コロナ禍で複業時代到来?「ずっとやりたかったこと」に挑戦する人も!【パラレル・副業からの起業】

 DXの波、働き方改革、そして新型コロナウイルス感染症…さまざまな変化が押し寄せる中、パラレルキャリアや副業を通して収入の安定化を図る人や自己実現を目指す人が増えている。複数の仕事を持つ意義とは。起業という未来へつながる“複業”の形を追った。

<Startup Hub Tokyo丸の内コンシェルジュ> 解説・大森渚(おおもり なぎさ)中小企業診断士。株式会社オージュ・コンサルティング 代表取締役。アパレルブランド「Cherry et Cacao」の立ち上げ、運営も行っている。

<兼業・副業を認める人事制度の導入時期> 兼業・副業を認める人事制度が「ある」と回答した人事担当者への調査によると、同制度の導入時期が「1年以内」および「3年以内」という回答が全体の 72.7%を占めており近年で急速に副業容認の動きが進んでいることが分かる。  一方で、従業員の兼業・副業を認める制度を導入していないと回答した企業は50.5%(n=1648)、さらに制度がないと回答した担当者への調査によると、60.9%が「制度導入の検討はしていない」と回答している(株式会社リクルート コーポレートサイト調べ「兼業・副業に関する動向調査2020」公開データ集より)。

近年、企業の副業意識も急速に変化

■「パラレルキャリア」と「副業」

 一般的に、仕事に複数の軸を持つことがパラレルキャリアの定義とされています。会社に勤めながら副業をするケースもあれば、1つの事業者が2つの事業を持つケースもそれにあたると思いますし、本業とは別の仕事に無償で携わる場合も含まれます。「副業」はどちらかというと副収入を目的としたもの、「パラレルキャリア」というと今いる会社では生かしきれていない強みやスキルをもう一つの仕事で生かす、という使われ方をしているようです。

■パラレルキャリアで起業するメリット

 1つに、収入の安定性が得られること。パラレルで起業した人の中には、2つ目の仕事にしぼりたいと思っている人も多いのですが、その事業が収益化できるようになるまでの期間が発生すると思うので、固定の収益になる今の仕事を残しながら、自分がやりたい仕事をすすめていけるのは大きなメリットです。2つ目に、自分が本当にやりたいことと向き合える、スキルや情熱を生かせる場を持つのは人生を長く見たときにとても有意義だと思います。

 2つの事業でそれぞれ関わり合う人が違うため異なる刺激や人脈を得られるのも大きいですね。実は私自身も普段は中小企業診断士の資格を生かしてコンサルティング事業を行いつつ、アパレル業を営むパラレルワーカーなのですが、コンサルの場合、会う方のほとんどは同業者か経営者、アパレル業だとショップのバイヤーさんやデザイナーさんなど、まったく異業種の方々と知り合うことができています。同時に、コンサルのクライアントさんが、アパレルの仕事でコラボ仲間になるなど、双方の人脈をそれぞれの仕事に生かすこともできています。

■近年のパラレルキャリア・副業の変化

 起業相談を受けていて副業を認める企業が増えてきたという実感があります。相談者の中にも、今は会社に勤めているが自分のやりたいことで起業したいという人は多く、以前だと“副業は大丈夫なんですか”と確認していましたが、今はご自分から“うちの会社は副業OKなので”という人が増えました。被雇用者側にしても、会社が5年後10年後にどうなるか全く予想がつかないという状況ですから、収入の安定を図りたいという背景もあると思いますし、企業側にしても、いつまでも従来のような形で従業員を抱え続けられるかという問題もあります。

 また、副業の規定も緩くなってきたように思います。今までは就業時間中に副業に関係する作業は厳禁という感じでしたが、今は本業に支障がなければよい、規定を越えなければよいなど、かなり緩い会社も増えているようです。

■助成金とパラレルキャリア・副業

 厚生労働省による働き方改革推進支援助成金は副業も視野に入ったものになっています。また、小規模事業者持続化補助金など小規模事業者向けの助成金を活用し副業で起業するケースもあります。東京都の創業助成金も、いくつか条件はありますが、副業での起業だからといって対象外になることはありません。

■パラレルキャリア・副業での起業を目指す人にアドバイスを

 私も相談を受ける際、なるべく今の仕事を続けながらの起業準備をおすすめしています。もし時間の問題で、両方同時に行うことが難しいのであれば、例えば雇用状態を正社員から業務委託の形に変えてもらうなど、会社に迷惑をかけず少しでも安定した収入を確保し続ける形が望ましいです。会社と良い関係性を保っておくことも重要で、つながっておけば独立した後もメリットは大きいです。作業の上では、限られた時間を有効に使うことが大切です。自分がやらなくてもいいことはチームにやってもらう、クラウドソーシングを活用するなど、自分が動けない時もビジネスが止まらない体制を早々に整えておくことが重要です。

 パラレルで起業するのであれば、もとからの仕事で安定した収入を確保しつつ、テストマーケティングなど準備期間をしっかり設けることもできますし、起業したいという人の多くは、本当にやりたいことを持っている人がほとんどですから、もやもやしているくらいならチャレンジしてみてもいいのではと思います。

株式会社エンファクトリー 代表取締役社長・加藤健太(かとう けんた)…リクルートを経てAll About創業に携わる。株式会社エンファクトリーを分社化し代表に就任。

「専業禁止!!」という人材ポリシーを持つ経営者の思いとは

「エンファクトリーは2011年に〈All About〉から分社化したのですが当時、大企業でも先が見えない時代を迎えるなか、僕らも1つの仕事に縛られるリスクを意識し、社員がやりたいことがあるならその挑戦を応援する姿勢を持とうと立ち上げのメンバーで話していて、それなら“複業OK”とするより“専業禁止”まで言ったほうが面白いよねと、そんなノリで生まれたフレーズなんです(笑)。今では半数近くがパラレルワーカーです。もちろん絶対に複業しないといけないわけではないので、やってみて合わないからやめたという人もいれば、自分のライフステージに合わせて複業をしたりやめたりという人もいます。それでもこれだけ増えたのは、複業をオープンにすることを前提としたからです。半年に一度、自身のパラレルキャリアについてプレゼンする場も設けました。このようにオープンに発信することで、他の社員への刺激も生み、本人も周囲から応援されやる気が増すというポジティブなループが出来上がっていきました。オープンになっている以上、会社の仕事にも真摯にならざるを得ないですしね。

 今、コロナの影響で世の中のスキルシェアなどのマッチングサービスの登録者も大変増えていますが、複業を禁止してもやる人はやる。働き方も大きく変わってきた今、経営者は、複業を禁止することが果たして得策でしょうか? また雇用者側も、もはや生涯雇用の時代ではないことを自覚しておくべきでしょうね。もし起業を見据えてパラレルキャリアを考えているならなおさら自分の強みやスキルを客観視することが重要です。また、若いうちなら特に、失敗してもそこから学ぶ覚悟で起業に挑戦できるのも複業から起業するメリットでしょう。僕らが主眼としているのは“生きる力を身につける”ということ。自立した人材が増えるのは会社としてもいいことです。僕からすると複業は社員自らスキルを磨いてくれる、会社がお金を出さなくていい研修のようなものですね」

 

パラレルキャリア・副業に関する最新調査

 株式会社ナレッジソサエティによる「副業の実態に関するアンケート」では「現在、副業をしていると回答したのは全体の24.2%。そのうち、副業の目的として最も多かったのは「収入の不足を補うため」(57.6%)、次いで「趣味と実益を兼ねて」(25.3%)、「スキルアップのため」(9.3%)、そして「起業のため」(6.4%)、その他(1.4%)という結果。一方、副業をしていない人のうち「副業したい」と回答した人は69.7%。そのうち副業をしていない理由として「会社が許可していない」(33.2%)、さらに「副業の始め方が分からない」(26.4%)、「よい副業が見つからない」(26.1%)「本業が忙しい」(13.1%)と続いた(2021年5月18〜19日 20代〜30代の会社員 2401人を対象)。

 株式会社マイナビによる「企業の雇用施策に関するレポート(2021年版)」では「社外から副業・兼業人材の受け入れを行っている企業」は約3割に上り「従業員シェアリングを活用したい」と思う企業は7割を超える結果となった(2021年1月14〜20日 企業の中途採用担当者1333名対象)

 また編集部による匿名アンケートではこんな本音も。「現職は福利厚生や保険もしっかりした会社なので、副業で起こした事業がまだ細いこともありパラレルをしばらく続けるつもり」(30代女性)、「小さく始めたのでまだ固定費をかけたくない。今の会社の環境が必要」(30代男性)。また、副業許可を得るにあたりトラブルにならないことを意識する人も多い。「もとの会社の人脈を副業に使ったらトラブルになり結局退社した」(20代男性)、「現職の知見を生かして独立しようとすると“競合”になりやすい。クライアントをとらないなど線引きをしたうえで副業として起業したので会社とも調整できた」(30代男性)。大変だったこととしては「家族の理解。会社を辞めずに副業で起業するということで理解を得た」(40代男性)、「業務委託の形に変えてもらったが出勤日と給与の交渉が大変だった」(30代女性)など。