“レッサーパンダの聖地”が教える市立動物園の未来と課題

 日本国内のレッサーパンダの繁殖計画を担っている静岡市立日本平動物園は、“レッサーパンダの聖地”とも言われている。現在、7頭のレッサーパンダが暮らし、あの“立ち姿”で一世を風靡した風太くんも日本平動物園で生まれたOBだ。SNSでも人気拡大中で、インスタグラム開設から2か月で10000人以上のフォロワーを獲得するなど、愛くるしい姿が大人気の日本平動物園のレッサーパンダたち。しかし、その裏には知られざる動物園の努力と、日本中の動物園が向き合わなければいけない課題があった。

「次世代に引き継ぐために動物たちに会いに行ってほしい」日本平動物園の試み 

 動物の生態や能力を、自然な姿として動物園内で誘発させることで、来園者に飽きさせない工夫をする「行動生態展示」。 日本では、旭川市・旭山動物園が先駆けと言われ、昨今は多くの動物園が行動生態展示を取り入れている。来年、オープンから50周年を迎える静岡市立日本平動物園もその一つ。レッサーパンダ(レッドパンダ)の行動展示に優れ、さまざまな姿を楽しめると来園者から人気を博している。

「レッサーパンダはユキヒョウやテンなどの天敵から身を守る習性があるため、基本的に樹木や竹の上など高いところに身を置いています。そのため、行動生態展示をするとなると立体的な環境が必要でした」と教えてくれるのは、日本平動物園・柿島安博園長。



 同動物園では、屋外だけではなく、屋内にも行動生態展示スペースを設置。大好物のリンゴを目の前で見ることができるように、来園者の視線とレッサーパンダの目線が一緒になるように、高低差を考慮して作られていることが特長だ。ちなみに、レッサーパンダの立ち姿は“威嚇ポーズ”なので、「かわいい!」とカメラを構えるよりも、嘘でもいいから「うぉっ!」と驚いてあげてからカメラを構えたほうが、レッサーパンダ的にはうれしいらしい。

「もともとレッサーパンダは四川省やネパールの山奥で暮らす動物です。そのため寒さには強く、肉球が隠れるほど毛で覆われています。反面、暑さに弱く、夏場ともなれば屋外で展示することは難しいです。温度管理された屋内では活発的に動いていますから、日本平動物園に来ていただければ、夏場でもかわいらしい姿が見れます」と柿島園長が声を弾ませるように、同動物園はレッサーパンダ飼育棟まで完備する“レッサーパンダのレッサーパンダによるレッサーパンダのための環境”が集っている。繁殖シーズンと言われる6月~7月には、モニターでレッサーパンダの赤ちゃんを見ることができるなど、スペシャルな体験もできる。

空調完備の屋内展示施設。高低差があり、のびのびした姿を見ることができる

直立不動の風太君も! 動物園の“移住”システム 

 なぜ、ここまで十分な施設が整備されているのか?

 それは日本平動物園が、レッサーパンダの血統登録(種の保存)を担う動物園だからだ。全国の動物園・水族館は、飼育指導・繁殖管理を担当する動物を飼育しているケースがある。例えば、東京都多摩動物公園であればキリン、鳥羽水族館であればラッコというように、指定の動物園・水族館が何かしらの動物の繁殖を担っていることが少なくない。言わば、その動物のプロフェッショナル動物園であり、血統登録の数は140種を越える。

 「〇〇の赤ちゃん誕生」「〇〇の繁殖に挑戦」といったニュースを目に機会があると思うが、指定動物園・水族館が血統登録に取り組んでいる成果・行程のケースであることが珍しくなく、その動物園では相対的に血統登録を担う動物の赤ちゃんが誕生することが多くなる。定期的にキリンの子どもを見ることができる多摩動物園は最たる例と言え、日本平動物園のレッサーパンダもまた然りというわけだ。

「1980年代中盤くらいから各動物園で血統登録の取り組みをする運動が起きました。日本平動物園では早くからレッサーパンダを飼育していたことなどが考慮され担当することになりました」(柿島園長、以下同)

 繁殖をすれば、当然、頭数が増える。希望する動物園があれば、繁殖目的で他動物園で飼育をしてもらう形となる。一世を風靡したレッサーパンダ・風太くんは、まさに日本平動物園から千葉市動物公園に移住したケースだ。彼は、もともと日本平動物園時代に木に寄りかかって立つ癖があったらしく、当時、寄りかかる木がなかった千葉市動物公園でもその癖を発揮して、直立不動ポーズになってしまったという。風太くんに流れていた日本平動物園時代のDNAがそうさせたのだとしたら、動物園が紡ぎ出すドラマに熱いものを感じずにはいられない。

屋外の施設も広い。25℃以下なら楽しそうに動き回る

 こうして全国の動物園は、お互いが繁殖管理を行いつつ、頭数が増えることで動物園、飼育員の負担にならないように、来園者の楽しみを満たすために、そして動物たちのストレスにならないように、全国の動物園にバランスよく移住する工夫が施されている。だが、柿島園長は「すべての動物園でそれができるとは限らない」と顔を曇らせる。

「動物園は、そのほとんどが市で運営しています。市の財政が芳しくないと当然、飼育展示・繁殖管理も厳しくなる。受け入れる側も展示動物を増やしたいが、台所事情が苦しい現状がある。すると、受け入れ先が限られ、なかなか血統登録が円滑に進まなくなってしまう。静岡市は平成17年に政令指定都市に移行したことで財政負担が減り、平成24年にレッサーパンダ館をはじめリニューアルオープンをすることができました。どの動物園も行動生態展示をしたいのですが、財政面からなかなか進まないケースが多い」

 実は今、全国にある多くの動物園がオープンから50年を迎えている。1960年代と言えば、高度経済成長期の真っただ中。当時、潤沢な財政を誇っていた各市が、市民の憩いの場として動物園を続々とオープンするも、時代とともに老朽化が進行。その結果、客足は遠のき、収入は減少の一途を辿ることにつながっている。運営・管理が厳しい悪循環の中にある動物園は少なくないのだ。



再整備が求められている日本の動物園 

「日本の動物園は、再整備が求められている過渡期にあります。現在、動物先進国である欧米では、動物たちにストレスを感じさせない動物福祉の精神が根付いて、狭い檻の中に入れて動物を飼育することは、旧時代的な発想になっている。動物福祉、血統登録という観点から考えても、動物がストレスを軽減でき、のびのびと動ける行動生態展示というのは理に適っているんですね。それだけに、多くの動物園は再整備をするなら行動生態展示や生息環境展示などが必要だと理解している」

 しかし、そのお金を創出することが難しい。だからこそ、各動物園は一人でも多くの人に来てもらおうと、SNSをはじめ、創意工夫を凝らしている。日本平動物園では、アニメなどで人気を博した「けものフレンズ」とコラボを展開するなど、動物+αの試みも取り入れている。さまざまな仕掛けや、愛くるしい姿のレッサーパンダを7頭飼育する日本平動物園でさえ、来園者数は横ばいだという。人気者不在の動物園ともなれば、言わずもがなだ。

 たしかに、レッサーパンダの風太、イケメンゴリラのシャバーニなどスターが登場することで、一躍脚光を浴びる動物園もある。しかし、スター出現に頼らなければいけないという現状は、メダルを獲得したマイナースポーツが一過的に盛り上がる現象に近いものを感じる。もちろん、盛り上がらないよりは盛り上がった方が良い。だが、継続的に足を運ぶこと、動物に関心を抱くといった、本質的なことを市民や観光客が思い出すことも大切だろう。



「地元に動物園があるならば、ぜひ動物たちに会いに行ってほしい」。柿島園長が語るように、動物園を次世代に引き継ぐためにもっとも重要なことは、“動物園に行く”ことに他ならない。魅力的な動物園を作る、残すために――。我々、利用者にもできることがあるはずだ。

(取材と文、撮影・我妻弘崇)

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