村井康司、「いーぐる」店主の後藤雅洋、音楽評論家の柳樂光隆の3人が語り合った。ジャズを知らなくても楽しめるジャズ談義の一部をお届けする。
写真左から「いーぐる」店主の後藤雅洋、音楽評論家の柳樂光隆、ジャズ評論家・編集者の村井康司
 巻頭では、村井が作家の村上春樹にロングインタビューを敢行。その昔「ピーターキャット」というジャズ喫茶を経営し、作品にも頻繁にジャズが登場する村上が、テナーサックス奏者のスタン・ゲッツとジャズについて語っている。

村井康司(以下、村井)「巻頭のインタビューは、村上春樹さんが個人的に一番好きなジャズミュージシャン、スタン・ゲッツがテーマです。昨年、村上さんは彼の伝記を翻訳して(新潮社刊『スタン・ゲッツ―音楽を生きる―』)、そこからスタン・ゲッツの話、あとはジャズ喫茶のカウンターでマニアのおっさん2人が話しているような、そんな対談です。村上さんは高校生の頃、中身を知らずに初めてスタン・ゲッツの『フォーカス』をジャケ買いして、その頃はジャズ喫茶でスタン・ゲッツをリクエストしにくかったという話がありました。60年代のジャズ喫茶にはそういう雰囲気が?」

後藤雅洋(以下、後藤)「僕がジャズ喫茶を開いたのは1967年ですが、その頃から新譜ではないけど『ゲッツ・オー・ゴーゴー』『ゲッツ/ジルベルト』は流行っていて、うちの店でも嫌になるほどリクエストがありましたよ。ただ『フォーカス』は、当時はほとんど話題にならなかったんです。久しぶりに聴いたら、かなりいいですよね。すごくサウンドが今っぽくて、今、新譜として出ていてもおかしくない」

柳樂光隆(以下、柳楽)「ちょうど今年、イギリスのサックス奏者がこのアルバムをカバーしたんです。62年のアルバムだけど、一周回って再評価されていますよね。編曲家のエディ・ソーターはソーター&フィネガン オーケストラの人で、CDを買おうと思っても買えないほど昔の人じゃないですか? 春樹さんはリアルタイムでどう聴いてたのかな、という感じがしますよね」

後藤「あの頃はいろんなアルバムが出ているような状況じゃなかったから、選んで買ったのではなくそれしかなかったんでしょうね。当時は全然売れていなくて、少なくともジャズ喫茶で聴いたことは一度もない」
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