池上彰氏『ぼけます』続編「介護はきれいごとばかりではいられないと伝わる」両親の老いを撮った信友直子監督のプロ根性に感嘆

 

 映画『ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~』の舞台挨拶が26日、都内にて行われ、信友直子監督とジャーナリストの池上彰氏が登壇。本作で描かれる“家族の老い”について語り合った。

 東京でディレクターとして働く信友直子監督が、広島県呉市で暮らす認知症の母親と、耳の遠い父親の生活を、ドキュメンタリー監督であると同時に実の娘として“家族の老い”をありのままにとらえ、高い評価を得たドキュメンタリー映画『ぼけますから、よろしくお願いします。』(18)の続編。

 ゲストの池上氏が「実は(映画の舞台の)呉に3年間、住んでいたことがありまして」と言うと、信友監督も「池上さんがいらっしゃった呉通信局はうちの実家から徒歩1分くらい。おそらく子どものころ池上さんにお会いしていると思う」と偶然の縁を明かした。

 池上氏から続編製作のいきさつを聞かれると信友監督は「前作を公開するころ母が脳梗塞で倒れ、信友家の状況も変化しました。そうなるとディレクターの業として撮らずにはいられなかった」と振り返った。

「プロとして家族を撮るのは大変だったのでは」と尋ねられると、監督は「私は根っからこの仕事が好きなんだと思います。例えば父と母が大げんかするシーン、娘としては割って入らないと、と思われるだろうが、そういう気持ちは1ミリも無かった。あの時初めて母から“写真ばかり撮らないでよ”と言われ、母からカメラが見えなきゃいいだろうと、ふすまを閉めてカメラを回し続けたんです。人間としては失格なのかもしれないけどディレクターとしては興奮する場面でした」。

 池上氏も「業界用語で“おいしい”カットが撮れたということですね」とうなずきつつ「長年連れ添い、いたわり合ってきた夫婦でも、こういう状況になるときれいごとばかりではいられないのだと伝わる貴重なシーンだし、ここでカメラを回し続けたのはすごいプロ根性だと思いました」と感嘆。

 それでも、一時帰宅をした母・文子さんの表情に、みるみる感情がよみがえるシーンには「自分もあのときは泣きながら撮っていました」と、感情を揺さぶられながらの撮影だったことを明かした信友監督。

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