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【STAGE】T FACTORY『エフェメラル・エレメンツ』

2017.09.21 Vol.698

 2010年の30周年以降、川村毅はひとつのテーマを掲げ、そのテーマに基づいた作品作りを長いスパンで続けている。そしてこの2017年からの数年間は「自身の原点を再考する」新作を創っていくという。

 川村は33年前、23歳の時に近未来、軍事用アンドロイドの人間への反乱を描いた『ニッポン・ウォーズ』という作品を書いた。当時としては荒唐無稽のSFでしかない話だが、今はAIと人間の共存というテーマがよりリアルになっている。そんな時代にもう一度、同じテーマで新作に取り組む。ヒューマノイド・ロボットの生命と感情を問いながら、人間というものをもう一度問い直す作品となるという。

 公演期間中の23日(土)19時30分と24日(日)13時に『ニッポン・ウォーズ』のリーディング公演もある。第三エロチカの看板俳優だった宮島健と川村が、初演と同じ役で出演するという貴重な公演だ。

【STAGE】ブロードウェイミュージカル『ファインディング・ネバーランド』

2017.09.10 Vol.698

 ブロードウェイミュージカルの新作が日本上陸。時を超えて愛され続ける名作「ピーターパン」の誕生に隠された、作家とある家族の実話を描く。本作は、ジョニー・デップの主演した映画『ネバーランド』をベースにしている。 

 舞台は19世紀後半のイギリス。劇作家のバリは父親を亡くし傷心の少年ピーターと出会い、交流を深めていく。物語の中に希望を見出して成長していく少年やその兄弟の姿から、バリも劇作家としての原点を思い出し……。

 ゲイリー・バーロウによる楽曲はドラマティックで空想想が膨らむ、『ヘアー』や『ピピン』を手掛けたダイアン・パウルスによる演出、セリーヌ・ディオンやシルク・ドゥ・ソレイユに携わったミア・マイケルスによる振付など、最初から最後まで見逃せない場面ばかり。

番外編的なオムニバス公演 ハイバイ 『ハイバイ、もよおす』 

2017.07.10 Vol.694

 昨今では作・演出の岩井秀人の人生の周辺に起きたことを題材に、人生の深淵をのぞかせるような作品を描くことの多いハイバイだが、今回はちょっとばかり趣向を変えた番外編的な公演。

ハイバイは五反田団が毎年お正月に行っている「新年工場見学会」というイベントに2007年から参加。このイベントは両劇団に出演経験のあるような周辺にいる役者が多く参加し、数日の稽古で短中編を作り上げ上演しているのだが、本公演などとは違った実験的な作品はもとより思わぬ名作を生み出すなど、噂が噂を呼び、今ではすっかりチケット入手困難な人気イベントとなっている。

 今回はこの新年工場見学会で過去に上演された中から珠玉の名作3本と岩井の書き下ろし新作一人芝居をオムニバスで上演する。

 公演以外にも「おしえて、セクリ先生!」(2日18時)、「ハイバイシンポジウム」(3日14時)、「抽選どもども」(8日14時)、「ハイバイコメンタリー」(10日14時)と4回のプレミアムイベントを開催(イベントの詳細はハイバイのホームページで)。全体的に肩から力の抜けた感じの公演になっている。

過去作品を再創作するシリーズ『きゅうりの花』

2017.07.10 Vol.694

Cucumber+三鷹市芸術文化センターPresents土田英生セレクションvol.4『きゅうりの花』

 この「土田英生セレクション」は劇作家・演出家の土田英生が過去に上演した自作品を、自ら主宰するMONOとは別の枠組みで自身が望む俳優たちと再創作しようという企画。

 4回目となる今回は1998年に初演された『きゅうりの花』。「利賀・新緑フェスティバル」に関西の集団として初めて招へいされ、土田英生とMONOの名を全国に知らしめるきっかけとなった作品だ。その後、2002年に全国各地で上演され、今回は15年ぶりの再演となる。

 物語の舞台は後継者の不在や嫁不足に悩む過疎の町。ある日、町の活性化を図るためのイベントとして、地元に伝わる民謡をアレンジした踊りを東京で踊ろうという話が持ち上がる。住む者たちのこの土地に対する思いはさまざまで、そんな思いが交錯するなかイベントの当日を迎えることになるのだったが…。

 良質な会話劇であるのはもちろんなのだが、初演時より登場人物の年齢を上げ切実さを増すことで、より強い社会性を持った作品となっている。

萬斎が満を持して演出を手掛ける 世田谷パブリックシアター開場20周年記念公演 『子午線の祀り』

2017.06.25 Vol.693

 世田谷パブリックシアターは今年開場20周年を迎えたことから、4月からさまざまな「開場20周年記念公演」を行っており、本作もそのひとつ。

 戦後の日本演劇界を代表する劇作家・木下順二の「平家物語」を題材とした不朽の名作で平家物語の一ノ谷から壇ノ浦までを平知盛と源義経を中心に描いている。

 1979年の初初演時は、総合演出者の宇野重吉のほか能の観世榮夫らさまざまなジャンルの重鎮が演出に名を連ね、ジャンルを越えて壮大な一本の作品を作り上げた。本作においてはこの時期を「第一期」、観世榮夫らが演出を務めた1999年の新国立劇場公演と2004年の世田谷パブリックシアター公演を「第二期」としているのだが、今回の上演は「第三期」の幕開けとなるものとも位置付けられるといえるだろう。

 野村萬斎は第二期から平知盛役を演じ、今回、満を持して演出も手掛ける。これまで古典芸能を現代劇に融合させ、新たで大胆な手法を用いてきた萬斎が伝説と化しているこの作品にどう挑むのか…。また、これまで狂言師・歌舞伎俳優といった古典芸能の俳優が演じてきた義経役を小劇場出身の成河が演じるなど大胆なキャスティングも大きな見どころとなっている。

出世作を16年ぶりに再演 青年団第76回公演『さよならだけが人生か』

2017.06.12 Vol.692

 今でこそ青年団とか平田オリザという名を知らない演劇関係者はいないだろうし、演劇ファンでもその作品を見たことがなくても名前を知らない人はほとんどいないだろう。そんな青年団にも名前が知られていない時代というのはもちろんあるわけで、大きく知られるきっかけとなったのがこの『さよならだけが人生か』という作品。1992年のこと。当時は「そのとき日本の演劇界が青年団を発見した」といったセンセーショナルな言葉で表現された。

 その後、2000年にリニューアル上演し、今回は実に16年ぶりの再演となる。

 舞台は東京都内某所の雨が続く工事現場。ただでさえ遅れがちなところに遺跡が発見され、工事は遅々として進まない。そんななか工事現場の人々、発掘の学生たち、ゼネコン社員や文化庁の職員などさまざまな人間たちがだらだらと集まる飯場ではユーモラスな会話がいつ果てるともなく繰り広げられていた。

 青年団史上最もくだらないとされる人情喜劇だ。

本作をもって劇団を「変態」サンプル『ブリッジ』

2017.06.12 Vol.692

 青年団の若手自主企画公演を経て2007年に劇団として旗揚げした「サンプル」が今回の公演をもち、いったん劇団としての活動を休止。今後、その名称は主宰を務める劇作家で演出家、そして俳優の松井周の個人ユニットを指すこととなる。

 サンプルは結成当初は通常の演劇公演を中心に活動してきたが、時が経つにつれ、劇場ではない場所での作品作り、サンプル・クラブに代表されるコミュニティー作り、そして松井の好奇心を形にした雑誌作りなど活動が多岐に渡ってきた。

 劇団という枠ではくくり切れなくなった今、劇団の展開を試行するなかで10周年の節目を契機に劇団を「変態」させ、第二形態を目指すこととなったという。

 今回の作品のテーマは「宗教」。コスモオルガン協会という架空の新興宗教団体の信者たちを描く宗教劇。彼らを通じて集団と宗教、現代という時代に宗教に何ができるのか、といった問題があぶり出される。

 今後、サンプルに所属していた劇団員たちが松井の作品に出演することもあるだろうが、多分今まで通りではない。また過去の公演は1つとして映像化はされていないだけに、これまでのサンプルを感じる最後のチャンスとなる。

鈴井貴之の新作舞台が上演『天国への階段』

2017.05.21 Vol.691

 

 大人気番組「水曜どうでしょう」(HTB)のミスターこと鈴井貴之のソロプロジェクト「OOPARTS」が、4作目となる舞台『天国への階段』を上演。今回のテーマは特殊清掃員。孤独死の現場を清掃するのが仕事だ。現場は死後1年以上経ったアパートの一室。顔を背けたくなるような状況と悪臭の中、働く清掃員たち。彼らはなぜ、この仕事につき、過去に何があったのか。誰にも看取られずに死んでいった人と、その死の痕跡を最後に見る人。一見シリアスに思われるテーマを鈴井ならではのファニーでコミカルな視点で描く。

真剣にバカバカしさと人間臭さを追求 動物電気『タイム!魔法の言葉』

2017.05.21 Vol.691

 昨今ではメンバーの多忙につき2年に1回の本公演になってしまった動物電気。気がつけば来年で25周年という。主宰の政岡はじめ中心メンバーは40代半ば。しかしそんな年齢なんてものを感じさせないパワーとテンションで毎回、腹の底から笑わせてくれる。

 彼らの作品では政岡のおばさん、小林健一の“やられ役”、辻の全身タイツ、森戸のうさんくさい男といった毎回登場するキャラクターやお約束の展開がある。こう書くとマンネリと取る人もいるかもしれないが、もうマンネリなんて言葉を超越したもので、その面白さは年々磨きがかかり、いわば熟練の域。むしろ年齢を重ね、多くの時間をともに過ごしたことで、人情喜劇の人情の部分の表現が年々味わい深いものになってきた。

 今回は彼らが大好きな「プロレス」を題材に、『おじゃまんが山田君』『めぞん一刻』といった懐かしい“下宿物”へのオマージュを込めた作品。

 おっさんたちが住み着いている東京郊外にある下宿屋にある日、巨大な女性が入居する。女性は一世を風靡したプロレスラーだった。諸々の事情で金に困っている住人たちはこの元プロレスラーを巻き込んで新設プロレス団体を立ち上げようとするのだが…。

“近所のおもしろいおじさん”たちが真剣にバカバカしさと人間臭さを追求する。

今回は新しい試みに挑戦 iaku『粛々と運針』

2017.05.21 Vol.691

 iakuは2012年に劇作家の横山拓也が大阪で立ち上げた演劇ユニット。暗黙のうちに差別的なものとして扱われる職業や場所、性的なマイノリティーなど正面からは取り上げにくい題材に切り込み、濃密な会話劇でぐいぐいと見る者を引き込んでいく。

 そのスタイルは徹底的にセリフ・会話にこだわったもので、最近ではひとつの場所、ひとつの時間軸で、ほぼ暗転を入れずに描き切る作品を多く作ってきた。となると、見る側としては台詞と役者の動き以外に情報を得る機会はなく、考える間もないのだが緻密な脚本と演出により“説明台詞”など入れることなく、しっかりと状況を見る者に伝える作りとなっている。

 なのだが、今回はこのスタイルから離れ2つの無関係の家族がそれぞれに繰り広げる議論を物語の終盤に脈絡なく合体させるという新しいスタイルに挑戦するという。

 一方の家族は治療難の病気からターミナルケア、尊厳死を望む母親について、親の命の期限を決められるのかを問われる兄弟。もう一方は妊娠を望んでいなかった妻が夫にその事実をどう伝えればいいかを悩んでいる夫婦。この2つの家族の葛藤を通じ、「死」や「生」といった「命」についてのさまざまな問題をあぶり出す。

座・高円寺で風煉ダンス『まつろわぬ民2017』。東北ツアーも敢行

2017.05.08 Vol.690

 2014年に上々颱風のボーカル・白崎映美を主演に迎え上演された風煉ダンス『まつろわぬ民2017』が5月26日から東京・高円寺の座・高円寺1で再演される。

「前回の公演が終わった時に“東北のお客さんにも見せてあげたい”という声を多くいただきました。公演後も白崎さんの『東北6県ろ?るショー!!』を手伝っていたこともあって、座・高円寺との提携公演が決まってから福島とか白崎さんの出身地の山形でツアーができないかな、と思っていたら“ぜひ呼びたい”と言ってくださる方もいて、今回、東京、福島、山形の3カ所で上演することになりました」というのは風煉ダンスの主宰で作・演出を務める林周一。

 同作は東日本大震災後、作家・木村友祐の『イサの氾濫』という小説にインスパイアされて“白崎映美&とうほぐまづりオールスターズ”というバンドを作ってライブを続けていた白崎の『まづろわぬ民』という楽曲に想を得て作られた作品。舞台は一軒のゴミ屋敷。行政によるゴミ撤去が行われようとしたその時に屋敷に住む老婆に誘われゴミたちの百鬼夜行が始まるというお話で、現在と過去の東北が絡み合う情念にあふれた作品だった。

「この芝居は東日本大震災とどうしても切っても切れない部分がある。2014年からたった3年だけれども、この3年という時間は長いようで短いもの。でもいろいろなことが変わってきている。避難指示なんかも解除されて、福島なんかも徐々に戻る政策も取られているけど、それに対してもいろいろな意見があるわけじゃないですか。でも今回の再演に関してはそういう難しい話には立ち入らないで、もっと普遍的な話、どこかの東北の過疎の町のゴミ屋敷で起こる騒動、みたいなふうに考えていたんだけど、手を付け始めると、もとが白崎さんの“東北に元気を取り戻そう”という目的で始めた東北6県ろ~るショー!!のために作った楽曲から想を得たこともあって、その根っこからは逃げられなかった。そうすると、前回の台本の甘かったところとか、実際に今では使えないところ、使いたくないところが見えてきた。キャストもいろいろと変動があったこともあって、大きな骨子、構成や流れはだいたい同じなんだけど全然違う話になった。2014年版はみんなが英雄を待っていた。そしてその英雄は帰ってくるんだけど、今回はそういうものに頼らないで自分の足で立って歩いていかないといけない、というような話になる。いわば英雄不在のお話で限りなく新作です」

 この3年間で林の気持ちの中でそういう考え方が大きくなってきた?

「3年間の間にそうなったのではなくて、自分がそういうものになっていかないといけないというところもあると思う。自分で立って、人を助けるということをやらないといけない」

 誰かに頼るのではなく、自分で立って、立てた人は誰かを助けていく。

「集団というものはお互いを頼り合って、信頼しあってやっていくものだと思うんですが、その集団論としての話の内容が僕らの風煉ダンスの現在の状況とたまたまシンクロするというか似たような感じになっているということもあります」

 最近、自主避難に関わる問題とか復興相の心無い発言といったニュースが世間をにぎわせているが、今回は特にこの話題にぶつけたわけではない。

「全然考えていなかったんですが、震災に重ね合わせて見てもいいし、全然関係なく見てもいい。あまり前情報なく見てもらったほうがいいっちゃいいのかもしれないですね」

 風煉ダンスは野外劇や既成の劇場ではないところを演劇空間に仕立て上げての作品が多いのだが、今回は座・高円寺という“The劇場”ともいえる場所での公演。

「野外とも違うしね。というか、実はだらだら長くやっていますが(笑)、きっちり劇場という空間でやるのは初めてなんです。稽古するスタジオがあって、楽屋も潤沢にあってという恵まれた環境をちゃんと使い切れるのかどうかという(笑)」

 他の劇団ではなかなか聞かない悩み。そして「来年は立川で野外劇をやりたいと思っている」という。彼らにとっては非常に“珍しい”劇場公演。果たしてどんな作品に仕上げてくれるのか。

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