芸術の都、パリでスリに遭った日本人アーティストが伝授する今年の傾向と対策?!

セーヌ川(著者撮影)

列車内でスリに遭う…犯人は子ども?! 「目をつけられた」理由と対策は…

 パリはしかし、残念ながら治安が良い街とはいえない。帰国する日、スリに遭った。昼前に空港に向かおうと地下鉄から高速鉄道RERに乗り換える際、列車に乗った瞬間に、目の前にすっと手が伸びてきて行く手を阻まれた。横を見ると髪の短い10歳ぐらいの少年が立っていた。これは深刻なトラブルに巻き込まれたと瞬時に悟り、腕を振りほどいて後ろを向くと、大きな瞳の小さな女の子が僕の背中のリュックのポケットを開けて財布を盗んでいた。なんとかせねばと思い彼女に近づくと、すぐに財布を返却し、英語で「なにも盗ってないから。中を確認して」と言いながら、逃げるようにホームに降りた。そばには一味と思しき、目を閉じている老女もいた。財布の中を確認すると、確かになにも盗まれていないようだった。そもそも現金はほとんど入っていなかった。電車を降りてこの窃盗団を警察に突き出そうかとも考えたが、その前に扉が閉まった。少し肌が黒いロマ(※インドを起源とする流浪の民のルーツを持つ少数民族)の3人組のようだった。

 しかし、少女はなぜ財布が入っている場所を知っていたのだろうか? 地下鉄からRERに乗り換える時の改札で、リュックから財布を出して交通カードを取り出したのだ。あの行動を見られていたのだろうと確信した。朝から宿周辺の平和で美しいエリアを散策して気分が良くなっていたのだが、完全にスリや治安のことを忘れていて無防備だった。大いに反省した。そして驚いたのが、列車が次の駅に着きドアが開くと、男が1人乗り込んできて「警察だ。さっきここにスリがいただろう。なにか被害はなかったか。財布の中身は大丈夫か?」と聞かれた。誰かが通報したのだろうか、それともホームのカメラにでも映っていたのだろうか。実は数年前にパリに来た時も、同じように帰国日に荷物を持って地下鉄に乗ろうとした瞬間、4人ほどの黒人の集団に囲まれて、ズボンのポケットに入っていたiPhoneを盗まれたことがあった。盗まれた時はまったく気づかず、なんてテクニックなんだと感心しつつ、後を追いかけたら、なんとか取り返すことに成功した。

 事件はほんの数十秒の間に起こる。電車の扉が開き、閉まるまでの時間だ。犯人は閉まる前に盗むものを盗んで電車を降り、被害者は電車に取り残されて、犯人を追うこともできず途方に暮れる。僕は2回とも運良く取り返すことができたが、やはり盗まれないことが一番なので、予防策としてスリに目をつけられないように、財布を簡単に手が届く場所に入れないこと。リュックやカバンの奥に入れるか、財布を持たないというのも手段の一つだろう。クレジットカードと現金だけコンパクトにまとめて、パスポートなどと一緒にスーツケースなどに入れておく。大きめの荷物を持った一人の観光客は狙われやすいのではないか、と感じた。僕はこれまでに北米、南米、ヨーロッパ、アジアの20カ国以上を訪れたことがあるが、スリに遭ったのはフランスのパリだけだ。

 パリは治安が悪いといっても、殺人や強盗などの凶悪犯罪が多い国ではない。日本とは異なる環境であることを理解し、注意すべきところだけしっかり注意すれば、世界で最も美しい街の一つであり、人生を豊かにしてくれるような、素晴らしい思い出が作れるはずだ。僕も機会があれば早く、またあの街に戻りたいと思っている。
小林真里(映画評論家/映画監督)