【徳井健太の菩薩目線】第12回 “お笑いはみんなの力で作るもの ”と再認識させたSKE48山内鈴蘭のすごさ

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第12回目は、2018年徳井的事象ランキング3位として、“お笑いはみんなの力で作るもの”と徳井氏に再認識させたSKE48の山内鈴蘭のすごさを語る――。



 俺が、お笑いを好きな理由の一つに、お笑いはみんなの力でやるものっていう部分がある。コント番組はみんなで作り上げるものだし、ダチョウ倶楽部さんの団体芸もそう。個人戦であると同時に、団体戦の側面をはらんでいるから、お笑いは面白い。

 2017年から「SKE48 むすびのイチバン!」(東海テレビ)というバラエティ番組でMCをやらせてもらっているんだけど、アイドルを見るたびに、お笑いに匹敵するくらい彼女たちもまた個人戦と団体戦の中で生きている人種なんだなって痛感する。だから、俺はアイドルも好きなんだろうね。

 俺たちは、毎回SKE48のメンバー2~3人とロケに行くんだけど、その日は山内鈴蘭というメンバーと一緒だったの。吉村チームはおにぎりを作って、徳井チームはデートをしながらおにぎりのテーマソングを作るって構成だったんだけど、山内鈴蘭は徳井チームとして行動を共にすることになった。

 曲を作らなければいけないから山内鈴蘭と話し合った結果、俺がラップをして、彼女がクリーンボイスで乗せてくるみたいな2MCスタイルを踏襲することにしたわけ。そこそこ本格的な出来だったから、吉村や他のSKEのメンバー、商工会の皆さんの前で発表すると、なかなか良いリアクションで驚いてくれてさ、俺もうれしかったの。

 ところが、その後よ、問題は。

 披露した後に、町長さんみたいな人が感想を述べてくれたから、俺はフリースタイルよろしく、かぶせる形で町長にパンチラインを叩きこんだんだの。で、スベッタの。「あ~調子に乗ったな」って反省して下がったら、

 ドンッ!

 ってぶつかった。振り返ると、山内鈴蘭が俺を追い越す勢いで、めっちゃ前にきていて、彼女とぶつかったんだ。どういうわけか?

 あの子は、2MCスタイルを踏襲して、町長の前でクリーンボイスを炸裂させる気が満々だった。「徳井の後は、私だ」って。そんな山内鈴蘭の姿勢を見て、「なぜ俺は後ろにこの子が控えているのに、適当なタイミングでスベッたと認識して後ろに下がったんだ」と激しく後悔した。そのままスベッていても、山内鈴蘭がハイトーンボイスでかぶせてきたらウケていたに違いないのに……お笑いにはみんなの力が欠かせないって謳っておきながら、俺は何をやってんだ、と。

屍を拾ってくれるような信頼感を忘れちゃダメだよ

 俺は山内鈴蘭とは面識がないから、その日が初共演といってもいい。そんな彼女が、情けない俺の背中のゼロ距離にいたってのは、ものすごい胆力と才能だよ。スベリかけの芸人の後に、けつを持ちにいくって、そうそうできるもんじゃない。そのときの山内鈴蘭の目は、一直線に町長に向かっていた。

 まるで俺が見えていないような感じ。切っ先には町長ただ一人。「フリースタイルダンジョン」で4人目として登場してきたときのR指定みたいな目をしていた。もうステージにいる町長しか見てない。だけど、どこか散っていったモンスターたちの屍も拾いに来たみたいな決意が感じられる。屍の俺は痺れたよね、山内鈴蘭の姿に。

 同時に、団体戦の信頼感を再認識したの。「フリースタイルダンジョン」も、個人戦なんだけど、モンスターたちは団体戦という意識で戦ってるじゃん? だから、俺、好きなんだろうな。お笑い、アイドル、フリースタイルダンジョンが好きなのに、団体戦の信頼感を忘れてしまった俺は、あのとき背後から登場した山内鈴蘭の、効果演出のスモークでしかなかった。「次のモンスターはこいつだ!」って振られて、モンスターが登場するときの「プシューーッ!」っていうスモーク、あれがあのときの俺だよ。情けないなぁ。

 やっぱりアイドルってすごいよね。そして、そういった信頼感をお笑いの世界でも、もっと意識しないといけないなって思った。意識していたはずなんだけど、薄くなってきているのかもしれない。それって、もしかしたら今のお笑いの構造が、どこかゆるくなってきているのもあるのかもしれないね。

 分かりやすく言えば、昔って関西の芸人と関東の芸人って、どこかギスギスしていたよね。結果的に、チーム感というか、独特の雰囲気があった。何も、昔のように仲が悪くなることを望んでいるわけじゃないよ。ただ、骨を拾いに行く感っていうのが希薄になっているような危惧を抱くの。アイドルやフリースタイルダンジョンのモンスターたちのような、けつを持ちにいくような感覚は忘れたくないなって。

 俺個人は、2019年のお笑い界は、そんな雰囲気を持っている芸人……武骨だったり無頼だったりする奴、ある意味では教科書通りにやらない奴らが、頭角を現していくんじゃないかって思う。これは次回に話そうか。

 みんなも、どこかで団体戦の意識を持って生活や仕事をしてみたらいいと思う。その方が、個人の力って発揮できるもんだよ。屍を拾ってくれる奴がいるから、全力でぶつかれたりするんだよね。

◆プロフィール……とくい・けんた 1980年北海道生まれ。2000年、東京NSC5期生同期・吉村崇と平成ノブシコブシを結成。感情の起伏が少なく、理解不能な言動が多いことから“サイコ”の異名を持つが、既婚者で2児の父でもある。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。

※「徳井健太の菩薩目線」は毎月10、20、30日に更新予定です