「エリックサウス」稲田俊輔が語る池波正太郎『むかしの味』考

8月20日、稲田俊輔『おいしいものの語り方 〜食を巡る「言葉」の変遷〜』@ジュンク堂書店池袋本店

ふせんだらけの課題図書『むかしの味』を手に池波の食に対するこだわりを語る稲田俊輔

稀代の「フードサイコパス」が食と言葉の集中講義!

 南インド料理店「エリックサウス」の創設者で飲食店プロデューサーの稲田俊輔が、初のエッセイ集『おいしいもので できている』(リトルモア)の番外編として、池波正太郎著『むかしの味』(新潮文庫)などの愛読書から食を巡る言葉の変遷を語り尽くす配信イベント「おいしいものの語り方」が開催された。主催はジュンク堂書店池袋本店。

 会場に愛読書の数々を持ち込んだ稲田は『むかしの味』について「最初から最後まで昔=いい、今=悪い。これだけなんです」と一刀両断、なぜ池波がこのような主張をするに至ったかを読み解いた。

「『ポークソテーとカレーライス』という一篇の〈旨いんだけれどねえ、若い連中のは旨さが同じだね。そうおもわないか?〉。池波先生は日本の洋食が大好きで、最近の若者たちがフランスで修行してフランス料理店を開いているのがどうもお気に召さない。次の『鮨』でも〈また、いまのように、小さくにぎった飯へ厚切りのマグロが被いかぶさるようになっている鮨は東京になかった。〉」と、ホワイトボードに現代の高級鮨と昔の鮨のネタとシャリのバランスを図解にする。

「鮨はネタが大きくなる方向に向かって進化を続けて今に至るわけですけど、池波先生はこの時点でそういう傾向にあることが気に入らないと表明しているわけです」

 さらに「京都」の描写を例にイノダコーヒ、コンパル(名古屋)、神谷バー、ランチョン、大船軒(鎌倉)各店のサンドイッチを画面共有し、池波の考える「男が食べるサンドイッチ」とは何なのかを考察。最高にお腹が空きそうな描写として「ポークカツレツとハヤシライス」の一節を紹介した。

〈ソースをたっぷりとかけて、ナイフを入れると、ガリッとコロモがくずれて剝がれる。これがまた、よいのだ。

 コロモと肉とキャベツがソース漬のようになったやつを、熱い飯と共に食べる醍醐味を、

「旨くない」

 という日本人は、おそらくあるまい。〉

 稲田は「今は業務用のバッター粉というものがあって、衣全体がずるっと滑落していったりしない。衣のはがれに対して持てる愛情は時代や技術の変化によって変わってきているが、そもそもカツレツの原型になったシュニッツェルは肉と衣の間にぷっくりと空洞が空く料理。カツレツの衣ははがれても尊いものですので、今後の人生で衣がはがれても悲しむ必要も怒る必要もなく、はがれを楽しんでいただきたい」と解説。

 後に続く山の湯の宿で食べたという一夜置いて冷めたカツレツの描写を「想像するとうまいのかどうか分からなくなってくるが、なぜかうまそうと思わせる説得力がある」と称えた。

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