21世紀型教育を知る起業家が早稲田の学生に「悲しいお知らせ」!?

「起業特論Aトップリーダーマネジメント」第8回講師:鶴谷武親氏『とんでもワークショップ』(2018年6月1日実施)
文部科学省が推進する「グローバルアントレプレナー育成促進事業」に選定されている「WASEDA-EDGE人材育成プログラム」の一環として、早稲田大学では毎回、注目のトップリーダーを講師に招く特別講義「起業特論Aトップリーダーマネジメント」を開講(6月1日まで全8回)。第8回目の講師は、一貫して教育・IT・コンテンツを切り口に企業活動や社会活動を展開し、現在ではポリゴンマジック株式会社代表取締役を務める、鶴谷武親氏だ。


21世紀の教育を再定義しよう

「今日は、皆さんに頭のストレッチをしていただこうと思っています。この授業では今までおそらくやったことがないものをやります。ほぼ全員が今日やることについては初心者ですので、皆さん今日はどうか気軽に取り組んでいただければと思っています。

 なぜ頭の体操をするのかというと、皆さんにイノベーションを起こせるような思考回路を持っていただきたいからです。そのような思考回路を持つためにどう鍛えたらいいか、というような筋トレのやり方を今日は皆さんに実践を交えつつお話ししたいと思います。

 頭の体操に入る前にまず、日本で教育を受けた方々に、悲しいお知らせがあります。皆さんはおそらくご存じないかもしれませんが、実は2000年前後、21世紀に入るかどうか、そのような時期に世界中で、主に先進国で、これからの教育というものを再定義しようという動きがありました。多くの先進国では、“こういうことを学ばないと、21世紀に教育を受ける子供たちが生き抜いていくことが難しくなるよね”、“活躍できる人材にならないよね”ということを考え、教育制度の再設計をしました。ところが、日本では伝統ある明治以降の教育制度からほとんど形を変えずに、古き良き教育制度のままで今日まで来てしまっています。ただ、世界中で21世紀型の教育制度を作ろうとしているなら我々も教育制度を再設計しようじゃないか、という動きが日本にもありました。これが皆さんご存知の“ゆとり教育”です。ところが、多くの大人の人たちがゆとり教育になって若者の頭が悪くなったというイメージを持たれてしまい結局、脱ゆとりが叫ばれ、ペンディングしている、といった状況です。やはりほとんどの人が、今まで受けた教育に基づいて生きていくというのはほぼ確実なので、人間のベースを作る教育というのは大変重要です」


21世紀の教育に必要な4つの力

「先進国をはじめとする多くの国々で設計された教育制度は、何を学ばなければならないのか、どのような力を得なければならないのか、というところで概ね一致していて、大きく分けて4分野の知識・スキルに分かれています。

 1つめがknowledge(知識)です。これは知っているか知らないかといったレベルの話です。内容としては、語学や数学といった伝統的なところから、ロボティクスやアントレプレナーシップといったところまで含まれています。ちなみに日本の教育制度でやっているのが、このknowledgeの分野です。一方世界では、knowledgeは4分野必要だと呼ばれているうちの1つにすぎません。皆さんの受けた教育の大半がこのknowledgeの分野だということになります。

 2つ目がskillと呼ばれているものです。何かというと、得た知識をどのように使うのかという、アウトプットの仕方の分野です。これの具体的な例が、想像力であったり、クリティカルシンキング、コラボレーション(協働力・チームワークで何を成し遂げるか)といったようなところです。

 3つ目がcharacter、日本の受験英語だと“性格”と訳される単語ですが、少し違っていまして“心持ち・心・気もち”と訳した方がしっくりくるような分野です。何のために自分は学んでいるのか、社会と向き合った時に直面する問題や困っている人がいたときにどのような解決方法を自分はすべきなのか、といった自分のありかたを考える分野です。これは最近日本でマインドフルネスと呼ばれているものであったり、好奇心とか勇気とかレジリエンス(折れない心)といった、何かをするときに最後まで走り続ける力を育てようというものです。これだけではなく、倫理観やリーダーシップといった、社会や組織と向かい合う力といった、心の力を高める分野でもあります。

 これら3つの分野のベースとなっているのが、4つ目の分野のメタ認知です。簡単にいうと、メタ認知とは、もう1人の自分が自分を見ることができるか、つまり自分を客観的に眺める力のことです。このメタ認知ができるかどうかが、21世紀で活躍するために大事だと多くの先進国では考えられ、メタ認知をベースに教育の再設計が行われました。

 日本では残念ながら、これらのような新しい教育の設計についてコンセンサスが取れなかったので、ここまでknowledgeにフォーカスを当てた教育制度のままで来てしまったというのが、現状です。

 最初から暗い話でスタートしてしまいましたね。もう間に合わないやと思う人もいるかもしれませんが、実はこれらのスキルの多くは後からでも身に着けられるものです。例えば、日本では何かをあきらめずに最後までやり遂げることを目的とした教科はありませんが、運動会だとか文化祭などで、先生はよくあきらめないで協力して頑張れと教えたりしますよね。実は期せずして皆さん教え込まれたりしているんです。なので、まだ間に合います」


実際に頭の筋トレを体験してみよう

「では、ここで一つ問題を出します。
 1 + 13 = 1
 この数式に一本直線を引いて正しい式に直してください。

 わかりましたか? いくつか答えはあると思いますが、最も頭の体操に効果があると思われる答えは、太い直線を式の+ 13のところを覆ってしまって 1 = 1 の式にしてしまうことです。この答えのポイントは、1本の直線の定義を考えた、ということです。つまり、前提を疑うというところがミソなのです。“直線”と聞いた時、皆さんは細い線を思い浮かべませんでしたか? ほとんどの方は、直線といえば細い線だという風にしつけられているはずです。確かにしつけというのは良い子供になるために大事なことかもしれませんが、一方で、皆さんにすごく思考の制限をかけてしまっているものなんですよね。なので、自動的に思っていることを、一回文字にしてみて、それを疑うことをすると良いです。

 私は直線を引いてくださいとだけ言い、太さや長さは指定しませんでした。まず、直線をどこに入れようかなと考えるでしょう。そこで、直線とは何かを考えてみるんです。“直線”と言われたときに、自分はその直線をどう描いているのだろう、どんなイメージなんだろうと考えると、細い線を思い浮かべていることに気付くと思います。そうしたら、それを疑うのです。本当に直線の定義ってこうだろうか? 直線の定義っていろいろあると思うが、おそらく正方形ではなければおそらく直線といえそうではないか?もしかしたら正方形も微妙に直線といえるのかもしれません。“細さ”というところから一回脱却すると、また違う可能性があることに気づく。つまり、枷をされていることに気付いて、外そうと思うことができるようになってそれを外して、実は自分はどこにでも行けるのではないかと気づくのです。

 ほかの答えとしては = のところに直線を引いて ≠ にしてしまう、などといった答えが考えられるでしょう。

 この問題を通して私が言いたかったことは、とにかく柔軟に、前例・前提を疑えということです。前例・前提を疑うためには、ある対象に対して自分がどのようなまなざしを向けているのかを知る必要があるのです。そのために、自分を客観的に見る力、自分を見つめる第3の目を皆さんに持って欲しいと思います」


21世紀を生き抜く皆さんに

「最後に皆さんにイノベーションを起こすには、どのようなことが大事なのかをお伝えして、締めたいと思います。
 イノベーションという言葉は、現在あらゆるところで使われています。大学の学部や学科の名前になったり、政府がそこに予算をつけたり、企業もイノベーションに取り組んでいたりしています。デザインシンキングなどのイノベーションを起こすためのテクニックのようなものも盛んに取り上げられています。しかし、イノベーションを引き起こすために最も大事なのは、イノベーションを起こすという覚悟の部分です。安全で、リスクの低いことをしていてもイノベーションは起こせないからです。

 イノベーションをは、今は実感できない未来を信じ切って具現化する、ということなんですよね。今は実感を持って想像できない、というのがポイントです。多くの組織や企業の中で行われるイノベーションの議論の多くは実はイノベーティブではないんです。新規事業の提案をした時に、役員や上司が何を聞いてくるかというと“これは本当にありうるか?”と聞いてくる。このような質問を満たす新規事業を考えて実行したとしても、それはあくまで“改善”であって“イノベーション”ではないんです。同じ環境で過ごしてきた人が絶対ありえないだろうと思うことが、もしかしたらとても大きなイノベーションかもしれないという可能性を殺さないで考える、そのような柔軟な思考がイノベーションには求められます。

 今ここにいる学生の方々は、既に小さい子供たちから見たらおじさん・おばさんです。世代が進むにつれて、これからどんどんデジタルネイティブの子供たちが増えてきます。物心がつく前からスマートフォンが存在する世界で生きている子供たちがどんどん大きくなってきています。そのような人たちの頭の回路がどうなっているのかは、我々には想像することしかできません。我々には彼らと同じ思考回路がないのです。

 ウォークマンの登場が、これに似た例だと思います。ウォークマンって、最初は全くニーズの無い商品だと思われていたんです。信じられないでしょう? 歩きながら音楽聞きたいと皆さん思うし、実際にやっていますよね? この話をすると、皆さんは、無かっただけでしょう? と言うのですが、本当にニーズが無かったんです。音楽というのは、みんなで聴くものでしたから。ウォークマンが出る前のテープレコーダーなどの音楽デバイスの価値は録音することと、みんなで聞くことでした。しかし、ウォークマンは録音をできなくしてみんなで聞けなくすることで、その2つの主要な価値を取ってしまいました。今は移動しながら音楽を聴く習慣がなかったなんて信じられませんよね。むしろ、それ以前は移動しながら何をしていたの? とさえ思う人の方が多いですよね。ウォークマンの偉大さというは、人類に“移動しながら音楽を聴く”というライフスタイルが無かったところにそれをもたらした、というところにあります。

 ライフスタイルが変わることで常識が変わります。これがイノベーションなんです。その変わった常識ですら、皆さんが認識した瞬間に先入観になります。ですから、皆さんは今想像できないことを想像して、どんどん実行してイノベーションを起こしていっていただきたいと思います」
鶴谷武親(つるたに たけちか)
ポリゴンマジック株式会社代表取締役。1965年横浜市生まれ。埼玉大学教養学部社会システム専攻卒。セコム株式会社を経て、デジタルハリウッド株式会社取締役、NTTドコモ子会社の取締役等を歴任。現在は早稲田大学商学研究科客員准教授、ポリゴンマジック株式会社代表取締役、メディカルフィットネスラボラトリー株式会社代表取締役会長、医療法人社団ナイズ理事等を務める。専門分野はクリティカルシンキング教育、ベンチャー経営、イノベーション、ユーザーインターフェース、ITビジネス。
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